編集長コラム

細川 忠宏

チームプレイヤーと個人プレイヤー

2016年07月03日

質の高い食事を続けている人ほど、老化のスピードが遅く、そして、長生きであるという研究結果が、日本とアメリカで相次いで発表されています。

日本のほうは国立がんセンターによるもので、約8万人の男女を15年間追跡した結果、食事内容が厚労省と農水省の「食事バランスガイド」に近いほど総死亡リスクが低かったというもの。

アメリカのほうはハーバード大学によるもので、約5万5千人の女性看護師を16年間追跡した結果、食事内容が「健康的な食事」に近くなるほど年齢による身体の機能の低下が緩やかだったというものです。

「食事バランスガイド」は、バランスのよい食事の目安を示したもので、アメリカの「健康的な食事」では、もう少し、踏み込んだ食べ方を示していて、具体的には、野菜や果物、全粒穀物、ナッツ、豆類、オメガ3脂肪酸はたくさん、お酒は適量、そして、砂糖入り清涼飲料水や加工肉、トランス脂肪酸は避けるか、少なく、という内容です。

実際のところ、バランスよく食べましょう!と言われても、もはや、「当たり前」で、「誰でも知っている」ことで、「それで?」なんて言われそうです。

ただし、バランスよく食べるという、シンプル、かつ、当たり前なことこそが、私たちに備わった身体の働きが年齢によるマイナスの影響を受けにくくなることに密接につながっているということを、科学的な手法で確かめたことに大きな意味があると思うのです。

一方、特定の栄養素や食品、サプリメント、健康食品でこのような効果が実証されたものはありません。

このことは何を意味するのでしょうか。

それは、バランスよく、健康的に食べることをおろそかにしたまま、「妊娠によい○○」とか、「不妊に効く○○」、「妊活○○」を取り入れても、それほどの効果は期待できない、得られるのは自己満足だけということになってしまいかねないということでしょう。

くれぐれも誤解しないでいただいたいのは、○○がダメだと言っているわけではありません。

そうではなく、優先順位が大切だと言いたいのです。

要するに、限られた時間と費用の中で、最大限の結果を得るには、信頼できる研究に基づいた効果的なものから取り組むべきだと思うわけです。

それでは、特定の栄養素ではなく、バランスが大事だというのは、どういうことなのでしょうか?

それは、栄養素はチームプレイヤーであって、個人プレイヤーではないということ、つまり、栄養素は一人ではそれほどのことはできない、チームになって初めて働けるようになるということでしょう。

それに対して、医薬品は優れた個人プレイヤーで、単独でも働くことができます。たまに、期待しないこともやらかすようですが。

なので、医薬品のような働きを期待して、特定の栄養素だけをせっせと摂取するのは間違ったやり方だと言わざるを得ません。

野球に例えれば、いくらイチロー選手が優れたプレイーヤーだからと言ってもチームになって初めて力を発揮することができるようになるのと同じことです。

大切なことはチームを構成するメンバー、すなわち、5大栄養素を過不足なく揃えることです。

もしも、妊娠力を期待して、優れた助っ人のプレーヤーを探し、補強すればリスクになってしまいかもしれません。

チーム力を高めるどころか、かえって、チームの和を乱し、チーム力を低下させてしまうかもしれないからです。

見つめるべきは「チーム力」、すなわち、「栄養バランス」であり、「食事の質」です。

まずは、毎食のバランスを見直し、ビタミンやミネラルをサプリメントで上乗せすることで栄養のチーム力を高めることになります。

その結果、「食事の質」が高まり、栄養チームが力を発揮してくれることになるはずです。

また、バランスが大事ということは栄養素だけに言えることではありません。

ホルモンや自律神経、免疫システムしかり、どれも単独ではなく、仲間と協働しています。

つまり、それぞれがつながり、お互いに影響しあっている、すべては、それだけで存在しているわけではなく、他のものに影響し、影響されているという関係。

すべては依存し、依存されている、すべては、あなた次第であり、すべてはわたし次第でもある、そういう状態だと。

全身にあらゆるネットワークがはりめぐらされているというイメージです。

そういう観点に立つと、それぞれはフラットであり、それぞれに「優劣」はない!という事実に気付かされます。

そして、バランスとは、決して、「とる」ものでは、「とれる」ようになるものではないかとも思います。

私たちのカラダには、そもそも、バランスをとろうとする働きが備わっています。

その働きを、信じ、レスペクトし、感謝し、大切にしたいと思います。