編集長コラム

細川 忠宏

「運次第」とどう向き合えばよいのか

2018年08月06日

私たちの仕事柄、「卵子の質をよくするにはどんなサプリメントを飲めばいいですか?」というご相談が、ほぼ毎日、寄せられます。

結論だけ言えば、「現時点ではそのようなサプリメントはありません。」ということになってしまいます。

そうなると、身も蓋もないというか、話はそこで終わってしまいます。

なので、残念ながら現実には「こうすれば妊娠できる!」というものはありませんが、だからといって、「自分でできること」が、なんにもないかといえば、そんなことはないので、生活習慣や食事、サプリメントについて、これまでの研究でわかっていることをざっくりとお話することになります。

生活習慣にしろ、食事にしろ、サプリにしろ、「これがよい!」というよりも、「どう考えて、どうつきあうのがよいか」という感じです。

そうすると、別に、「こうすれば妊娠できる!」という答えを伝授したわけでもないのに、「とてもスッキリした」とか、「気持ちが楽になった」というようなことを言われて、こちらが恐縮することがあります。

先週も、電話でそんなお話になったのですが、最後に、「これは『運』とどう向き合うかということですね」と言われ、我ながら、本当にその通りだ!と思いました。

そもそも、妊娠適齢期とされる健康な(不妊症でない)カップルが適切なタイミングで性交しても、周期あたりの妊娠率は約25%程度とされています。

妊娠するか、しないかは、つきつめれば、確率の問題、すなわち、「運次第」なわけです。

そんなこともあって、「運次第」とどう向き合えばよいのか、考えてみました。

まず、間違いなく言えるのは、たとえ、「運次第」でも、妊娠に向かって、さまざまな行為をつみあげていかなければならないことです。

「運次第」だからといって、なにもせず、寝て待っていたり、どうせ思い通りにならないんだからといって、やけっぱちになってしまっては、妊娠できるものも妊娠できなくなってしまいかねません。

であれば、自分たちは、どんな行為をつみあげていけばいいのか、そのことを考え、実行できれば、まさに、「運を味方につける」ことが出来るはずです。

それでは、どんな行為をつみあげていけばいいのでしょうか。

まずは、性交すること、それもできるだけ多く、です。

それは、たとえ、人工授精や体外受精、顕微授精を受けていても、です。

性交回数は、女性の年齢の次に、自然妊娠や人工授精、体外受精、顕微授精の妊娠率に影響を及ぼすことがわかっているからです。

妊娠率を高めることになるのは「性交回数」くらいですが、妊娠率を低下させるものはいくつもあります。

セックスレス、タバコ、運動不足、肥満ややせ、ビタミンやミネラル不足、糖質や悪い油の過剰摂取、質の低い睡眠、体内時計(生活リズム)の乱れなど、言われてみれば、誰でも知っている、当たり前な生活習慣です。

そして、このことは、女性だけでなく、男性にとってもです。

いや、妊活効果は男性のほうが効果的かもしれません。

男性の精子は毎日つくられているからです。

酸化ストレスでダメージを受け、精子DNAに傷がつくと、妊娠率が低下することは、先日のNHKスペシャル「ニッポン "精子力" クライシス」で指摘されていた通りです。

これまで見逃されがちだったことかもしれません。

体外受精や顕微授精を受けているカップルの男性パートナーは自分の努力次第で質のよい精子を提供し、妊娠率向上に寄与できる可能性があるのです。

ただし、女性にとっても、男性にとっても、当たり前な生活習慣を継続するだけで、特別なことは不要なのですが、実行するのは、言うは易し、行うは難し、かもしれません。

きっと、そうだと思います。

いろいろな努力や工夫が必要かもしれません。

だからこそ、プランが本当に適切なのか、しっかり見極めることが大切でしょう。

もちろん、それは、「自分たちできること」だけでなく、「不妊治療」、すなわち、「どこでどんな治療を受けるべきかについても、全く、言えることです。

また、当たり前なことを継続するのが難しいからと言って、手っ取り早く、サプリメントや健康食品、代替医療に頼ってみても、無駄に終わってしまう可能性が高く、お金や労力の無駄になってしまいかねないので注意が必要です。

あくまで、それらは「補助」であり、「主役」にはなり得ません。

一撃で敵を倒せる必殺技的な「魔法の杖」は存在しないことが、そもそもの出発地点であったことを忘れてはなりません。

こう書いてみると、エビデンスは、本当に、当たり前なことばかりで、特別なことはなにもありません。

大切なことは、「なに」よりも、「どのように」のようです。

もちろん、このような行為を積み上げて、最高の治療を受けても、必ずしも、妊娠や出産に至るとは限りません。

確率論であり、運なのですから。

なので、どんな結果になろうとも、その結果は「偶然」起こっているように見えても、自分たちにとっては「必然」であり、ゆくゆくは、その結果は自分たちに幸をもたらすことになるという世界観をもつことが、最終的に「運を味方に」つけることになるのではないでしょうか。