編集長コラム

細川 忠宏

本当に"知らぬが仏"なんだろうか?

2007年07月15日

最新ニュースでは、妊娠を目指すご夫婦にとって、役に立つと思われるような内外の最新ニュースをご紹介しています。

何も自分で考えることをせずに、人(先生)の言うことを素直に聞いて、全部おまかせするような生き方(治療の受け方)は、一番楽な方法ではあるのですが、何かあった場合、その人のせいだと文句を言っても、自分で決めなかったのだから、もはや、手遅れなわけです。

「後悔しない選択」というのは、とにかく、よいことも、悪いことも、知ったうえで、自分たちで"決める"ことであるとの考えで、このサイトを運営しています。

ですから、いろいろなニュースが報じられているのですが、中でも、不妊治療、特に、体外受精等の高度な生殖補助医療によって、発生するリスクについての研究報告などは、必ず、チェックするように心がけてきました。

ところが、たとえば、体外受精によって、妊娠異常の発生率が何倍にもなるというような報道を紹介すると、必ず、たくさんのメールをいただくことになります。

それは、たいては、体外受精を検討している方々からで、それまで安易に考えていたので、知ってよかったと感謝されることもあるにはあるのですが、こんな話しは聞かなかったほうがよかったと、 責められることも少なくありません。

当事者としては、そのような情報に接して、誰しも心穏やかでいられるはずもなく、ある意味、当然と言えば、当然のことなのかもしれません。

ただ、だからと言って、いわゆる"知らぬが仏"のほうがよかったのでしょうか?

もう一歩、考えを押し進めてみると、決して、そんなことはないことはすぐに分かります。

なぜなら、夜に車を運転する際に、無灯火で走ることほど危険な行為はなく、ヘッドライトを照らし、おこりえる危険を正しく認識することでしか、危険を適切に回避することなどできないからです。

体外受精によって、妊娠異常の発生率が何倍にもなるという報道について、ヘッドライトを照てて、しっかり、見極めてみると、どうでしょうか。

まず、リスクというものは、ゼロか、100か、というようなものではなく、たとえ、自然妊娠においても、妊娠し、出産すること自体、女性にとってはリスクを伴う経験です。

そして、リスクの大きさというものは、決して、1つの要因だけで左右されるものではないことが分かります。

そのリスクの大きさを左右する最も大きな要因は年齢で、悲しいかな、年齢そのものが原因で、 身体の機能が低下していくということ、また、加齢に伴って子宮筋腫や内膜症などの発症率も高くなり、妊娠、出産に際してのリスクが高くなることは避けられない現実です。

ですから、 体外受精を受けることで、リスクが跳ね上がるような印象を持ってしまいがちではありますが、年齢別にリスクを比較してみると、体外受精によるリスクの"純増分"は、思ったほどのレベルでもないことが分かります。

もう1つ。

たとえば、妊娠前や妊娠中の食生活や生活習慣は、おどろくほど胎児の健康に大きな影響を及ぼすことも、多くの研究報告が明らかにしていることです。

ですから、リスクが伴うことを事前に知っておくことは、それを避けるための方策を講じることが可能になるということであり、そういう観点から考えれば、"知らぬが仏"で、 リスクに対する自覚が希薄なことこそ、最大のリスクと言えるのかもしれません。

いかがでしょうか?

くれぐれも誤解しないでいただきたいのは、私たちは、決して、高度な治療を推奨しているわけではありません。

ただただ、リスクに対して、 きちんと向き合うことが、本当に大切なことだと痛感しているということを伝えたかっただけです。

そして、それは、なにも不妊治療のことに限ったことではないと思います。