妊娠しやすいカラダに最適化しよう

2010年04月27日

なかなか授からないという状態は、不妊治療が必要なケースもありますが、実際のところは、"たまたま"という要素も大きいものです。

それだけ、母親になる女性と父親になる男性のカラダとココロには、妊娠の成立に関わっているものやことが複数あって、それらが、お互いに影響しあっているということでしょう。

ですから、不妊治療が必要であってもなくても、出来るだけ妊娠の可能性が高くなるように、カラダやココロの状態をチューニングすることが大切です。

言いかえると、カラダやココロの状態を、妊娠しやすいようにオプティマイズ(最適化)することです。

妊娠しやすいカラダに最適化するということ

妊娠の成立には、私たちが想像している以上に、"偶然"という要素が大きく左右しています。何の問題もない若いカップルが、ベストなタイミングでセックスしても、妊娠する確率は30%もないことが物語っています。

であれば、妊娠率を高めるための有効な作戦はと言うと、

(1)機会を増やすこと。

(2)妊娠を妨げているものがあればそれを取り除くこと。

この2つです。

機会を増やす

妊娠の可能性を高めるのに最も有効なのは、機会を増やすこと、すなわち、夫婦生活の回数を増やすことです。当たり前な事実なのですが、とにかく、この手の話しには誤解やデマがつきものです。

これまでに確かめられたことをみてみましょう。

◎禁欲期間と男性の精液の質

禁欲期間と精液検査の結果については、イスラエルで9489名の男性を対象に実施された試験(※1)で、禁欲期間が長くなるほど精液の量や精子濃度は低くなりますが、毎日射精していても精液検査の正常値を下回ることはなく、乏精子症の男性不妊患者では、毎日射精したほうが精子濃度や運動率が良好でした。

また、オーストラリアで、118名の男性を対象に実施された試験(※2)では、DNAの損傷度が高い男性不妊患者は、一週間続けて毎日射精することで精子のDNA損傷率が低下し、精子の質が高くなることが確かめられています。

つまり、禁欲期間が短いほど、精子の質は高くなるというのです。そして、それは、妊娠の可能性をも高くします。次の「セックスの頻度と妊娠率の関係」をみると、そのことが明らかになります。

◎セックスの頻度と妊娠率

セックスの頻度と妊娠率の関係をみてみましょう。

アメリカで221組のカップルを対象に実施された試験(※3)で、セックスの頻度と周期あたりの出産率を調べています。それによりますと、周期あたりの妊娠率は頻度が毎日であれば37%で、隔日では、33%、週に一回になると15%に低下したとのこと。セックスの頻度が高くなると、男性の精子の質が高まり、そして、妊娠率も高くなるのです。

◎妊娠しやすいセックスの時期

よくよく知られている通り、妊娠しやすさは、女性の月経周期中のどの時期にセックスしたかにも左右されます。

女性の月経周期中で、妊娠の可能性のある時期は、排卵の5日前から排卵当日までの6日間で、排卵の1日前が最も妊娠率が高かったと報告しています(※3)。

このことから、諸々の事情で、セックスの頻度が少なくならざるを得ない場合、妊娠に至る可能性の高い時期を意識することは大切です。

ところが、現実の問題として、女性にとって排卵日を知ることは、それほど簡単なことではないようです。

基礎体温表をつけ、排卵検査薬を使用するのはよくある方法ですが、イタリアで782名の女性を対象にした試験で(※4)、頸管粘液を変化から自分の妊娠しやすい時期を推測したほうが、基礎体温や排卵検査薬を使ったケースよりも、早く妊娠に至るために有効だったことを確かめています。

◎タイミング法の副作用

排卵日から最も妊娠しやすい日を予測し、その日にセックスすることで妊娠を目指すのを、一般に、タイミング法と呼ばれていますが、驚くことに、この方法で、周期あたりの妊娠率が高くなるとの証拠はありません(※5)。

反対に、男性不妊外来における射精障害の原因の約75%は、不妊治療によるタイミング指導を契機とするものとのこと(※6)。

タイミング法には、効果がそれほど大きくないにもかかわらず、このような副作用があることを知っておくべきでしょう。

◎セックスの体位や行為後のことなど

セックスの体位や行為後のことは、妊娠する、しないに、ほとんど影響を及ぼさないことが、これまでの試験で確かめられています。

子宮頸管における射精後の精子の数は、セックスの体位による違いが見られないこと(※7)、また、女性の月経周期中の妊娠の可能性のある時期であれば、射精後に女性がどんな行動をするかにかかわらず、精子は2分以内に卵管に到達することが確かめられています(※8)。

このことから、セックスの体位や行為後にどのように過ごすのかは、その効果よりも、気持ちの問題なわけです。

仲良く過ごす環境づくり

いかがでしょうか?

