編集長コラム

細川 忠宏

高度生殖医療は「最後の砦」か?

2013年08月19日

一人目のお子さんを体外受精で授かった女性の3分の1は2年以内に二人目のお子さんを自然妊娠で授かっているという、オーストラリアのモナーシュ大学の研究者らによる最新の調査結果が発表されています。

一人目を体外受精で妊娠、出産した236名のメルボルンとシドニー在住のオーストラリアの女性に聞き取り調査をしたところ、その内の33%の女性が2年以内に二人目を自然妊娠していたというのです。

不妊原因でみれば原因不明が多かったとのことですが、それにしても3分の1という割合は、少々、驚きです。

「最初の体外受精は必要なかったのかもしれない・・・」ということが言えるのかもしれません。

ただ、当然、その時点では体外受精が必要であるという「判断」をしたわけです。

ですから、そのこともさることながら、この調査結果は不妊症というか、人間の生殖器官や生殖機能の「複雑さ」や「あいまいさ」を物語っているように思えるのです。

要するに、一人目のお子さんを切望している時には体外受精が必要な状態であったのだけれども、その後、そうでなくなるなんてことは、しょっちゅう、起こり得ることなんだと。

妊娠を妨げているのは、一般に「不妊原因」として知られているもの以外にたくさんあって、かつ、その時々で、割と変わってしまうものなのかもしれないということです。

たとえば、子宮内膜症があって、その影響で卵管が通りづらく、自然妊娠が難しかったのに、体外受精で妊娠、出産したことで、生理が止まっている間にその程度が緩和されて、自然妊娠が望めるようになることだってあるかもしれません。

また、一人のお子さんを授かったことで、夫婦ともども、気持ちに余裕が出て、子づくりのための(義務化された)セックスから解放されたり、セックスの回数が増えたりするということもあるのかもしれません。

さらに、不妊治療をステップアップしていく、その中で、次第に、自分たちの「力」に対する自信が失われたり、感じるストレスも強くなったりして、「本能」や「野生」が押し込められるようになり、その結果、本来、備わっていたはずの「妊娠する力や妊娠させる力」が低下していたのが、治療から解放されたら、それらが復活したということもあり得ます。

つまりは、身体や心の状態は、常に一定ではなく、その時々で、男女の生殖能力を大きく左右するというわけです。

で、言いたいことはここからなんです。

だからこそ、その時々で、必要と考えられる治療を受ければいいということです。

もっと言えば、体外受精や顕微授精などの高度生殖補助医療も「最後の砦」なんかじゃなく、その時々で、必要があれば受けるという考え方が大切だと思うのです。

体外受精は、女性の卵管や男性側に問題があって、卵子と精子が出会えていない場合に、確実に出会わせたり、最も強力、かつ、効率的に、卵巣を刺激し、たくさんの卵子を成熟させ、妊娠するだけの力が備わった質のよい卵子に出会える確率をうんと高めることを目的とした治療なわけです。

顕微授精は、もちろん、卵子と精子を一緒にしても受精が起こらない場合に、卵子の中に精子を注入して授精させることを目的とした治療です。

自分たちに必要なことは何なのか、そのためにどんな治療を、どれくらい受けるべきなのか、それぞれの治療を受ける目的をもっと意識すべきではないか、そう思います。

たとえ、高度生殖補助医療と言えども、すべての目的をカバーする治療では決してないわけです。

もしも、間違って過大な期待を抱いてしまえば、なぜ、これだけのお金と労力をかけても妊娠できなのかという、大きなストレスを溜め込み、自分たちを間違った袋小路に追い込んでしまいかねません。

妊娠を妨げてしまうモノやコトはたくさんあって、その時々で、変わるという状況の中では、一つの手段に頼ってしまうほどリスキーなことはありません。

自分たちのカラダやココロの状態を冷静にみつめて、自分たちなりの解決策を戦略的に考えて、実行していくことが大切でしょう。

そういう意味では、体外受精ではなく、"夫婦の絆"こそが、「最後の砦」なのではないでしょうか?