編集長コラム

細川 忠宏

栄養素の相互作用について考える

2017年09月14日

環境ホルモンについては、ひと頃に比べて、それほどマスコミでも騒がれなくったように思いますが、だからと言って、問題がなくなったわけではなく、現在は、ヒトへの影響について、実際的な研究が続けられています。

特に、体内のホルモンの働きを乱すことから、生殖機能への影響が懸念されていて、これまで、
プラスティックの原料として食器や食品の容器などに使用されているビスフェノールA(BPA)やプラスティックや合成ゴムなどを柔らかくするフタル酸エステル類、一般的な家庭用抗菌剤として使われているトリクロサンなどの尿中の濃度が生殖機能の低下と関連するという研究報告がいくつもなされています。

このようなヒトにマイナスの影響を及ぼすことが懸念される環境ホルモンについては、決して野放しにされているわけではなく、使用を制限したり、禁止したりといった対策がとれてはいます。ただし、既に自然界に存在するわけで、いろいろな経路からヒトに取り込まれています。

そのため、もちろん、食器や容器、缶などについては、ある程度注意することは可能ですが、体内への侵入を完全に防ぐことは難しいと考えざるを得ません。

であれば、環境ホルモンに限らず、その他の化学物質や重金属、残留農薬なども含めて、有害物質については、入ってくるのを防ぐこともさることながら、入ってからマイナスの影響をできるだけ受けないようにすることも大切なように思います。

その対策として、すぐに思いつくのは、身体に備わった排泄能力を高めることでしょうか。デトックスです。十分に水分をとり、適度に運動すること、食物繊維をとることなど。

そして、最近の研究で明らかになってきたのは、栄養素の相互作用です。

ハーバード大学のEARTH Studyでは、環境中の化学物質の生殖機能への影響についての研究が続けられていますが、こんな研究報告があります。

尿中のBPAの濃度が高い女性は体外受精の治療成績が低くなることを確かめましたが、女性を食事からの葉酸摂取量の多いグループと少ないグループにわけると、少ないグループでは尿中BPA濃度と体外受精の治療成績との関係は変わりませんが、多いグループではそのような関連はなかったというのです。

つまり、食事で葉酸を多く摂っている女性は尿中のBPAの濃度が高くても、低くても、治療成績は影響を受けなかったというわけです。

このことから、葉酸にはBPAのマイナスの影響を「中和」するような働きがあるのではないかと考えられます。

さらに、大豆食品にも同じような働きが認められたといいます。

このようなことが起こるメカニズムについては、明確なことはわからないとしていますが、環境ホルモンのマイナスの働きは、たとえば、遺伝子の発現、すなわち、遺伝子のオンオフへの影響、また、ホルモンの受容体への作用などが考えられています。

一方で、葉酸には遺伝子の発現のオンオフの調節に関与するメチル基という物質をつくることに深く関わっていることがわかっていますし、大豆食品には弱いエストロゲンのような働きをするイソフラボンが含まれていることが知られています。

そのため、葉酸や大豆食品に有害な影響を中和する作用があるとすれば、遺伝子発現やホルモン受容体に関わるものではないかと考えられているようです。

実際に動物を使った実験では、そのメカニズムの一部が確認されています。

これらの研究結果が教えてくれているのは、食べて取り入れる栄養素の働きは、通り一遍のものではなく、それらの相互作用も含めれば、数え切れないくらい多彩なものであるということです。
研究で明らかにされているのは、それらの働きのほんの一端なのでしょう。

いろいろな食材から摂取している成分が私たちの生命活動を支えてくれていることを考えると、当然のことなのかもしれません。

植物にはポリフェノールなど、移動することができない植物が身を守るためにつくった、言ってみれば「自衛のための物質」が豊富です。

それぞれの植物には、それぞれに特有の成分が含まれています。

そして、その作用やメカニズムもさまざまなものがあると考えられています。

まさに、自然のチカラと言わざるを得ません。

このチカラの恩恵を受けるには、野菜を、とにかく、多くの種類を毎日食べることに尽きます。

そのことを証明する研究結果も出てきています。

野菜の「量」をたくさん食べるよりも、野菜の「種類」」をたくさん食べる人のほうが病気になりにくいとの研究報告もあります。

いろいろな種類の野菜や果物を、少しずつでも、毎日、いただくことは、まさに、生命をいただくことに他なりません。