妊娠の確率を高める最も有効な方法は機会を多くもつこと、具体的には、月経終了後、2日、3日に1回のペースで仲良くすることです。

どの日が最も妊娠しやすいのか、ベストなタイミングにこだわっても、それほど意味はないようです。

それよりも、セックスが義務化したり、そのことで、気まずい思いをしてしまうようになると、本当の不妊症を招いてしまって、本末転倒です。

これらの証拠を参考にして、自分たちの生活スタイルに応じた工夫をしてみてください。

これまでの多くの研究結果が物語るのは、あれこれ、気にしないで、夫婦の生活を楽しむこと、結局、こんな夫婦に早く赤ちゃんがやってくるということのようです。

妊娠を妨げているものがあればそれを取り除くこと

そもそも、子どもは"授かる"もので、新しい命は"やってくる"ものです。私たちに出来ることは、仲良くすること、そして、妨げになっているものがあれば、それをとりのぞくことです。

◎不妊治療

生殖医療の進歩によって、ほとんどの不妊の原因を取り除くことが可能になりました。

不妊治療、それも、より高度な治療になるほど、まるで、妊娠させるかのような、言いかえると、いのちをつくるかのような、そんなニュアンスが入ってくることがあるようですが、不妊治療の本質とは、どこまでいっても、妊娠の妨げになっているものを取り除くことです。

何を取り除くのかを明らかにしておく、もしくは、明らかにすることが困難な場合は、何を取り除くのかを想定しておくことが大切です。

でなければ、オーバートリートメント、すなわち、不必要な治療を受けることになってしまいかねません。

◎母親になる女性の年齢

妊娠しやすさに最も影響を及ぼすのは、母親になる女性の年齢で、年齢が高くなればなるほど、妊娠するまでに時間がかかるようになります。

もちろん、年齢による妊娠率の低下を逆転させることは出来ませんが、実際に、年齢による影響はどの程度なのか、知っておくことは大切なことです。

夫婦生活の回数やパートナーである男性の状態も妊娠率に影響しますから、母親になる女性の年齢と妊娠率の関係を知ることは簡単ではありません。

そのためパートナーの男性が無精子症であるため、AID(非配偶者間人工授精)を受けた、2193名の女性の治療成績についてフランスの報告があります(※9)。

それによりますと、1年間の累積妊娠率は、

25歳以下では73%、
26~30歳では74.1%、
31~35歳では61.5%、
36歳以上では53.6%だったとのこと。

また、体外受精の治療成績を最も左右するのも年齢です。

2006年にアメリカで実施された体外受精の成績を、女性の年齢別にみてみると(※10)、移植あたりの出産に至る確率は、

34歳以下では44.9%、
35~37歳では37.3%、
38~40歳では26.6%、
41~42歳では15.2%、
43~44歳では6.7%とのこと。

年齢が高くなればなるほど妊娠率が低下し、反対に流産になる確率が高くなっていく傾向が明らかです。

これは年齢とともに、卵子も一緒に老化することが原因であると考えられています。

心身ともに老化を早めない生活環境を大切にしたいものです。

◎喫煙

女性の喫煙は妊娠する力を低下させることは明らかです。

女性の喫煙が体外受精の治療成績に及ぼす影響を調べるため、過去の研究報告を統合した結果(※11)、妊娠率、出産率とも、タバコを吸う女性は吸わない女性に比べて、40%以上も低いことが分かりました。

また、タバコを吸う女性は、吸わない女性に比べて、閉経を迎える時期が1~4年早まることがわかっています。

喫煙は卵巣内の卵子数の減少を早めるようです。

早く妊娠することを望むのであればタバコは吸うべきではありません。

◎アルコール

女性にとって妊娠後は飲酒を控えるべきですが、妊娠する前の飲酒の妊娠する力への影響については定かではありません。

スウェーデンの7393名の女性を対象にした試験(※12)では、1日に2単位のアルコールを飲む女性は、不妊症になるリスクが59%増加し、1日に1単位以下になれば36%低くなったとのこと。

