編集長コラム

細川 忠宏

急がば、回ろう!

2020年08月05日

卵子の質をよくしたい!、不妊治療を受けている女性が、私たちのところにお寄せいただくご相談やご質問の中で、毎日のように、口にされることです。

もしかしたら、治療がうまくいかなかった時、ドクターから「卵子の質が・・・」という説明を受けることが多いからなのかもしれません。

ただ、この、「卵子の質をよくしたい!」というのは、とてもあいまいというか、実態がないと言わざるを得ません。

そもそも、「卵子の質の低下」とは「老化現象」であり、一方通行なので、それを元に戻すことはほとんど不可能であるからです。

時計の針を戻して、若返ることが難しいのと同じことです。

そのため、「卵子の質をよくするにはどうすればよいか?」という問いの立て方そのものに、無理があり、誤解を恐れずに言えば「ないものねだり」ということになります。

それでは、ドクターから「卵子の質」のせいで妊娠に至らなかったと言われれば、もはや、なす術はないのでしょうか?

決して、そんなことはありません。

まずは、卵子の質には個体差があり、卵巣内の原始卵胞には老化が進んだ卵子もあれば、若々しく、妊娠できるだけの力を備えた卵子もあります。そして、年齢とともに、老化が進んだ卵子が増え、若々しい卵子が少なくなっていきます。

そのため、妊娠の成立の第一の要件は、質のよい卵子が発育、成熟し、排卵される、もしくは、採卵されることです。

ただし、本当に悩ましいことには、よい卵子から順に排卵されるわけでも、よい卵子を選んで採卵できるわけでもないことです。

卵子の質がよくても、悪くても、発育し、成熟するからです。

つまり、よい卵子が排卵されるかどうか、よい卵子が採卵できるかどうか、すなわち、よい卵子に巡り合えるかどうかは、たまたまであり、「運」なのです。

これが妊娠が確率論であり、授かるという表現をされることのゆえんです。

そのため、私たちが取り組むべきこと、取り組めることという観点から言えば、運良く、よい卵子が発育したら、その途中で「悪くならない」ようにするということになります。

せっかく、よい卵子が発育したのに、卵巣の栄養状態が悪かったり、活性酸素が大量に発生したりして、卵子の質が低下してしまうことを避けるというわけです。

そのためには卵子の成育環境を整えることに尽きます。

具体的には必要な栄養素(5大栄養素)が過不足なく揃っていること、活性酸素や糖など卵細胞にダメージを与えるものが過剰でないこと、血流が滞っていないことなどです。

取り組むべきは、バランスのよい食生活や適度な運動、質のよい睡眠(早寝早起き)、楽しい日常を過ごすことが基本です。

その上で、個々に必要と考えられる成分で品質の確かなサプリメント(不要なものは摂らないことも重要)を補充することです。

卵子の良し悪しや育つかどうかを、私たちはコントロールできません。

卵子は育てるものではなく、育つもの。

コントロール不能なことをコントロールしようとすることほどストレスフルなことはありません。

コントロール不能なことは素直に受け入れて、コントロール可能なことに全力を尽くし、後は天におまかせする。

急がば、回りましょう。