私たちは、薬や化学的な療法に比べて、ハーブや漢方などの"自然なもの"、また、代替医療と呼ばれる"自然療法"は安全だろうというイメージをもっています。
ところが、自然なものがいつも安全で安心できるかというと、そんなことはないようです。
妊娠中のハーブの使用について、ショッキングな研究結果が、イタリアの大学から報告されています(1)。
北イタリアの3つの公立病院で子どもを出産した700名の女性に出産後3日以内に妊娠中のハーブの使用について聞き取り調査を実施したところ、その内189名は毎日ハーブを使用しており、アーモンドオイルやカモミール、フェンネルがよく使われていたといいます。
そして、妊娠中のハーブの使用は妊娠期間や出生体重に影響していて、アーモンドオイルを使っていた女性は使わなかった女性に比べて早産になる割合が高く、アーモンドオイルは、胎妊娠や喫煙、加齢、ドラッグの使用とともに、早産の危険因子になるというのです。
アーモンドオイルと言えば、妊婦のお腹にマッサージですり込むと妊娠線が予防できるとして、日本でもポピュラーです。
このことが物語っているように、「自然なものだから」、「よく使われているから」大丈夫だろうという考えは捨てたほうがいい、特に、取り返しがつかないことについては尚更のことです。
研究チームは、マッサージそのものの刺激が子宮を収縮させたのかもしれないし、あるいは、アーモンドオイルには、子宮を収縮させる働きのある成分が含まれるのかもしれないと指摘しています。
つまり、「自然かどうか」ではなく、「安全な使い方か」、そして、「含まれているものが安全か」どうかを、見極める必要があるというわけです。
考えてみると、自然のものは、人工のものに比べると、その内容はピュアではなく、雑多で、何が入っているのか把握しづらいだけでなく、その時々で、含有成分やその量が変化し、一定ではありません。
そのため、安全なものかどうか、また、安全な使い方かどうか、判断が難しいところがあるわけです。
私たちとしては、妊娠、出産に際しては、特別なこと、特殊なものを取り入れるよりも、「あたりまえ」なことの「あたりまえ」度を高めることが大切であるという、私たちの考えを強調しておきたいと思います。
自然な療法も例外ではありません。
デンマークの5つの生殖医療クリニックで初めて体外受精や顕微授精を受けることになった728名の女性を1年間フォローして、高度生殖補助医療と代替医療の併用やその影響について調べた研究報告があります(2)。
約3分の1の223名の女性が代替医療を併用していて、その内容は、多い順に、リフレクソロジー、ハーブ&アロマ、鍼灸、運動療法、ホメオパシー、ヒーリング、その他です。
そして、年齢など、治療成績を左右するものの影響を排除したところ、代替医療を併用していた女性は併用しなかった女性に比べて妊娠率や出産率が約30%低かったというのです。
早合点しないでいただきたいのは、あくまで、そのような相関関係があったということで、代替医療が妊娠率を低下させるという因果関係があることがわかったということではありません。
そのため、代替医療を併用することは妊娠にマイナスにしかならないというわけではありません。
ここでも、代替医療の中には、そのやり方、つまり、同じ療法でも施術法次第では、妊娠にプラスになったり、マイナスになったりするということなのかもしれません。
また、代替医療に間違った効果を期待して、生殖補助医療を適切なタイミングで受ける機会を逸したということがあるのかもしれません。
いずれにしても、「自然なものか」、「自然な方法か」ではなく、「安全かどうか」、「適切な方法か」をきちんと見極め、判断する力を養うことが大切なのでしょう。
[文献]
1)Herbal supplements in pregnancy: unexpected results from a multicentre study
HumReprod.2012 Nov;27(11):3161-3167
2)Use of complementary and alternative medicines associated with a 30% lower ongoing pregnancy/live birth rate during 12 months of fertility treatment
HumReprod.2009 Jul;24(7):1626-1631