編集長コラム

細川 忠宏

二人で取り組むということ

2016年04月04日

日本の厚生労働省にあたるアメリカの保健福祉省の下部組織である国立小児健康・人間発達研究所は、妊娠する前からのカップルの生活習慣が流産の発生にどのように影響するのかを調べ、その研究結果を発表しています。

それによると、妊娠前の女性とそのパートナーが1日2杯以上のカフェイン入りの飲み物を飲むと流産のリスクが上昇し、反対に、妊娠前から女性がマルチビタミンのサプリメントを飲んでいると流産のリスクは低下することがわかったとのこと。

くれぐれも誤解しないでいただきたいのは、あくまで、流産の「リスク要因」を調べたもので、決して、流産の「原因」を調べたものではありません。ですから、カフェイン入り飲み物を我慢し、マルチビタミンミネラルのサプリメントを飲んでいれば、流産が防げるということでも、その反対でもありません。流産のリスク要因で最も影響が大きいのは女性の年齢です。また、その原因として最も多いのは胎児側の染色体異常です。いずれも予防できないものですが、そのことを理解した上で、少しでも流産のリスクを低くするのに「自分たちにできること」として、カフェインを控えたり、マルチビタミンミネラルのサプリメントを飲んだりすることがいいかもしれないということです。

さて、この研究で特筆すべきことは、女性だけでなく、そのパートナーを含めた「二人」の生活習慣を、妊娠前から妊娠前後、妊娠初期の3つのタイミングで調べ、流産の発生との関連を調べたことです。

そして、パートナーの男性の妊娠前のカフェイン摂取も流産のリスク上昇に関連したというのです。

もちろん、それは、あくまでも相関関係であり、その因果のメカニズムが明らかになったわけではありませんが「精子」を介した影響も否定できないとのこと。

最近の遺伝子工学の急速な進歩で、妊娠前の父親になる男性の食生活や体重、喫煙などの生活習慣が、「精子」を介して、遺伝子の発現の仕組みが子どもに引き継がれ、子どもの出生後の体質に影響することもわかってきました。

新しい命の誕生に際して「精子」の存在感が、ますます、増しているように思います。

妊娠に際しての精子の役割は、卵子に進入し、受精のスイッチをオンにし、分割増殖をスタートさせることだけだと、長い間考えられてきましたが、そもそも、卵子と精子のDNAが融合し、新しい命のDNAになるわけです。

であれば、受精卵や胚の良し悪しは、卵子の良し悪しと精子の良し悪しが、半分半分で、決定されることは容易に想像できることです。

その証拠に、精子DNAの損傷率が顕微授精の治療成績に影響しているというデータが蓄積されてきています。

言いたいことはここからなんですが、最近、不妊症の原因が男女半々にあること、妊活や不妊治療は二人で取り組むべきということは、多くのカップルに知られるようになってきたように思います。

ところが、具体的な行動としては、主に「男性も早く検査を受けたほうがよい」というところにとどまっているように思えてなりません。

誤解を恐れずに言えば、一緒に検査を受けることは、あくまで、効率的に治療を受けるためです。

健康なお子さんを妊娠、出産するために、本質的に大切なことは、「よい卵子」と「よい精子」が育まれるように「二人で取り組む」ことでしょう。

そのために、男性にできることで、その有効性が確かめられていることはいくつもあります。

禁欲期間を短くし、溜め過ぎないようにすること、喫煙は深酒をやめること、食生活の改善や適度な運動習慣、ストレスマネジメント、質の高い睡眠、また、抗酸化サプリメントの摂取などです。

質のよい精子を提供することが、大切なパートナーの治療努力が報われるようにサポートする最も実のある方法です。

質のよい精子と質のよい卵子を育むことこそが「二人で取り組むこと」です。