反対に29844名の妊婦を対象にしたデンマークの試験(※13)では、アルコールを飲まない女性よりも、ワインを飲む女性のほうが妊娠までに要する期間が短かったと、報告しています。

また、1769人のイタリア女性を対象にした試験(※14)では、アルコールの飲酒と妊娠する力との関連性は、みられなかったとしています。

このことから、過度の飲酒は控えるべきですが、適量であれば問題ないと考えてよいのではないでしょうか。

適量といっても、アルコールを代謝する能力には個人差が大きいもので、一概に言えるものではありません。

ましてや、妊娠するのに問題ないのはどれくらいまでなのか、線を引くことは困難です。
あくまでも目安ですが、飲むならば、週に1、2回、1回あたり1~2単位の量に限るのが望ましいとされています。

因みに、アルコール1単位とは、ビールで250ミリリットル、ワインでグラス1杯半程度です。

◎食生活

食生活、すなわち、何をどう食べるのかは、さまざまな面で、妊娠する力と密接に関係しています。

17544人の看護師を対象にしたアメリカの疫学調査では、食生活と生活習慣は、排卵障害による不妊症と密接に関連していると報告しています(※15)。

それによりますと、排卵障害による不妊症のリスクが低くなる、食生活と生活習慣のポイントは以下の通りです。

・トランス脂肪酸の摂取を避ける
・オリーブオイルやキャノーラオイル等の不飽和脂肪酸の摂取を増やす
・豆類やナッツのような植物性たんぱくを増やす
・無精製の穀物を食べる
・必ずしも脱脂乳や低脂肪にこだわることはない
・葉酸を含むマルチビタミンミネラルのサプリメントを摂取する
・野菜や果物、豆類から鉄分を摂取する。
・清涼飲料水(缶コーヒーや缶ジュース等)は避ける
・適正体重を維持する
・毎日、穏やかな(過激にならない)運動を続ける

◎カフェイン

カフェインの摂取と妊娠する力の関係は、必ずしも明らかになっているわけではありません。

妊娠前、妊娠中ともに、過度のカフェインの摂取は避けるべきですが、1日に1~2杯程度のカフェイン入り飲料は差し支えないと、考えてよいようです。

妊娠する力への影響は複合的なもの

妊娠の成立や継続には、女性、男性の心身の状態による影響は大きいものがあります。

ただし、複数のものやことが複合的に影響することから、1つ1つの要因について、白黒つけることはさほど意味はありません。

生活習慣が妊娠する力に及ぼす影響は、マイナスの要素が増えるほど大きくなることが確かめられています(※16)。

このことから、何が妊娠にプラスになって、何が妊娠にマイナスになるのか、個々のものやことにこだわり、神経質になるのではなく、より健康的なライフスタイルを心がけることが大切なようです。

最適化するということ

これまでの研究報告の結果は、あくまでも、確率的な傾向を示してくれているものであって、早く妊娠するための生活スタイルについて、決まったルールがあるということではありません。

カラダやココロの状態を、妊娠しやすいようにオプティマイズ(最適化)するということは、自分たちの時間やカラダを大切にするということで、そして、そのことは、きっと、自信につながり、なかなか授からないことで感じるストレスに強くなることでしょう。

妊娠しやすいカラダに最適化するということは、早い、遅いではなく、二人にとっての最適なタイミングで、お子さんを授かりやすくなるのでしょう。

[文献]

※1) Fertility and Sterility 2005;83:1680-1686
※2)the 25th annnual meeting of ESHRE(ヨーロッパ生殖医学会)
※3) New Engl J Med 1995;333.1517-21
※4)Human Reproduction 2004;19:889-92
※5)Fertility and Sterility 2008;90:S1-6
※6)治療 2009;91:2245
※7)Fertility and Sterility 1973;24:655-61
※8)Human Reproduction 1996;11:627-32
※9) N Engl J Med. 1982;306:424-6
※10)SART Clinic summary report
※11) Human Reproduction Update 2009;15:31-44
※12)Fertility and Sterility 2004;81:379-83
※13)Acta Obstet Gynecol Scand 2003;82:744-9
※14)BMJ 1999;318:397
※15)Obstetrics & Gynecology 2007;110:1050-1058
※16)Fertility and Sterility 2004;81:384-92