編集長コラム

細川 忠宏

何があなたをそれほど苦しめるのか?

2007年09月16日

こんなメールをもらいました。

---[Kさんからのメールここから]-------------------------------------

<中略>

そっとしておいて欲しいというささやかな願いもむなしく、
義理の両親からのプレッシャー、
そして、妹や友人からの妊娠報告、
さらには、テレビから流れてくる芸能人の妊娠報告まで、
心が乱されない時はありません。

いつまで待てば、
あとどれくらい頑張れば、
自分たちの夢は叶うのでしょうか?

生理の度に落ち込んで、
そして、次の周期には、もしかして今月は?って。

願えば願うほど叶わないみたい。

でも、今月も病院の予約を入れました。

とにかく、前に進もうと思って。

<中略>

---[Kさんからのメールここまで]-------------------------------------

皆さんは、いつ、どんな時に、自分が不妊かもしれないと疑い、心配し始めましたか?

実は、不妊かどうかなんて、誰にも当てはまる明確な基準などないのです。

一応、医学的には、日本産科婦人科学会では、避妊しない夫婦生活があるにもかかわらず、2年間妊娠しない状態と定義してくれてはいます。

ところが、これも、ある意味、あやふやなものです。

なぜなら、その前は、3年としていましたし、最近では、1年とするのが主流のようですから。

現実に、5年とか、6年の不妊期間の後に、自然妊娠されるご夫婦はたくさんおられます。

また、最近、日本不妊協会では、35歳以上は半年で不妊とすべきと提案されているようです。

その意図は理解できますが、専門家による定義一つで、それまでのんびり構えていたご夫婦が、急に、焦り、悩み出すことも少なくないのではと懸念してしまいます。
世間への啓蒙を目的とした一般論と、現在進行形で心配する夫婦が知るべき情報とは区別して考えるべきです。

年齢は妊娠する力に影響する最大の要因であることは間違いありませんし、周囲が、次々と、妊娠すれば、なんで?、、、と焦ってしまうのは人情でしょう!!

ただ、自分たちの妊孕性(妊娠する力)を正しく把握するのに、世間一般の尺度なんてあてにならないし、ましてや、周囲の誰かと比較できるものでは、断じて、ありません。

そんな時は、自分のカラダのペースに耳を傾けてみてはいかがでしょうか?

女性の周期は、人、ぞれぞれ、です。
そして、周期によっても変動があったりします。

また、夫婦生活の頻度も、夫婦、ぞれぞれです。そして、周期によっては、ゼロだったり、多くもてたりします。

普通は、このような月経サイクルや夫婦生活の頻度のことを、カラダのペースのように思われるかもしれません。

或いは、ちゃんと排卵しているかどうか、両側の卵管が通っているかどうか、ご主人の精子の数や運動性は十分かどうか、そんな、私たちに把握可能な指標のことに目が向いてしまいがちです。

ただ、私たちはここで想定している"自分たちのカラダのペース"とは、それだけでは、決して、ありません。

健康な若いカップルが、タイミングがドンピシャの行為をもっても、妊娠するのは、せいぜい30パーセントにしか過ぎないこと。

また、いくら、体外受精において、外見上、最高の受精卵を戻しても、妊娠するのは、これもまた、せいぜい、40パーセントにしか過ぎないこと、さらには、そもそも原因不明不妊というものが存在すること自体、妊娠の成立には、私たちには、知り得ない、そして、コントロールできない要因が存在することを物語っています。

世間では、"生命の誕生の神秘さ"などと形容されたりしますが、現代医学で想定しているのは、"周期によっては"、妊娠できるだけの力のない卵子が排卵されることがあること、"健康な男女の受精卵でも"、何割かは、染色体異常は存在することです。

大切なことは、このような"カラダのペース"をどのように受け入れるのかということだと思うのです。

間違いなく言えることは、私たちにはコントロールできないということ、そして、なぜ、そうなるのかは分からないということ、さらには、それは、異常か、正常かということではないということです。
ましてや、なまけているとか、ポンコツなどということでも、断じて、ないわけです。

言ってみれば、"たまたま"とか"偶然"なんですね。

考えてみれば、私たちが生きていくということは、時には、"偶然"を受け入れなければならないということであり、一方では、"偶然"の凄さや尊さに、感動し、そして、感謝するということでもあると思います。

なぜ、それぞれの夫婦には、ぞれぞれの授かるタイミングがあって、そして、そのタイミングは、なぜ、ぞれぞれに大きく異なるのかを、私たちなりに考えてみた、現時点での結論です。