編集長コラム

細川 忠宏

新しい年に向けて

2010年12月27日

この1年の私たちの経験から感じたこと、思ったことを書こうと思います。

不妊症なのか、妊娠希望年齢と妊娠適齢期のギャップなのか

今年、つくづく思ったのは、2つの不妊があるということです。

そして、それにもかかわらず、同じ不妊という言葉で語られてしまっているので、話しがややこしくなったり、混乱を招いたりしているということ、です。

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2つの不妊とはこういうことです。

1つは、妊娠を妨げている何らかの問題があって、妊娠しない、妊娠しづらくなっているというケース。
年齢的には、主に20代から30代前半の女性です。

もう1つは、何の問題もないのだけれども、妊娠しない、妊娠しづらくなっているというケースです。
こちらは、主に30代後半、40代です。

それぞれ、どんな状態なのかと言いますと、1つは、妊娠できる卵子が備わっているのに、何らかの障害があるため妊娠が妨げられている状態。

そして、もう1つは、年齢とともに卵子も一緒に年をとり、妊娠できる卵子が少なくなっているために、妊娠するまでに長い期間待たざるを得ない状態です。

前者の問題は、妊娠が妨げられている障害があることです。いわゆる、不妊症です。

それに対して、後者の問題は、妊娠希望年齢と妊娠適齢期のギャップです。障害は取り除く(治療する)べきですが、ギャップを埋めることはなかなか難しいのが現実です。

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このように、同じ不妊でも、何か障害があるのか、ないのか、治すところがあるのか、ないのか、大きく異なります。

もちろん、どちらも当てはまるというケースもあると思いますが、それも含めて、不妊と言う時には、どんな不妊なのかをハッキリとさせておくことがとても大切だと思います。

悩みを克服するうえで大切なこと

妊娠を目指すためになすべきことも違って当然です。

障害があれば、原因を突き止めて、原因に対して治療を施し、障害を取り除くことで妊娠を目指します。卵子と精子が出会い、受精卵が生育する環境を整えてやること、これに尽きると思います。

この場合、不妊治療に求められるのは、診断の正確さと治療の適切さでしょう。

明解です。

ところが、妊娠できる卵子が少ない状態では、そのことを改善する(治療する)ことには限界があります。それよりも、力のある卵子と出会えるかどうかですから、どのように妊娠を目指すのかはふたりの考え方次第なのです。

そもそも、妊娠できる力を備えた卵子と出会えるかどうかは、"たまたま"です。そして、それを"運"と考えて、何も(治療は)しないで待つ!という考え方もあるでしょう。

いや、何もしないで待つなんて出来ない、したくない、"たまたま"を"確率"と考えて、積極的に働きかけて、確率を高めたいとの考えもあるでしょう。

生殖補助医療では、力のある卵子と出会える確率を高めるために、卵巣を刺激して、出来るだけたくさんの卵子を卵巣から採りだして、体外受精させ、状態のよさそうな胚を移植して、妊娠を目指すというやり方になります。

この場合、求められるのは、適切な卵巣刺激法の選択と高い培養技術でしょう。

また、すべての排卵の機会を無駄にしないために、人工授精を受けることで、タイミングの確実性を高めることで、妊娠を目指すというやり方もあるでしょう。

さらには、海外に渡り、卵子提供を受けて妊娠を目指すという、ある意味、次元の異なるやり方もあります。

とにかく、妊娠を運ととらえるか、或いは、確率ととらえるか、そして、どのような方法や手段をとるか、それぞれの夫婦には、それぞれの考え方があります。

つまり、そこには、正解などないわけです。

ふたりの生き方の問題として考える

不妊原因を治療するために、どのような治療方法が適切なのかについては、厚生労働省や関連学会などが定めるガイドラインが存在します。つまり、医学的な正解や明確な判断基準があるわけです。

ところが、年齢によって妊娠しづらくなってしまった場合、そのようなガイドラインは存在しません。ふたりの考え方や価値観に照らして、最善のやり方を考える必要があるというわけです。

もはや、生き方の問題なわけです。

決して、簡単な問題ではありません。

そこで、納得のいく、後悔のない、赤ちゃん待ち期間を過ごすため、どんなことに気をつければいいのかについて、精神論ではなく、
私たちがこれまでの経験で学んだことを挙げてみたいと思います。

1)コントロール感を大切にしたい

運命ととらえても、確率論ととらえても、誰かの言いなりになっているのではなくて、自分たちの意志で、選択し、判断している、あるいは、自分たちの意志で、選択や判断を信頼できる誰かに委ねたいものです。

結果はコントロール出来ませんが、プロセスは自分たちの意向を反映させることは可能です。また、他人はコントロール出来ませんが、自分の時間の使い方や物事の優先順位は自分で決めることが可能です。

翻弄感ではなく、コントロール感を大切にするということです。

2)進歩している感を大切にしたい

不妊治療は他の病気の治療と違って、痛みがなくなるとか、身体が元気になるとか、治療効果、すなわち、よくなっていることを実感できるわけではありません。

また、結果は、妊娠したか、出来なかったという、言ってみれば、「○」か「×」かです。つまり、努力が反映されないというか、ゴール(妊娠)に近づいているかどうかが見えにくい、分からないものです。

反対に周期が乱れたとか、排卵がないとか、マイナス材料には事欠きません。

ストレスを受けやすい理由の1つです。

そこで、妊娠に相応しい健康体を手に入れるべく、食生活、運動、楽しいことを通じて、カラダやココロの状態の向上に取り組みます。また、従来のやり方や施設にこだわるのではなく、常に、治療方針や治療方法、クリニックを見直すことです。

よりよい方針や方法を求めることで、治療方法を変えたり、転院して、よりふたりに相応しい治療環境を求めます。

カラダやココロの状態はよくなってる感、方法は進化している感が持てるようになると違ってきます。

3)つながりを大切にしたい

ドクターとのつながりを感じている患者ほど、治療成績がよいとの報告があります。

パートナーとの強いつながりは私たちを勇気づけ、強くしてくれます。

これは、理屈ではありませんね。

4)不妊の期間を経験するという意味を考えたい

アメリカのセンテナリアン(長寿者)研究では、100歳を超えて現役で人生を楽しんでいる長寿者の条件は、血圧や血糖値などの身体の健康状態を示す数値よりも、人生に起こったさまざまなことを、どう受け止めたかのほがが重要であることが分かったと発表しています。

つまり、幸福な人生をおくることができるかどうかは、何が起こったのかではなく、起こったことをどう受け入れ、どう受け止めるかにかかっているというわけです。

皆さんは、なぜお子さんを望まれているのでしょうか?

いろいろな理由があると思います。

ただ、「それはなぜ?」という自問自答を繰り返してみてください。

おそらくは、ほとんどのカップルは、「ふたりの幸せな人生」という答えに至るのではないでしょうか?

もしも、センテナリアン研究の結果に普遍性があるならば、ふたりの幸せな人生のカギは、「いつ赤ちゃんを授かったのか」とか、「子どもがいるのか、いないのか」ということではなく、「その経験をどう受け入れ、その経験から何を得たのか」ということです。

もしも、命のかけがえのなさを知り、パートナーの本当の愛情に触れることが出来たならば、もしも、思うようにいかないことがあることを経験し、他人の痛みを自分の痛みとして感じることが出来る人間になれたならば、それは何物にも代え難い財産になるに違いありません。

皆さんにとって、2011年が素晴らしい年でありますように。