編集長コラム

細川 忠宏

「こんなはずじゃなかった」にならないために

2017年10月02日

2015年に日本で行われた体外受精や顕微授精などの高度生殖補助医療の治療成績が日本産科婦人科学会から発表されました。

アメリカやイギリスのようにクリニックごとの治療成績ではなく、日本国内で高度生殖補助医療を実施する施設として学会に登録している医療機関全体の成績ですが、これから体外受精を予定されているカップルにとって、いろいろと参考になることがあると思います。

これまでマスコミの報道等で、この年には日本全体で42万4,151周期の体外受精が行われ、5万1,001人の赤ちゃんが生まれた、そして、それは過去最高の数で、この年の20人に1人は体外受精で生まれた計算になることは話題になり、ご存知の方も多いと思います。

それだけ、体外受精が普及したということなのですが、これから体外受精を計画しているカップルにとっては、やはり、治療成績が最も参考になる、いや、参考にすべきだと思います。

体外受精という治療方法がどれくらい期待できるものなのか、予め、知っておくことがとても大切だと思うからです。

実際に治療の成功確率、すなわち、1回の治療で出産にまで至る確率はどれくらいなのでしょうか?

全体でみると42万4,151周期の体外受精が行われ、5万1,001人の赤ちゃんが生まれたとのことでから12.0%ということになります。

ただし、これはあくまで全体の確率で、年齢別にみると、30歳で21.5%、35歳で18.4%、38歳で13.5%、40歳で9.1%、42歳では4.5%です。

年齢が高くなるにつれて下がっていくことがわかります。

このことは、体外受精の治療成績に最も影響するのは「年齢」であることを物語っています。つまり、体外受精は卵管や男性側の問題に対しては高い治療効果が発揮されますが、年齢、すなわち、老化という問題に対してはそれほどの治療効果が期待できないということが言えます。

そして、そのことが顕著にあらわれるのは38歳くらいからです。

このことから、もしも、体外受精が必要であるならば、もしくは、体外受精を希望しているのであれば、早くから始めたほうが有利であると言えます。

あと、年齢別の成功確率をみて、これまで聞いていたよりも低いという印象をもたれた方もいるのではないでしょうか。

それは、おそらく、体外受精の成功確率の算出方法の違いによるものかもしれません。

なにを分母や分子とするかで、ずいぶん、確率は変わってくるからです。

たとえば、上記の40歳の治療成功率は9.1%となっていますが、それは、分母を「治療あたり」、分子を「出産」としています。つまり、1回の治療で出産まで至る確率なわけです。

それに対して、分母を「移植あたり」、分子を「妊娠」とするとどうでしょう。なんと、27.0%になります。

ずいぶん、印象が違ってきます。

なぜ、このような差が生じるかと言えば、妊娠できても流産に終わったり、治療をスタートしても卵がとれなかったり、採卵できても胚移植までいけないこともあるからです。

治療をはじめても、必ずしも移植までいけるとは限りませんし、治療の目的は妊娠ではなく、出産ですから、現実的で合理的な判断のための参考にすべきは、やはり、「1回の治療で出産まで至る確率」ではないでしょうか。

次に、年別の周期数をみれば、受精方法では体外受精よりも顕微授精が、移植方法では新鮮胚移植よりも凍結融解胚移植が増加し、治療成績も良好であることがわかります。

そして、全体の治療の4割が40歳代の女性に対して行われています。

非常に大雑把な見方ですが、女性の年齢が高くなるに従って、治療のバリエーションが求められるようになっていることのあらわれでしょう。

ある意味、とても皮肉なことと言えるかもしれませんが、年齢に伴う妊娠率の低下を体外受精で回避しようとしているものの、治療方法の中では高度生殖補助医療は比較的高い成功確率がありますが、あくまで他の治療方法に比べてのお話で、成功確率そのものはとても低いレベルにあるという現実があることがわかります。

さて、このような状況で30歳代後半から体外受精で妊娠、出産を目指す場合に、どのような方針を立てるのが得策なのでしょうか。

以下の3つが私たちからの提案です。

まず1つ目は、自分たちにあったクリニックを選ぶことです。現在、日本には約600の体外受精を実施する医療機関が存在しますが、どのクリニックでも同じような方針や治療内容、治療レベルで不妊治療が行なわれているわけではありません。

方針や治療の進め方、治療の方法はさまざまで、治療のレベルもばらつきがあります。

年齢が高くなればなるほど、画一的な進め方や方法ではなく、個別治療がとても大切になってきますし、治療のストレスに対する卵子や精子の抵抗力も低下してきます。

そのため、最新で、高いレベルの生殖医療が備わっており、患者の希望や状態に合わせた治療プランなり、治療方法の提案力、実施力が治療成績や治療への満足度を大きく左右することになります。

2つ目は、心とカラダの健康バランスを整えることです。

年齢が高くなるということは、強引な言い方をすれば、「抵抗力」が低くなっていくということです。

多少、質の悪い食生活、生活習慣でも、若さでカバーできるものですが、年齢とともにマイナスの影響受けやすくなってきます。

卵子の老化と言われますが、定まった定義などありません。

明確な不妊原因がなくても、種々、複数の因子が複合的に絡み合って、その結果、徐々に、妊娠率が低下していくわけです。

1つの対策でそれを逆転することは出来ません。

トータルの健康レベルを維持し、出来れば高めることで、全体の抵抗力の低下を遅らせるのが合理的な方法だと思います。

具体的には、バランスのとれた質の高い食生活や適切な栄養補助(サプリメント)、適度な運動習慣、質の高い睡眠や休息、リラクゼーション、そして、メンタルなメンテナンスも大切でしょう。
最後は夫婦が力をあわせることです。

妊娠、出産は二人で取り組むことだからです。

氾濫する情報に対するリテラシーは、一人よりも、二人で知恵を出したほうが高まりますし、自分たちにふさわしい選択や判断、そして、決めたこと実行するのも、二人で力をあわせたほうがうまくいくに違いありません。

授かるかどうかは自分でコントロールできませんが、クリニック選びやココロやカラダを整え、二人で力をあわせるかどうかは、100%、コントロール可能であり、そして、それ相応のリターンが得られる領域です。