編集長コラム

細川 忠宏

身体に備わった仕組みを活かすために

2022年12月04日

田畑や家庭菜園等で農薬散布時に農薬に曝されることで不妊症のリスクが高まるおそれがあるという研究報告がいくつかなされています。

また、日頃、食べている野菜や果物に残留している農薬の摂取量と不妊治療の治療成績の低下が関連するという研究報告もアメリカのハーバード大学からなされていたりします。

農薬の触れること、野菜や果物の残留農薬は、身体によくないだろうことはわかりますが、そもそも、農薬と言えども、国が使用を許可しているわけで、農薬に限らず、日常に接触する可能性のある有害な化学物質などについて、どこまで気をつけて生活すればよいのか、なかなか悩ましいところがあるように思います。

もちろん、無農薬の野菜や果物を選び、化学物質を使った洗剤や日用品、調理器具を家の中から一掃するに越したことはありませんが、そのような生活を徹底するのは簡単なことではありません。

そもそも、天然の産物にも有害な物質はいくらでもあるわけで、有害なものをシャットアウトすることは、ほぼ、不可能です。

そのため、有害なものを、一切、口にしない、有害なものには、一切、触れないようにすることは、全く、現実的ではなく、神経質にこだわれば、こだわるほど、ストレスがたまってしまいかねません。

それよりも、有害なものに対する抵抗力を高めるほうが、現実的、かつ、効果的な対策です。

最近、亜鉛には農薬曝露による妊娠する力の低下を防ぐ働きがあることを示唆する研究報告がなされています。

2013年から2018年にかけて実施された全米国民健康・栄養調査の参加者29,400人を対象に、家庭での農薬曝露と不妊症の関係を調べたところ、農薬に曝露されている人は、曝露されていない人に比べて不妊症(妊娠するまでに1年以上要する)のリスクが高く、農薬に触れることは妊娠にマイナスの影響を及ぼす可能性があることがわかりました。

ところが、食事から亜鉛を1日平均8mg以上摂取している人は農薬に曝露されていても、不妊症リスクの上昇はみられなかったというのです。

どうやら、食事から十分な亜鉛を摂取することで、農薬の妊娠へのマイナスの影響が「中和」されるのかもしれません。

この作用は亜鉛単体によるものというよりも、亜鉛が豊富な食生活は、他の栄養素もバランスよく摂取できているからなのかもしれません。

このような必須微量栄養素の有害物質の有害性の緩和作用については、これまでにも多くの研究報告がなされています。

たとえば、ハーバード大学のEARTH Studyによる報告があります。

尿中のBPA(ビスフェノールAという環境ホルモン)の濃度が高い女性は体外受精の治療成績が低くなることを確かめましたが、女性を食事からの葉酸摂取量の多いグループと少ないグループにわけると、少ないグループでは尿中BPA濃度と体外受精の治療成績との関係は変わりませんが、多いグループではそのような関連はなかったというのです。

つまり、食事で葉酸を多く摂っている女性は尿中のBPAの濃度が高くても、低くても、治療成績は影響を受けなかったというわけです。

このことから、葉酸にはBPAのマイナスの影響を「中和」するような働きがあるのではないかと考えられます。

さらに、大豆食品にも同じような働きが認められたといいます。

このようなことが起こるメカニズムについては、明確なことはわかっていませんが、環境ホルモンのマイナスの働きは、たとえば、遺伝子の発現、すなわち、遺伝子のオンオフへの影響、また、ホルモンの受容体への作用などが考えられています。

一方で、葉酸には遺伝子の発現のオンオフの調節に関与するメチル基という物質をつくることに深く関わっていることがわかっていますし、大豆食品には弱いエストロゲンのような働きをするイソフラボンが含まれていることが知られています。

そのため、葉酸や大豆食品に有害な影響を中和する作用があるとすれば、遺伝子発現やホルモン受容体に関わるものではないかと考えられているようです。

実際に動物を使った実験では、そのメカニズムの一部が確認されています。

これらの研究結果が教えてくれているのは、食べて取り入れる栄養素の働きは、通り一遍のものではなく、それらの相互作用も含めれば、数え切れないくらい多彩なものであるということです。

いろいろな食材から摂取している成分が私たちの生命活動を支えてくれていることを考えると、当然のことなのかもしれません。

まさに、自然のチカラと言わざるを得ません。

このチカラの恩恵を受けるには、野菜を、とにかく、多くの種類を毎日食べることに尽きます。

そのことが、身体に備わった仕組みを活かすことになるようです。