編集長コラム

細川 忠宏

カギは「光」にあり

2018年03月05日

春は、植物は芽を出し、花はつぼみをつけ、地中の虫が動き始める季節です。自然の環境下で生活している生き物は、自然のサイクルとシンクロ(同調)し、この季節に生命力が高まるのでしょう。

人間はどうなのでしょう?

ほとんどの時間を人工の環境下で生活していても、春の生命力の高まりの恩恵を受けているのでしょうか。

季節と妊娠しやすさの関係については、これまでに多くの研究報告がなされています。

それらの研究結果をみてみると、互いに相反するもので、ヒトの妊娠しやすさは季節による影響を受けるというものもあれば、受けないというものもあります。

ただ、このようなことは、観察研究ではよくあります。

結果を見えないくくするさまざまな要因(年齡やBMI、性交の頻度など)を完全に排除できないという問題があるため、研究の方法によって結果が異なるということが起こり得るからです。

そこで、自然妊娠ではなく、体外受精の女性患者を対象とし、治療成績と季節だけではなく、光や温度、湿度、その他の季節により変化する環境因子についても調べ、さらに、治療成績に影響を及ぼす要因を統計学的に排除したイスラエルの研究(1)を参考にしたいと思います。

エルサレムのヘブライ大学ハダサー医科大学の研究チームは、大学病院で体外受精を受けた305名の女性の体外受精の受精率や良好胚率と、季節や季節因子(日長時間・気温・湿度等)との関連を調べています。

その結果、受精率や良好胚率は春(3月から5月)に最も高く、反対に、秋(9月から11月)に最も低くなり、良好な治療成績は、日長時間(昼間の長さ)とその増加量と関連することがわかりました。

受精率や良好胚率は、日の長さが長くなっていく春に高くなり、反対に、日の長さが短くなっていく秋に低くなると。

日が長くなることは、質の高い受精卵を育み、妊娠することに有利に働くのかもしれないというわけです。

つまり、妊娠力のカギは「光」にあると。

そう言えば、月経サイクルをはじめ、身体のさまざまなリズムを生み出す「体内時計」を調整するのは「光」です。

また、最近、生殖機能を重要な役割を果たすことから注目されているビタミンのビタミンDは、太陽の「光」にあたることでつくられます。

さらには、卵胞液中で強力な抗酸化作用で卵子を守っているとされるホルモンのメラトニンは、暗くなると活発に分泌されると言われています。

妊娠を望むカップルにとって、「光」を意識して生活することはとても意味のあることのようです。
これからの季節は、なおさら、です。

これまでの研究結果が教えてくれるのは「自然のサイクルにあわせる」ということでしょう。

一言で言えば、「明るくなると起きて、光を浴び、そして、暗くなると寝る」です。

具体的には、以下のような感じになるでしょうか。

・朝は早く起きて、夜は早く寝る。
・毎日(平日でも休日でも)、決まった時間に起きる。
・起床後、太陽の光を浴びる。
・自然光に接する。
・生活のリズムを意識する。
・夜は照明を暗くする(PCやスマホを見ない)。

赤ちゃんがやってきてくれるかどうか、私たちには、全く、コントロールできませんが、生殖機能と密接な関係にある「光」については、私たちは、ある程度コントロールすることが可能です。

これからの季節、自然界の恩恵を最大限に受けるために、まずは、夕方以降はスマホを遠ざけ、自然のリズムを感じること、なのかもしれません。

◎文献)
1)Fertil Steril 2000; 74: 476-81.