第24回ヨーロッパ生殖医学会ハイライトから

2008年07月13日

7月6日から9日まで、スペインのバルセロナで、第24回ヨーロッパ生殖医学会の年次総会が開催されました。

そこで発表された不妊や不妊治療に関する最新の研究報告の中から、読者の皆さんに参考になりそうなものを、いくつかピックアップしてご紹介することにします。

まずは、高度生殖補助医療に関連するものからです。

★顕微授精の妊娠率を年齢と治療回数からみると

妊娠した女性のほとんどは2回目の治療までに妊娠しており、回数を重ねる毎に、妊娠率は低下していくが、女性の年齢が高くなるほど、初回からの妊娠率が低くなるものの、回数を重ねてもさほど低下しない。

アメリカのコーネル大学の生殖医療センターの研究チームは、1993年9月から2007年12月の間に、6719名の女性に実施した顕微授精8970周期の結果を、35歳以下、36~39歳、40歳以上の3つのグループ別に分析しました。

8970周期のうち妊娠に至ったのは3515周期(39.2%)で、1人あたりの治療周期数は8周期が最も多いものの、6周期以上の治療を受けた人はほんの一握りだったとのこと。

妊娠に至ったケースの79.7%は1回目の治療で妊娠しており、2回目の治療では16%、3回目は3.4%でした。

年齢別にみると、35歳以下では妊娠率は50.8%で、初回の妊娠率は53.7%、2回目は43%、3回目は33%、4回目は23%、そして、5回目は18.2%で、妊娠に至った女性は全員5回目までに妊娠していました。

36~39歳では、妊娠率は39.5%、1回目の妊娠率は41.5%、2回目以降、徐々に低くなって、5回目で25%でした。

そして、40歳以上では、妊娠率は24.1%、1回目の妊娠率は24.6%で、5回目でも18.5%と、
他の年齢別グループに比べれば、さほど低下しませんでした。

《解 説》

母親になる女性の年齢が35歳以下であれば、体外受精を受ける際には、予め、治療は5回までと決めて計画を立てるのがよいかもしれません。

女性の年齢が若いほど、体外受精による治療効果が顕著なのは、卵管因子や男性側に不妊原因があるケースが多いことが推測されます。

ですから、30歳代後半以降の場合でも、長丁場にならざるをえないケースが増える傾向は否定できないものの、もしも、不妊の原因が卵管因子や男性側にある場合には、35歳以下の場合と同様に、
5回程度を目安にするのがいいかもしれません。

それに対して、女性の年齢が高くなるほど、初回から妊娠率が低く、反対に、回数を重ねても、それほど低下しないのは、妊娠に至らない原因は、身体の機能の問題ではなく、卵子の染色体異常によるものが増えてくるものと考えられます。

年をとることで、不妊原因がなくても、卵子の染色体異常の割合が増えるため、妊娠までに時間がかかるようになるからです。

女性の年齢が高くなるほど、明らかな不妊原因がないのであれば、体外受精や顕微授精の治療効果は小さくならざる得ないわけですから、身体やメンタルな状態を整えながら、より自然に近い方法で授かることを期待するのが現実的かもしれません。

次は、体外受精や受精卵凍結が子どもに及ぼす影響についてです。

★体外受精が子どもの脳の発育状態及ぼす影響について

体外受精で生まれた子どもは、自然妊娠で生まれた子ども、そして、不妊症の夫婦の間に自然妊娠で生まれた子どもと比べて、運動神経の発育について、差はみられませんでした。

オランダの大学病院の研究チームは、体外受精で生まれた120人の子供と自然妊娠で生まれた450人の子供、そして、不妊症の夫婦の間に自然妊娠で生まれた子供90人を、生後数ヶ月の時点の脳の発育を、手足の動作を調べることで、比較しました。

その結果、それぞれのグループ間の差はみられなかったとのこと。

★凍結融解胚移植が子どもに及ぼす影響について

凍結融解胚移植で生まれた子どもは、新鮮胚移植で生まれた子どもに比べて出生時の体重が重く、低体重や早産、先天性異常のリスクについて、高くなることはありませんでした。

