編集長コラム

細川 忠宏

ビタミンD不足の蔓延が教えてくれること

2020年01月06日

昨年あたりから、基本検査として血中のビタミンD(VD)濃度を測定し、不足している場合にはVDのサプリメントを処方する不妊治療専門クリニックが増えています。

それほどに、VDが妊娠や出産になくてはならない栄養素であること、そして、それにもかかわらず、ほとんどの女性が不足していることが、わかってきたということでしょう。

体外受精に臨む女性を対象にしたこれまでの研究でも、VDが充足している女性は不足している女性に比べて治療成績が高いことが明らかにされています。

さて、このVD、本当に独自の栄養素なのです。

たとえば、VDはビタミンの定義に反して体内でつくられています。それも、紫外線にあたることによって皮膚でコレステロールからつくられているのです。

また、食べ物にも含まれているのですが、野菜などには一切含まれていなくて、ほとんど、魚にしか含まれていません。

そして、この独自性ゆえに、現代の日本では、ほとんどの女性でVDが不足することになってしまったのです。

つまり、日焼け止めを塗るとVDはつくられなくなりますし、食事からのVD供給源のほとんどは魚なのですが、この15年で、30代、40代の女性の魚の摂取量は約40%も減っているからです。

妊娠や出産になくてはならないVDがほとんどの女性で不足しているという、もはや異常事態と言っても過言ではない状況は、現代の女性の嗜好というか、生活スタイルが招いていることがおわかりいただけたでしょうか。

ここで海外、それも日照時間が極めて短いグリーンランドに目を向けてみましょう。紫外線が弱く、VDをつくれない地域に住む人々は、いったい、どうしているのでしょうか。

グリーンランドの住民を対象に食事内容とVD濃度の関連を調べた研究で、伝統的な食品(アザラシやクジラ、野ガモ、魚、トナカイ、ジャコウウシ、野ウサギ)をまったく食べない人は毎日食べる人に比べて血中のVD濃度はおよそ半分だったという報告がなされています。

魚に含まれるVDの量は、なぜか、北に行けば行くほど多くなるのです。不思議なことに、紫外線量が少なくなればなるほど、今度は魚に含まれるVDの量が増えていくという関係にあるのです。VDが行き渡るように、まるで大自然の意図が働いているかのようです。

それにもかかわらず、伝統的な食事をしなくなったグリーンランドの女性、日焼け止めを塗り、魚を食べなくなった日本の女性は、自然の恩恵を受けることが出来なくなり、VDが不足してしまったわけです。

不妊治療を受けている女性にとってVDが不足しているのであれば、サプリメントで効率的に補充するのが有利であることは間違いありません。ただし、それでも、敢えて外に出て日光にあたり、少なくとも週に2、3回は魚を食べるような生活スタイルを心がけるべきです。

外に出て日にあたること、近くで獲れた魚を食べることは、単にVDを充足させるだけでなく、生殖機能をはじめ、私たちの心身にさまざまな恩恵を与えてくれるはずです。

太古の昔と現代では生活環境が大きく変わっても、ヒトの身体の仕組みは全く同じはずですから。