編集長コラム

細川 忠宏

サプリメントであればなんでもいいわけではない

2019年10月07日

10月12日から16日まで、フィラデルフィアでアメリカ生殖医学会が開催されますが、それに先立ち、学術講演会での研究発表の要約集が公開されました。

その中で、大変興味深い研究が、今年の学会の優秀演題の候補になっています。


それは、サプリメントを使った二重盲検ランダム化比較試験で、パートナーが不妊治療を受けようとしている男性に、葉酸と亜鉛のサプリメントかプラセボ(偽薬)を、飲んでもらい、精子の質やパートナーの出産率を比較し、サプリメントの効果を調べようとするものです。

具体的には、2370名の男性をランダムに2つのグループに分け、一方(1185名)には1日に葉酸5mgと亜鉛30mgを、もう一方(1185名)にはプラセボを、それぞれ、半年間飲んでもらい、精液検査や精子DNA断片化率検査、そして、パートナーの出産率を比較しています。

その結果、精子濃度や精子運動率、総運動精子数、パートナーの妊娠率や出産率には差は見られませんでした。

ところが、精子の質のほうはサプリメントを飲んでいたグループのほうが有意に低下していたというのです!

さらには、早産のリスクもサプリメントを飲んでいたグループの男性のほうが上昇したと。

つまり、サプリメントの摂取は、精子の質の有意な低下や早産のリスク上昇を招いたというわけです。

研究を実施したアメリカ国立小児保健発達研究所のグループは、少なくともサプリメントで悪くなることはないだろうという認識には根拠がなかったと結論づけています。

「サプリメントが有効か無効か」ではなく、「サプリメント摂取にはリスクがある」ということを、大規模なランダム化比較対照試験で明らかにした研究が、今年のアメリカ生殖医学会の優秀演題賞候補にノミネートされたということを、しっかりと受け止めるべきではないかと思います。

医薬品には作用だけでなく、副作用(マイナスの作用)も伴うことから、そのリスクがあっても、作用を得る必要(切実な事情)があるかどうかを判断し、使用するかどうかを決定するわけです。

ところが、サプリメントは食品なのでマイナスの作用はないだろう、それで効果があれば儲けものくらいの感覚で使われることが少なくありません。

今回の研究では、葉酸を5mg(葉酸はマイクログラムオーダーが一般的)という医薬品レベルの高用量で半年間摂取したことが問題だったのではないかと考えられます。

サプリメントと言えども、不要な成分、もしくは、不要な量を摂取すれば、期待した効果ではなく、マイナスの影響を及ぼすということを今回の研究は明らかにしました。

医薬品は医師や薬剤師が管理しています。

その一方で、サプリメントには信頼できるガイドラインはありません。

そのため、そもそも、自分たちにはサプリメントが必要なのか、どんなサプリメントが自分たちに役立つのか、そして、どんな製品を選ぶべきかまで、主治医に求めるか、もしくは、自己で判断しなければなりません。

まずは、成分の働きや適切な摂取量、使用に伴うリスクについては、最低限知っておくべきでしょうし、販売者の販売情報については、鵜呑みにせず解釈することは必須です。

もしも、主治医の推奨がなければ、判断は自分にしか出来ません。

自分のことは、自分にしかわからないからです。

誰にでもあてはまる正解はなく、個別的な正解を導く必要があります。

ただ、よくよく考えてみると、このことはあらゆることにあてはまるように思えてきます。

そして、そのことを積み重ねていくことこそが、納得感の高い治療、引いては納得感の高い生活につながるのではないでしょうか。