編集長コラム

細川 忠宏

"疑うこころ"と闘うために

2010年11月15日

不妊治療を受けていて悩ましいことの一つに、治療効果が分かりづらいということがあると思います。

治療後に妊娠に至らなければ、どこかがよくなったとか、何かが改善されたというような、そんな実感が伴うことがありませんからね。
ですから、なかなか結果が出ないとなると、『このままでいいのだろうか・・・』、そんな"疑うこころ"との闘いになってしまいがちです。

たとえば、
『他に異常が隠れているのでは・・・』、
『もっとよい治療法があるのでは・・・』、
『もっといいドクターがいるのでは・・・』と、
疑いの目は、自分の身体やドクターに向けられてしまいます。

もちろん、納得の行く治療を受けるために、冷静な目と心であれこれ考えることは絶対に必要なことだとは思います。

けれども、疑いの目や心が不必要に強くなってしまうと、そのことが治療にマイナスの影響を及ぼしてしまわないとも限りません。

そんな事態に陥ってしまわないためにも、いのちの誕生のメカニズムについて正しく知っておくことが大切です。

身長が160センチの人は、平均身長が180センチの社会では小さい人ですが、平均身長が140センチの社会では大きい人になりますからね。

考えたり、判断したりするときの「物差し」次第では、私たちの受け止め方はずいぶんと違ったものになってしまうというわけです。

さて、何をもって、妊娠しやすいとか、妊娠しづらいとするのかについても、私たちは、往々にして、主観や自分たちの都合でとらえてしまいがちです。

ところが、私たち人間は、私たちが漠然と考えているほど、妊娠しやすいようにはできていないようです。

そのことを、決定的に教えてくれる研究報告が、アメリカの東部の大型の不妊クリニックの医師グループが発表しています。そのテーマは、5年間の体外受精で採卵した、19万2991個の卵子のサバイバル率です。

採卵した卵子が受精するのが58%、受精卵が移植迄進めるのが40%、胚移植後に出産に至ることが出来たのが20%というのです。

採卵した卵子を「10」とすると、受精できるのが「6」、移植まで行けるのが「2」、出産できるのが「0.5」という計算で、以下のような割合ですすむということになります。

採卵 → 受精 → 移植 → 出産
10      6       2     0.5

もしも、体外受精で採卵後に8割の卵子が受精したら、8割しか受精できなかったのではなく、8割も受精できたと考えるのが正しいわけです。

治療プロセスを評価する物差しの一つになるかと思います。

このように、新しい生命が誕生する際には、必ず、自然淘汰という名の選別がなされます。

いのちの誕生のメカニズムが働いていることを、身体の"異常"や治療の"失敗"とするのは間違いです。
本来的に"そうなっている"ことを正しく理解することで、自分たちに出来ることと、出来ないことを、自分たちなりに見極めるようにつとめたいものです。

そうすれば、医療に期待すべきことと期待しても仕方のないことも、
自ずと見えてくるようになると思うのです。