編集長コラム

細川 忠宏

不妊治療を受けるうえで最も大切なものとは?

2014年02月14日

不妊治療を受けてお子さんを授からなかったカップルは、授かったカップルに比べて、3倍も離婚しやすかったという、ある意味、ショッキングな調査結果が発表されています。

これは、1990年から2006年にデンマークの公立病院やクリニックの不妊外来に通院した47515人の女性の「その後」、具体的には、治療で子を授かったかどうか、そして、通院当時のパートナーとの現在の関係を、最長で12年に渡って追跡調査を行った結果です。

それによると、子を授かったカップルで離婚したり、別れたりしているのは24.4%だったのに対して、結局、子を授からなかったカップルのそれは29.7%だったというのです。

これを統計学的に解析すると、子を授からなかったカップルは授かったカップルに比べて3倍もパートナーと別れやすい傾向があるとのこと。

ただし、この結果をそのまま鵜呑みにして、頑張って不妊治療を受けても、結局、授からなかったら、夫婦関係が危うくなると解釈するのは早計です。

なぜなら、デンマークの夫婦の離婚率は40%で、不妊治療を経験したカップルのそれはずいぶん低いからです。

調査期間が異なるので単純比較は出来ませんが、不妊治療を経験したカップルのほうは結婚していないカップルも含んでいますので、実際にはもっと大きな差があるのかもしれません。

いずれにしても、治療で授かったか、授からなかったかということよりも、不妊治療を経験したかどうかのほうが、ふたりの関係が長く続くかどうかに、より強く影響していることがわかります。

つまり、不妊治療経験が「ふたりの関係」を強くするのです。

そして、それは、授かっても、授からなくても、です。

男性不妊を専門とする泌尿器医で、複数のクリニックの男性不妊外来で診療に携わっておられる中條弘隆先生は、患者さんに「君はラッキーだね」と、お話しされるそうです。

「だってさあ、夫婦で生活してて、どんなに一生懸命、仕事頑張っても、奥さんほめてくれないでしょ。仕事、頑張るのは当たり前だからね、生活していくためにね。だけどね、不妊治療で一生懸命やってみ、奥さんの評価上がるよ。」

そして、

「ましてや、手術まで受けるとなるとね。夫がそこまで頑張ってふたりの子ども、新しい家族を迎えるためにやってくれたのかとなれば、奥さんとしては、やっぱり、夫を頼もしく見るだろうし、この人は本気でお父さんになるつもりなんだっていう気合いを感じるわけですよね。」

さらに、

「もしも、そこで気持ちが感じられなかったら、お子さんを授かったとしても、自分一人が育てるようになるって思われても仕方ないよね。」

このようにおっしゃるのです。

そもそも、不妊治療は命にかかわる治療ではありません。新しい家族を迎え、家庭を築いていくためのものです。

これまで、先生の患者さんで、不妊治療後に離婚されたカップルも少なくないそうですが、その原因として最も多いのは「精子の成績」や「授かったかどうか」ではなく、「熱意のあるなし」だったとのこと。

ですから、たとえ、お子さんが授からなくても、赤ちゃんがなかなかやってこないことに悩んだり、不妊治療を受けたりといった経験で、普段は見えなかったお互いの本当の気持ちに触れることが出来て、夫婦の関係がより強くなったというケースは、それ以上にあるというのです。

不妊治療を受けるうえで最も大切なことは、「結果」ではなく、「プロセス」だということを、つくづく、感じました。