編集長コラム

細川 忠宏

臓器同士、細胞同士は互いに語り合っている

2019年07月08日

タモリさんとノーベル賞学者の京都大学の山中教授による司会で放映されたNHKスペシャル大型シリーズ「人体 神秘の巨大ネットワーク」を観て、久しぶりに興奮しました。

体の中には巨大な情報ネットワークがある、言い換えると、臓器同士、細胞同士は互いに語り合っているというのです。

もちろん、ホルモンの働き、たとえば、脳からFSHが分泌されることで卵巣に卵胞を育てるように働きかけ、卵胞が大きくなるとエストロゲン濃度が上昇し、FSHが抑制されることは、よくよく、承知してはいました。

まさに臓器同士がコミュニケーションをとっていると言えますが、どちらかと言えば、脳が司令塔になって、生殖機能をコントロールしているというイメージでした。

ところが、そうではなくて、司令塔はなく(脳を介さず)、臓器や細胞同士が連携し、形成されたネットワークが、人体を機能させているというのです。

驚きました。

私たちの身体のあらゆるパーツは、誰に統率されているわけでもないのに、それぞれの持ち場で働くことで、私たちの生命は維持されている、生命の誕生も例外ではなく、細胞同士の、超、緻密なやりとりで進んでいると。

私の頭の中の「人体観」が見事に書き換えられました。

たとえば、ほんの一例ですが、卵巣や精巣に働きかけているのは脳だけでなく、なんと!、骨も働きかけているというのです。

骨が刺激を受けて分泌されるオステオカルシンというホルモンも、生殖器官での生殖ホルモンの分泌を調節しているというのです。

そして、このホルモン、生殖機能を高めるだけでなく、脳に働きかけて記憶力を増強したり、膵臓に働きかけて糖尿病を予防したり、筋力を維持したりと、一言で言えば、アンチエイジング的に作用しているとのこと。

これまでは、運動は、なんとなく、身体にいい・・・なんて、ぼんやり思っていましたが、このホルモンも介在しているのですね。

目から鱗でした。

もっと言えば、運動すると、健康になり、生殖力が高まるように、ヒトのネットワークは設計されているのですね。

このホルモンの働きを発見した研究者は、ヒトという種が存続するためにはよく動き回って、獲物を確保できるだけの筋力や知力が必要だったからだと言っているそうです。

つまり、気が遠くなるような、長い長い年月が経過し、そのような特徴をもったヒトが生き残り続け、何世代にも渡る世代交代が繰り返され、徐々に徐々に、最適化されてきたというわけです。

最近、そのことを裏付ける研究報告がフランスからなされています。

原因不明の不妊症患者カップル159名と不妊症でないカップル143名を普段の生活の身体活動状況を比較しています。

その結果、男性にとっては、運動不足がよくない、具体的には、高強度の運動を週に約70分以上、1日にして約10分以上、行うことが大事である、一方、女性にとっては、座りっぱなしがよくない、具体的には座っている時間のトータルを1日に5時間未満に抑えることが大事であるというのです。

要するに、男性はしっかりとした運動習慣、そして、女性は日常生活でこまめに動くことが、それぞれの妊娠力の維持には大切だという結果だったのです。

ヒトが、ヒトとして出来上がった遠い遠い昔は、男は狩りに出て、食糧を獲得し、女は育児や家事を担うことが、生き残りに絶対に必要だったはずです。

そのため、ヒトという種が生き残るために、そんな生活スタイルが生殖力を高めることになったたのでしょう。

進化の観点から考えれば、すとんと腹落ちします。

改めて、妊娠、出産を進めるのは、生殖器官だけではなく、長い歴史の中で、全身に張り巡らされ、形成されたネットワークによるものになったのだなと、思いをはせることができます。

大切なことは、ネットワークのバランスが保たれた状態にあるということです。

そう考えれば、妊活を、妊娠に「よいか悪いか」ではなく、「バランスがとれているか」、つまり、程度の問題で、考え、取り組むことが大切ではないでしょうか。