編集長コラム

細川 忠宏

なかなか授からないことで感じるストレスを味方にするには

2010年05月10日

不妊治療って、治療が進めば進むほど、どんどん前のめりになってしまい、知らず知らずのうちに、ストレスが大きくなっていたと、6回目の胚移植でお子さんを授かったことを報告してくれたMさんが、それまでの治療を振り返って、そう話してくれました。

そして、それは、知り得る情報が増えてくるから、それも、だんだん、核心に触れる、デジタルな情報だからだと言うのです。

たとえば、卵胞の大きさや内膜の厚さ、人工授精にステップアップしたら、ご主人の精子の数や運動率について、体外受精になると、その時々のホルモン値や受精率、さらには、胚の分割のスピードやグレード等々です。

人間って、数字を示されると、人にもよるとは思いますが、頑張ってしまうところがあるようです。

悪い値であれば、心配や不安を抱えこんでしまい、そして、よい値であれば、あったで、妊娠しなかった時の落胆が大きかったと言います。

Мさんは、そんなどうにもしようのない悩ましさを克服するために、いろいろなやり方を試してみたけれど、結局は、「書くこと」が一番よかったとのことでした。

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不妊治療にはつきものと言われるストレスですが、意外や意外、必ずしも、常に、治療成績にマイナスの影響を及ぼすわけではなく、場合によっては治療成績にプラスになることもあると、これまでの研究で確かめられています。

新しい生命の誕生に際しては、人間のココロとカラダのメカニズムは、本当に、複雑で、かつ、コントロールすることが困難なものだと、つくづく、思い知らされるものです。

であれば、不妊治療を受けていても、受けていなくても、お子さんを待つうえでのストレスの正しい対処法は、ストレスをなくするのではなく、ストレスとうまくつきあっていくということになるはずです。

つまり、ストレスを感じることを嘆いたり、ストレスをなくするように頑張らなくてもいいわけです。

それでは、ストレスとうまくつきあっていくには、どうすればいいのでしょうか?

もちろん、誰しも、仕事や生活で、多かれ少なかれ、それなりのストレスを抱えています。

そして、それぞれに、生活の知恵的に対処しているわけで、決まったやり方があるわけではありません。

ただし、なかなか授からないという悩み、特に、長い期間、不妊治療を継続することに伴うストレスは、他のいかなる経験に伴うそれとは、根本的に、質が異なるものでしょう。

であれば、どんな方法を採用するのかは、提供する側が効率的に収益をあげることを最優先に編み出された方法とか、ある種の宗教的な方法よりも、科学的な根拠がある合理的な方法であるべきだと私たちは考えます。

特に、人間のココロのメカニズムについては、昔からある心理学や社会心理学に加えて、最近は、行動心理学や進化心理学、心理物理学などが盛んに、いろいろな試験から、普遍的な理論を発表しています。

そして、私たちが、とても、とても辛い経験をしたとき、誰かにそのことを打ち明けるよりも、また、感情を何かに向けて、爆発させて、発散させるよりも、精神的、肉体的な健康を回復させ、自信を取り戻し、幸福感を高める効果が高いのは、Мさんが実践され、そして、今も実践されている「書くこと」なのです。

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さて、「書くこと」ですが、具体的には、何を、どう、書けばいいのでしょうか。

それは、毎日、数分でいいので、その日の自分の中にある気持ちや考えを書くのです。

大切なことは、本音を書くこと。

たとえば、ずばり、なかなか授からないことが、妻として、嫁として、女性として、職業人として、社会人として、自分にどう影響しているのか、また、その日に治療にクリニックにいって、ドクターと話したことや治療のこと、その結果について、自分がどう感じているのか、さらには、周囲の人たちに不妊や妊娠、夫婦関係について言われたこと、また、話しあったことについて、自分は、本当にところはどう思っていて、どうしたいのかについて、書きましょう。

そして、もう1つ、大切なことがあります。

それは、それらの経験から自分が得たプラスのこと、そして、そのことによって、日常面でよくなった点を書くのです。

なにも隠さず、すべてを本音で書くことです。