編集長コラム

細川 忠宏

カミングアウトについて考える

2007年08月26日

「避妊をやめれば、すぐに、授かるものだと思っていたのに・・・」
「不妊治療を受ければ、すぐに、妊娠できるものだと思っていた・・・」

本当に、よく聞く言葉です。

不妊に悩む、当人でさえ、そうなんですね。

ましてや、不妊経験のない人が多数派を占める世間の人々には、望んでも授からないということがどういうことなのか、また、不妊治療の宿命的に厳しい現実は、理解されようがないと思います。

不妊を経験するということは、他人には、普通に叶えられる望みが、自分には、努力してもなかなか叶えられないことに悩み、苦しむだけでなく、周囲の無理解に戸惑い、傷つき、そして、その結果、孤独感にさいなまれることでもあると、つくづく、思うわけであります。

もしかしたら、後者の悩みのほうが大きいという方も、少なくないかもしれません。

最新の調査研究が、そのことを報告しています。
ヨーロッパ生殖医学会の専門誌に発表された、イギリスの大学の臨床心理学者と産婦人科医による共同研究です。

不妊クリニックに通院を始めた男性64名、女性87名に、自分が不妊であることをどのように感じているのか、また、不妊であることを、周りの人たちに打ち明けているのか、さらには、周囲の人々のサポートをどのように感じているのかについて、アンケートを実施しています。

それによりますと、女性は、男性よりも、不妊であることの悩みは大きく、また、不妊であることを周囲の誰かに打ち明けているのは女性のほうで、男性は、悩みが大きい人ほど、周囲にはだまっているというのです。

また、女性、男性ともに、不妊であることの悩みが大きい人ほど、自分がより惨めに感じ、否定的にとらえてしまうことから、周囲の人たちのサポートが得られていないとも報告しています。
そして、そのことから、周囲の人たちに不妊であることを話すことは、女性にとっては、かえって、苦しみを大きくすることがあるとしています。

これらのアンケート結果は、女性は、男性よりも、現実と悪戦苦闘しなければならないことを、明確に、物語っています。

そして、それは、洋の東西を問わない、いわば、宿命的なことのようです。

実際に、いざ、通院を始めるということは、専門家のアドバイスとは裏腹に、女性が、一人で、意を決して、行動を起こすということであり、不妊の原因が男女のどちらにあろうとも、検査や治療の大半は女性側に施されるのが現実でしょう。

必然的に、女性のほうに、精神的、時間的な負担がかかるわけですから、女性は、好むと好まざるとにかかわらず、周囲の人たちに、不妊であることを話さざるを得ないことが多いはずです。

それに比べて、男性は、まだ、黙っていられるのかもしれません。

そして、周囲の人たちに不妊であることを告白することは、周囲の無知や無理解、誤解、そして、安易な励ましに、かえって、辛い思いをさせられることになりかねないのでしょう。

今回、不妊治療と仕事の両立について特集していますが、治療と仕事の両立とは、ある意味、女性が、現実と悪戦苦闘するということです。

研究チームは、そんな宿命と闘ううえで大切なこととして、"ご主人とのパートナーシップ"、そして、"悩みを同じくする女性との連帯"を挙げています。