編集長コラム

細川 忠宏

妊活情報とのつきあい方

2017年04月03日

高温相が11日以下と短くても、単発であれば、その後の妊娠確率にはそれほどの影響はないというノースカロライナ大学の研究結果が、アメリカ生殖医学会誌の3月号に掲載されています(1)。

実際、高温相が短い、あるいは、高温相が続かなくて困っている、高温相を維持するようなサプリメントはないか、そんな質問や相談が毎週のように、私たちのところに寄せられます。

あくまで、一般論ですが、もしも、高温相がないというような(基礎体温表がフラットな)状態でなければ、ひとまずは、それほど心配することはないということになります。

ましてや、あわてて、サプリメントを探す必要もないわけです。

そもそも、高温相が11日以下(10日以下という意見もあります)の場合に疑われる「黄体機能不全」からして、その定義があいまいな状態で、診断基準も統一されていないというのが、日本生殖医学会の見解です(2)。

また、アメリカ生殖医学会でも黄体機能不全の信頼できる診断法や治療法はないという見解です(3)。

要するに、高温相が11日以下と短い周期があっても、そのことが妊娠するのに問題になるのかどうか、明確なことは言えないのですね。

そして、もう一つのそもそも論として、高温相の長さを正確に知るのはそれほど簡単ではないということも、あります。

たとえば、測り方によって数値が上がったり、下がったりすることはよくあることですし、高温相がどこではじまって、どこで終わるのかについて、なかなか、判断しづらいというところもあります。

つまり、基礎体温から得られる情報に、それほど、一喜一憂することもないわけです。

それでは、なぜ、高温相が短い、続かないことを心配する女性が大勢いるのでしょうか?

おそらく、インターネットの情報でしょう。

試しに、「高温相、短い」で検索してみると、高温相が短いのは妊娠する力が低下している、だから、体質改善が必要であるという類のことが書かれたサイトが、次から次へ、ヒットします。

その数、何万件以上です。

1時間も見続ければ、煽られてしまい、当事者でなくても、なんとかしなければという気持ちにさせられるのがよくわかります。

そして、それらのサイトのほとんどは、関連商品の販売サイトへのリンクが貼られています。

このことは、いわゆる、「妊活情報」と、どう付き合えばいいか、という問題に行き着くように思います。

そもそも、妊活という言葉には、妊娠するためには、なにかやっておかなければならないという、なんというか、人を前のめりにさせるような、そんな空気が漂っています。

妊活に限らず、心配する必要のないことを心配したり、心配しなければならないことを心配しないことは、「ボタンの掛け違い」になり、それに気づくまで、無駄な時間や費用をかけてしまうことになりかねません。

ただでさえ、先が見えない、すなわち、いつ、どんな方法で妊娠に至ることができるのかが予測しづらい、そして、時間が限られている、「赤ちゃん待ち」の人たちにとっては、ボタンの掛け違いは、できれば避けたいものです。

決して、インターネットの情報は信じるな、疑ってかかれ、というようなことを言いたいわけではありません。

自分で情報をみる目を養って、いわゆる、リテラシーを高めて、情報を取捨選択できるようになるのが理想なのでしょうが、実際、言うほど簡単なことではありません。

それよりも、ネット情報の場合は、それは、どこの、誰が言っているのか、必ず、チェックするということに、最低限、気をつけるべきだと思うのです。

要するに、情報の内容、そのものを判断するのは難しいので、できるだけ早い段階で、信頼できる「人」をみつけるのがよいのかもしれません。

これが、私たちのこれまでの経験から言える、現時点での「妊活情報との付き合い方」です。


◎文献
1)Fertil Steril 2017; 107: 749
2)生殖医療の必修知識 P.175 
3)Fertil Steril 2015; 103: e27