デンマークの大学病院の研究チームは、1995年から2006年に、凍結融解胚移植によって生まれた子ども1267人と、新鮮胚移植によって生まれた子ども18000人のデータを比較したところ、

出生時の体重では、凍結融解胚移植で生まれた子どののほうが、新鮮胚移植で生まれた子どもよりも平均200グラム重く、早産や低体重児の割合も凍結融解胚移植で生まれた子どものほうが低く、
先天性異常の割合も差は認められませんでした。

今度は、生活習慣が及ぼす影響についてです。

★生活習慣が及ぼす影響について

コーヒーやお酒を飲み過ぎたり、喫煙や肥満は、不妊に悩む夫婦の自然妊娠の確率を低くする可能性があることがわかりました。

オランダのRadboud Universityの研究チームは、1985年から1995年の間にオランダで体外受精を受けたにもかかわらず、体外受精では妊娠できなかった女性、約9000人を対象に、その後の自然妊娠に至ったかどうかの調査、そして、生活習慣についてのアンケートを実施しました。

その結果、体外受精を受けても妊娠できなかったにもかかわらず、16%の女性は、その後、自然妊娠したことが判明、そして、その45%は、最後に体外受精を受けてから半年以内でした。

また、生活習慣との関連を調査したところ、1日に4杯以上のコーヒーを飲む女性は、また、週に3回以上お酒を飲む女性は、 自然妊娠する確率が26%低く、喫煙する女性や肥満女性は、それ以上に自然妊娠する確率が低かったことが分かりました。

年齢が36歳で、喫煙やたくさんのお酒やコーヒーを飲む習慣があって、肥満の女性は、3回の体外受精で妊娠できなかったあと、自然妊娠できる確率は5%程度になるものの、もしも、喫煙やたくさんのお酒やコーヒーを飲まない、そして、標準体重の女性のそれは、3倍の15%になるとのこと。

《解 説》

タバコを吸って、大量のお酒やコーヒーを飲む肥満の女性でも、普通に妊娠する方は大勢いらっしゃいます。

ですから、生活習慣させ改善すれば授かるというわけではありませんが、なかなか授からない夫婦にとっては、日常の生活習慣は、少なからず、影響を及ぼすということを知っておく必要があるようです。

最後に男性の妊娠させる力についてです。

★肥満は精液の質を低下させる可能性

過剰な脂肪が精巣の体温を高めることで、精子をつくる働きが低下することで、肥満が精液の質を低くする可能性があることがわかりました。

イギリスのアバディーン大学の研究チームは、なかなか授からない2000組のカップルの男性の精液を調べました。

被験者の男性は体格指数(BMI)によって4つのグループに分けました。

喫煙や飲酒、年齢など、精液の質に影響を及ぼす因子を除外した結果、BMIが20~25のグループの男性は、肥満の男性よりも奇形率が低く、精液の量の多いことが確認されました。

それに対して、BMIが高いグループは、奇形精子率が高く、精液の量の少ないことが分かりました。

精子濃度や運動能力には顕著な差はありませんでした。

★男性の年齢も妊娠率や流産率に影響を及ぼす

父親になる男性の年齢も高くなるに従って、妊娠率が低下し、流産率が高くなることが、フランスで実施された試験で明らかになりました。

パリのEylau Centre for Assisted Reproductionで、2002年1月から2006年12月までに、人工授精を受けた12,200組の不妊症のカップルを対象に、 男性の精子量や運動能力、妊娠率、流産率、出産率と、男性と女性の年齢との関連を調査しました。

その結果、女性の年齢が35歳を超えると、妊娠率が低下し、流産率が高くなることが分かっただけでなく、男性の年齢が30代後半になると、流産率が高くなり、40歳を超えると妊娠率が低下することが分かりました。

研究チームでは、男性の年齢が高くなるに従って、精子のDNAに異常がある割合が増えてくるからではないかとしています。

《解 説》

これまで、年齢や体重と言えば、母親になる女性のことだけに注目されてきましたが、男性の年齢や体重も考慮に入れる必要がありそうです。

妊娠しやすいカラダづくりという発想は、男性にも大切なことなのではないでしょうか。