編集長コラム

細川 忠宏

精製度、加工度の低い食品を選び、偏りなく食べる

2018年12月04日

この数年、食と生殖機能の関連を調べた研究報告が増えています。もちろん、こんな食事がよい!という結論が出ているわけではありませんが、「なにをどう食べるか」によって、妊娠する力や不妊治療の治療成績、胎児の成育に、確実に何らかの影響を及ぼすという証拠が積み上がってきています。

そして、それらの研究データをみてきて思うのは、食べること、すなわち、栄養素の摂取が生殖機能に及ぼす影響はとても複雑なメカニズムによるものであるという一方で、妊娠、出産を望むカップルが、なにをどのように食べればよいのかという観点から言えば、案外、シンプルでいいように思えてなりません。

それは、出来るだけ精製度、加工度の低い食品を選ぶこと、なんでも偏りなく食べること、この2つです。

誤解を恐れずに言わせてもらうと、この2つに全力投球すべきだというくらいに考えています。

こう言うと、食品の中には、妊娠にプラスの影響を及ぼしたり、反対にマイナスの影響を及ぼしたりする可能性のあるとされているものがあるじゃないか!と、指摘されるかもしれません。

もちろん、妊娠、出産に重要な役割を担う栄養素があることは事実ですし、環境中に放出された化学物質や重金属、殺虫剤、添加物が生殖機能にマイナスの影響を及ぼす可能性があることも、また、事実です。

それでも、妊娠によいとされているものを積極的に食べ、妊娠に悪いと言われているものを避けようとすることに時間や労力、コストをかけるよりも、なんでも偏りなく食べること、出来るだけ精製度、加工度の低い食品を選ぶことが大切だと思います。

妊娠によい食品、悪い食品という色わけなど気にすることはない、いや、だからこそ、偏りなく食べること、出来るだけ精製度、加工度の低い食品を選ぶことに全力投球すべきです。

その理由は3つあります。

まずは、栄養素は個人プレイヤーでなく、チームプレイヤーだということ。

妊娠、出産に重要な栄養素と言えども、単独で働いているわけではなく、チームで協働しています。
たとえ、妊娠に重要な栄養素だからと言って、それだけを突出して摂取しても、協働する仲間が少ないとチーム構成がいびつになり、本来の働きができなくなってしまいかねません。

そのため、チームまるごとで摂ることがポイントになります。

2つ目として、栄養素のチームワークによって有害な物質のマイナスの働きを「中和」する働きがあるということ。

たとえば、ビタミンB群はチームで、有機塩素系の殺虫剤や農薬であるDDTの生殖機能へのマイナスの影響を抑制することが、ヒトを対象とした試験で明らかにされています。

また、主にポリカーボネートの原料として食器や容器に使用され、知らず知らずのうちに体内に取り込まれているビスフェノールAには生殖機能へのマイナスの影響が懸念されていますが、葉酸や大豆食品がその影響を抑制することが、動物やヒトを対象にした研究で確かめられています。

化学物質の生殖機能への有害な影響を、栄養素チームが中和してしまうというのです。

最後に、そもそも、食事は毎日のことであり、生活に密着しているということ。

毎日、妊娠によい食品ばかり食べ、妊娠に悪い食品を食べないというわけにもいきません。

そう考えると、妊活食や妊活レシピ、避けるべき食品や添加物などの情報は、一見、ありがたいもののように見えますが、それをどのように活かせばいいのか、実際にやってみると、現実にそぐわないところがあることがわかります。

結局、出来るだけ精製度、加工度の低い食品を選び、あらゆる食材をなんでも偏りなく食べることこそ、妊娠、出産に臨むに際してふさわしく、さまざまなリスクが低くなる食べ方なのです。

栄養素が、本来の役割を果たすことができるチームは、つくろうとしてつくらるようなものではなく、自然な状態に近い食材を、なんでも偏りなく食べた結果として形成されるもののようです。

枝葉末節にとらわれることなく、食事は、偏りなく、美味しく、楽しむ、そのために生活を設計することが大切なのではないかと思います。