元々、骨の健康の維持に欠かせないビタミンとして知られていたビタミンDですが、妊娠や出産にも重要なビタミンであることが知られるようになりました。
ビタミンDが不足していると、不妊治療を受けていてもいなくても、妊娠率の低下や流産リスクの上昇だけでなく、妊娠後の母子の健康、さらには、出生児の健康にまで関連することが多くの研究で明らかになっています。
また、免疫調節にも深く関与し、昨今の新型コロナウイルス感染拡大の中、ビタミンDが不足している人は感染後の重症化リスクが高いという研究報告が相次いでなされていることから、世界中から熱い視線が注がれるようにもなりました。
ところが、そんな、大切なビタミンであるにもかかわらず、30代、40代の日本人女性のほとんどはビタミンDが不足しているというのです。
1割とか、2割というレベルではなく、9割以上の女性が不足しているということは、もはや、根本的な問題があるということに他なりません。
それは、現代人、特に女性のライフスタイル、すなわち、過剰な紫外線カット、また、ひと昔前ほどには魚を食べなくなったこと関係しているのではないかと考えられます。
ビタミンDの必要量のほとんどは、日光にあたることによって皮膚でつくられ、食品には一部の魚にしか含まれていないという極めて特殊なビタミンであるからです。
このような背景から、ここ数年で、不妊治療の際に、採血をし、ビタミンDの過不足を測定する検査を実施するクリニックが多くなりました。
そして、不足していればビタミンDをサプリメントで補充するように推奨されます。
もちろん、不妊治療は時間との戦いでもあり、サプリメントによる効率的な補充は必須です。
ただ、やはり、同時に根本的な問題であるライフスタイルにも目を向けることが重要ではないかと、これまでの私たちの経験から感じています。
なぜならば、不足度合いが大きい場合は、補充量を増やしても、充足レベルに達するのに時間がかかることがありますし、ビタミンDの吸収率に個人差があって、やはり、充足まで時間がかかることがあるからです。
また、いつまで、どれくらいの量をサプリメントで補充すべきかという悩ましい問題もつきまといます。
要するにビタミンD不足をサプリメントだけで完全に解決することは難しい面があるというわけです。
そのため、朝に太陽光を浴びて、魚を積極的に食べることを心がけ、その上でサプリメントで補充することで、確実な充足が可能になるはずです。
実際、約9,000人の日本人を対象にした研究で、ビタミンDの充足に関連している生活習慣は、運動習慣や日焼け止めの不使用、そして、鮭をよく食べること、でした。
鮭を週に1、2回食べる人は、全く食べない人に比べビタミンDの充足度が2倍であると報告されています。
日光と魚が鍵になることは間違いありません。
本当に興味深いことには、緯度が高くなればなるほど、つまり、日照時間が短くなればなるほど、近海で獲れる魚に含まれるビタミンDの量が増えるのだそうです。
一方、運動習慣や魚を食べることは、妊娠や出産、そして、トータルの健康において、有利な面が多くあることも、これまでの膨大な研究データが教えてくれています。
やはり、外で日にあたること、近くで獲れた魚を積極的に食べることを前提に、ヒトの心身の健康を維持する仕組みが出来上がっているようです。
であればこそ、ライフスタイルの変化によって生じたビタミンD不足は、ライフスタイルの改善によって予防することが理にかなっているということになります。