編集長コラム

細川 忠宏

年を取ることは素晴らしいことでもあるはず

2006年11月11日

体外受精の結果が、×だったことを言い渡された際に、「年だからねー・・・」と、 ため息まじりに、ドクターがつぶやくのを聞かされて、年のことはどうにもならないことなので、本当に辛かったと、数日前、ある女性から打ち明けられました。

妊娠する力は年齢に反比例して低くなるという現実は百も承知なんだけど、年をとってから子どもを望むことが、まるで、悪いことであるかのように聞こえたと言うのです。

そんなKさんの話しがきっかけで、年をとることについて、改めて、考えさせられました。

ドクターのため息の真意がどこにあるのかは別として、今や、世間はアンチエイジング花盛りで、年をとること、すなわち、老化は、悪とまでは言わないものの、忌むべきもの、受け入れ難いものと、とらえているようです。

そんな風潮は、年をとることは、必ずしも、マイナス面ばかりではないことを、いつの間にか、忘れさせてしまっているように思えてなりません。

実際のところ、年齢に伴って、妊娠率が低下するということは、言い替えれば、年をとればとるほど、授かるまでに時間がかかるようになるということです。

授かるのに時間がかかるということは、その間、いろいろな物事を深く考えるということであり、また、苦労して授かるということは、授かることの有り難みを感じられるということでもあって、一見、マイナスに思える経験は、後々、何ものにも代え難い経験になるに違いありません。

また、こんなこともあるようです。

アメリカの南カリフォルニア大学(USC)の研究チームが、ニューオーリンズで開催された、今年のアメリカ生殖医学会で、母親の年齢が子育てに及ぼす影響についての研究結果を発表しました。

USCで卵子の提供を受けて体外受精で妊娠、出産した、30代から50代の150名の女性の子育てぶりを調査したところ、母親としての肉体的、精神的な役割は、高齢でもなんら遜色なく、逆に、子育てのストレスは、高齢の母親ほど少なく、年をとってから子どもを産み、育てるのは、色々とマイナス面が大きいという見方は偏見であるというのです。

さらに、昨年の6月に発表されたベルギーの調査研究では、顕微授精で生まれた子どもは、自然妊娠で生まれた子どもよりも、8歳の時点での知能指数が高かったことを報告しています。

その原因の1つとして、顕微授精で生まれた子どもの方が、母親の年齢が高いこと、それに伴って経済的に恵まれていることによって、比較的、教育環境が整っていたからではないかとしています。

このような観点で考えると、母親になる女性の年齢が高いことが不利なのは、妊娠、出産までであって、その後の育児では、逆に、有利に働く面もあるようです。

年をとるということは、いいとか、悪いとかいう話しではなくて、誰にも、絶対に、避けることの出来ない現実です。

どうやら、アンチエイジングという思想、すなわち、老化を拒絶し、老化に抗しようとすることは、近視眼的になりがちで、時間をかけて経験することで得られる豊かさをも、否定しかねない危険性を孕んでいるようです。

最後に、誤解をおそれずに言わせてもらえば、年を重ねることを潔しとしないのは、人生を深く味わい、幸せになるための障害にしかならないように思えてなりません。

どうにもならない事は、どうでもいい事ではないんでしょうかね!