編集長コラム

細川 忠宏

書籍紹介「不妊ストレスにさようなら」

2014年11月29日

「不妊ストレスにさようなら」という翻訳本を読みました。「幸せな妊娠力を高めるマインド・ボディ・テクニック」というサブタイトルがつけらています。原著者はバーバラ・ブリツアーというアメリカ人女性で、不妊に悩む女性のために、感情を安定させ、ストレスを低減させ、妊娠する力を高めるためのセラピーやカウンセリングに携わっている方で、その手法が「マインド・ボディ・テクニック」というテクニックです。認知行動療法、瞑想、イメージ法などがベースになっていて、それを用いて、不妊経験や不妊治療のストレスを軽減しようというものです。日本不妊予防協会理事長の久保春海先生が監修されています。

━ 有効なストレス対処法はあるのか?

不妊治療は大きなストレスが伴うことはよく知られています。不妊治療をやめた途端授かることがよくあるということがそのことを物語っています。また、このメルマガを読まれている多くの方も、カウンセリングにかかったり、病院にかかるほどではないけれども、それなりのストレスを抱え、時に切れてしまいそうになりながらも、頑張って通院されていらっしゃることでしょう。

そして、どうすればストレスを軽減し、お子さんを授かることが出来るのか、いろいろと、試行錯誤していらっしゃると思います。

ただ、そこで問題なのは「なにを参考にすればよいのか」ということです。

お守りや言い伝えの類いもそれなりに意味があるのかもしれませんし、マスコミで紹介されているストレス解消法の類いも、それなりに効果があるのかもしれませんが、たいてい、気休めであったり、商品やサービスのプロモーションであったりします。

限られた時間やコストを無駄にしないためにも、私たちは「科学的な根拠」に基づいたものであるべきだと思っています。

一方で不妊や不妊治療を経験する中で最も悩ましいことの1つは「不確実性」だと思います。

そんな正解のない中では、先生にゆだねたり、特効薬を求めたりしてしまいがちですが、それはかえってリスキーです。

科学的な根拠とは、当たり前な「理屈の積み重ね」だと思っています。

身体や心の働きのメカニズム学び、頭で理解し、身体で試行錯誤しながら、自分たちにふさわしい方法をみつけていくというものです。

妊娠しやすいカラダづくりでは、食生活やライフスタイルについて、これまでの研究報告で明らかにされた食生活パターンや栄養と生殖機能の関係についての知見を日常に反映してもらえるような情報の発信を心掛けています。

そして、この本には不妊ストレスの科学的な根拠に基づいた対処法として、「マインド・ボディ・テクニック」が紹介されています。

実際にアメリカでは、不妊治療専門クリニックで取り入れられ、実際にこのテクニックを使うことで体外受精の妊娠率が高まったという論文がいくつも出ています。

また、この本の原題は「The Infertility Workbook」とあるように、知識を得るだけでなく、各テーマごとに実践編としてエクササイズも併せて解説されています。さらには、エクササイズ用のワークシートが出版社のサイトからダウンロードできます。

━ 認知行動療法とマインドフルネスに基づくテクニック

マインド・ボディ・テクニックは認知行動療法やマインドフルネスという心理療法に基づいています。いずれも耳慣れない言葉で、少々、とっつきにくい印象を持たれるかもしれませんがその世界では有名で、最近、マインドフルネスは一般的にも関心が高まっているようです。

認知行動療法は、その名前の通り、ストレスの原因になっているであろう行動パターンや思考パターンを見つけ出し、それを変えていこうとするものです。

また、マインドフルネスは、もともとは仏教の瞑想法を取り入れたもので、現実を余計な考えを差し挟まずに、そのまま認識しようというものです。

認知行動療法で行動や思考のくせを修正し、マインドフルネスで現実をありのまま認識するという、それぞれが補完的に働くというわけです。ですから、マインド・ボディ・テクニックは一時的な気晴らしや逃避ではありません。自分の不安や感情のアップダウン、人間関係を、否定したり、評価したりせず、また、スルーせずに、積極的に見つめ、認識し直し、それらとうまくつきあっていくための科学的な方法論で、言ってみれば根治療法的です。

そもそも、不妊治療のストレスや苦しみは、赤ちゃんが授からないということ、そのものよりも、主には、治療がもたらす大きな期待と結果のギャップにあるように思います。つまりは、ストレスの源は自分の中にあるわけです。そして、相手をこちらの都合にあわせてコントロール出来ないわけですから、それらへの理解を深め、こちらの認識や考え方、対処の仕方を変えていくことで、自分のコントロール感を高めていこうとするものです。

具体的に紹介されているのは、複式呼吸、イメージ法、認知行動療法、マインドフルネス、集中型の瞑想、ジャーナリング、からだとつながりからだを
いたわる、夫婦関係を改善する、自分をいたわる、などです。実際に、私たちの「ファティリティレッスン」の初期でこの方法の一部を実践し、多くの方々に喜んでいただいたことを経験しています。

━ マインド・ボディ・テクニックを身につける

このように書けば、難しそうに感じられるかもしれませんが、それぞれのエクササイズそのものは、シンプルで簡単に実践できるものばかりです。ただし、中には、難しく感じたり、あわないと思うものもあるかもしれません。多分、あると思いますが、その場合には、気にせず自分に合うものを取捨選択しても構わないようです。

それよりも、続けるということが大切だと思います。

著者は、不妊のストレスはたまっていくとして、「真剣に治療に励めば励むほど、そしてその期間が長くなればなるほど、ストレスはたまります」と書
いています。

つまり、不妊のストレスは慢性的であるということです。

不妊のストレスは、いろいろなリフレッシュ法を試してもいっこうに解消されないという女性の声を多く耳にしてきましたが、それはそのストレスが慢
性的であったからなのでしょう。反対に、この本でも紹介されている漸進的筋弛緩法や自律訓練法、マインドフルネスによるリラクセーション法を継続することによって、ストレスがたまるのと同じようにリラクセーションもたまるのだそうです。

要するに、リラクゼーションとは、単にのんびりするということではなく、適切な方法によってつくりだす身体の状態だと理解しています。

━ 一生の武器になる得るマインド・ボディ・テクニック

この本では、マインド・ボディ・テクニックを不妊によるストレスを軽減し、感情を安定させ、自分をコントロールし、不妊の悩みを克服するための方法として、実践できるように書かれています。

ただ、このテクニックは、決して、不妊のストレス対処法だけのものではありません。考えてみれば、人生は、先の予測が立てづらく、自分でコントロールできない問題だらけだと言っても過言ではありません。そういう意味では自分らしく、快適に楽しむための大きな武器になり得るのがマインド・ボディ・テクニックなのだと思います。
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タイトル:不妊ストレスにさようなら 
サブタイトル:幸せな妊娠力を高めるマインド・ボディ・テクニック
著者:バーバラ・ブリツアー
監修:久保春海
翻訳:中里京子

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