編集長コラム

細川 忠宏

不妊情報への接し方

2005年05月28日

不妊の期間が長くなってくると、先が見えない、要するに、いつ、どうしたら妊娠出来るのかが分からないだけに、不妊に関する情報と上手く接していかないと、何が、何だか、分からない、状態になりかねません。

また、ちょっとした誤解や思い込みが、不必要に悩みを大きくしているように感じることも少なくありません。

不妊に悩むカップルが、"後悔しない選択"をするためには、正確に情報を入手することが必須です。

そこで、私たちなりに気づいたことを、少し整理してみます。

見出しに踊らされることなかれ!

情報を鵜のみにしないということです。

例えばですね、最新ニュースで、こんな見出しがあります。

「バイアグラ服用、米で深刻な視覚障害例」

多くのEDに悩む男性が使っているバイアグラですが、この記事の見出しを鵜のみにしてしまうと、"バイアグラを飲むと失明してしまう!" なんていうことになる訳です。
そんな、強引な!、なんて思われるかもしれませんが、冷静に考えてみると、割とやっているんですね。

なぜなら、こうすれば、こうなる!というのは、人間にとって、"心地よい情報"であるからです。断定し、曖昧さを排除すれば、スッキリと気持の良いものです。

そして、分かりやすいものですし、だから、伝えやすく、伝わりやすいものです。

ところが、本文の記事をよく読んでみると、バイアグラを飲むことで、視覚障害が発生したという報告は、2,300万人の利用者中、38人で、
特に、50歳以上で、高血圧や糖尿病がある人に多いとのこと。

見出しを鵜のみにすれば、まるで、バイアグラを飲むと失明してしまうように思ってしまいますが、それは、単なる"事実"にしか過ぎません。

私たちが、入手すべき"情報"というのは、その事実は、どれくらいの頻度で発生しているのか、どんな条件で起こりやすいのか、そんな、傾向です。

さらに、それが、数値化されていれば、なお良いと言えます。

"事実"だけでは、不安が大きくなるばかりですが、"数値化された傾向"を把握することが出来れば冷静に判断出来る訳です。

複合的であることを知ること

妊娠しやすさを左右する要素はたくさんあるということです。

A病院の体外受精の治療成績は20%であるのに対して、B病院のそれは30%であったとしましょう。
果たして、B病院のほうが、質の高い医療を提供していると見るべきなのでしょうか?
治療成績だけみれば、 ついつい、そう思ってしまうかもしれません。

ところが、治療成績を左右するのは、体外受精を受けた患者の年齢や不妊の期間、不妊の原因、治療歴、さらには、夫の精液の状態や心理状態などなど、治療の成功率に影響を及す要因は無数にあるといっても 過言ではありません。

治療成績にこだわるあまり、年齢制限を設けたり、難治性の不妊症患者は受け付けないという病院もあります。

逆に、腕の良い医師のところに、評判を聞きつけて、他の病院では難しいと言われた患者さんが集まってくれば、当然、治療成績は、それほど良い数字にはならないはずです。

そうです、治療成績の数字だけでは、本当のことは見えてきません。

また、「私は、○○で妊娠しました!」という体験談は、不妊に悩む者にとっては、思わず、"私もあやかりたい"という心理が働くのが人情というもの。

ところが、○○は、 妊娠に至った要因の一つであることを知る必要があります。

客観的な情報を得るということ

良いことも、悪いことも、偏りのないことです。

大前提として、100%良い、または、100%悪いことなど、有り得ないことを知る必要があります。

薬の作用と副作用しかり、治療の成功率と流産率や多胎率等のリスクしかり、です。

ということは、良くもあり、悪くもあるという、一見、あやふやであいまいな状態こそが、人間のカラダであり、それが、現実のようです。

ところが、前述のように、耳に心地よく入ってくるのは、そんな、あいまいであやふやな状態ではなく、100%良い、もしくは、100%悪い情報の方です。

100%良ければ、即、採用ですし、
100%悪ければ、即、却下ですよね、
ですから、あまり、考えたり、悩む必要がありません。

なんと言いますか、客観的で正しい情報を得るには、ちょっとした、覚悟が要るように思うのです。
現実に立ち向かう勇気と言ってもいいかもしれません。

良いことにも、悪いことにも、偏りなく耳を傾けて、それぞれに天秤にかけてみることが大切です。

二人が自己決定するということ

二人で決めなければならない、のではなく、二人でなければ決められない、ということです。

不妊の原因に応じて、どんな治療が必要で適切なのかは、専門医が答えを持っています。

ところが、どこまでの治療を受けるのか、そして、その治療をいつまで続けるのかは、二人でなければ決められません。
なぜなら、それは、どれだけ子供を欲するのかは、二人でなければ分からないからです。

まさに、価値観の問題であり、生き方に関わる問題です。

もしかすれば、不妊を経験するということは、二人で、自分たちの価値観や生き方を、改めて、見詰め直すことを神様に促されているのかもしれませんね。