37歳以上の女性の体外受精や顕微授精について
■移植する胚の数
★38歳、39歳では2個、40歳では3個、41歳以上はそれ以上
最近の傾向としては、不妊治療の最大のリスクである多胎妊娠を避けるため、 体外受精では、移植する胚の数を出来るだけ減らす傾向にあります。ただし、 胚の数を減らすことは治療の成功率を低下させてしまいかねません。
特に、高齢女性の場合は、そのことが、より切実になることから、年齢と戻 す胚の数がどのように妊娠率や多胎率に影響するのかが大変重要な情報になります。
ここでは、アメリカ体外受精学会(SАRT)が、2000年から2004 年まで、37歳以上の女性の5500の高度生殖医療による治療周期を分析した結果を報告しています。
それによりますと、38歳、39歳では、単一胚移植よりも、2個胚移植のほうが分娩まで至る割合が高くなりますが、戻す胚を3個以上に増やしても、多胎率が高くなるだけで、分娩まで至る割合は変わりません。
ところが、40歳になると、3個の胚を戻すことが、多胎率を上げずに、分娩まで至る割合を高めます。ただし、40歳以上では、胚の数を増やせば増 やすほど、妊娠率は高くなります。また、41歳、42歳では、戻す胚の数が6個までは、多胎率はそれほど高くなりません。
■40歳以上の治療成績
★移植あたり生産率は11.3%
アルゼンチンで2004年から2006年に実施された、自己の胚を用いた40歳以上の体外受精や顕微授精では、治療周期の23.8%は、卵巣刺激に反応しなかった、または、受精卵が得られなかったという理由で、胚移植まで 進むことが出来ませんでした。
そして、40歳から45歳の移植あたりの生産率(分娩まで至った確率)は、 11.3%でした。また、46歳、47歳では、生産率はゼロでした。
【解 説】
アメリカでは、法律で、全国の治療成績やそれぞれの医療機関の治療成績を、 開示するように義務づけられています。そして、それぞれの治療成績は、治療を受ける患者の年齢などの背景別の治療成績も報告されています。
ですから、単に、年をとると妊娠しにくくなるという漠然とした情報ではなく、年齢別の治療成績のような具体的な情報を参考に、自らの治療方針を検討すべきだと思います。
単一胚移植による治療成績
■単一胚移植による体外受精・顕微授精の累積生産(分娩まで至る)率
★6周期以内に3分の2の女性が分娩に至る
ベルギーで、2003年から2005年末までに実施された1074周期の 単一胚移植による体外受精や顕微授精の累積生産率は、、初めての治療周期で22%、2回目の周期で39%、3周期目で48%、4周期目で52%、 5周期目で59%、そして、6周期で65%でした。
そして、多胎(双子)率は8.2%、また、治療成績は女性の年齢によって、 大きく左右され、36歳未満の4周期目の累積生産率が65%だったのに対して、36歳以上のそれは28%でした。
【解 説】
体外受精における最大のリスクである多胎妊娠を防ぐために、移植する胚の数を限りなく1個に近づけることは、世界的な傾向です。
子宮内膜症と体外受精の治療成績の関係
■チョコレート嚢腫の大きさと体外受精の治療成績の関係
★軽度の子宮内膜症は体外受精の治療成績に影響を及ぼさない
第3期と第4期の子宮内膜症と診断され、小さなチョコレート嚢腫があって、 体外受精を受ける79名の女性を、チョコレート嚢腫の大きさによって、3 つのグループ(1~2cm、2~3cm、そして、3~4cm)に分けて、 比較対照グループとして子宮内膜症のない体外受精を受ける27名の女性の 治療成績を調べました。治療は全て、体外受精による2日目胚を2~3個移 植しました。
その結果、4つのグループ間の卵巣刺激に要した排卵誘発剤の量や14ミリ 以上に発育した卵胞の数、採卵数、子宮内膜の厚さには、顕著な差は見られませんでした。
そして、臨床妊娠率は、14.3%(1~2cm)、24%(2~3cm)、 19.2%(3~4cm)、そして、比較対照グループでは18.5%と、 妊娠率においても、グループ間の差は確認できませんでした。
【解 説】
軽度の子宮内膜症やチョコレート嚢腫と不妊の関係は明確ではないようです。 ですから、子宮内膜症やチョコレート嚢腫があるからといって、不妊症ではないかと過剰に心配する必要はないようです。原因不明不妊でのステップアップの考え方について
■AIHからIVFへの移行のタイミングと治療成績の関係
★IVF移行前のAIHの回数を減らすことは時間の節約になる
503組の不妊期間1年の原因不明のカップルを無作為に2つのグループに 分けて、一方のグループは、アメリカの標準的な治療ステップ、具体的には、 クロミフェンによる過排卵を伴うAIHを3周期、それでも妊娠しなかった 場合には、注射(FSH)による過排卵を伴うAIHを3周期受けて、それでも妊娠しなかった場合には6周期の体外受精を受けました。そして、もう一方のグループは、クロミフェンによる過排卵を伴うAIHを3周期受けて、 それでも妊娠しなかった場合は、体外受精にステップアップし、注射による 過排卵を伴うAIHを省きました。
その結果、いずれのグループも最終的に妊娠に至った割合は、75%と78 %よ、ほとんど変わりませんでした。ところが、妊娠に要した期間は、早く 体外受精にステップアップしたグループのほうが短く、最初の1年間では、 体外受精に早くステップアップしたグループのほうが40%多く妊娠に至る ことが出来たとのこと。
結局、アメリカの標準的な治療ステップを受けたグループは、妊娠するまで 平均11ヶ月かかったのに対して、注射によるAIHをスキップして早めに IVFにステップアップしたグループは、妊娠するまで平均8ヶ月、かかっ たことになります。
【解 説】
単一胚移植による体外受精が推奨されるようになって、体外受精における多胎妊娠率が劇的に低下したことから、注射によって、たくさんの卵子を排卵させて実施する人工授精における多胎妊娠が問題視されている背景があるよ うです。
アメリカでは、自然周期の人工授精はほとんど行われないようで、全て、排卵誘発剤で複数の卵子を排卵させて実施されているからです。
日本でも、自力で排卵があっても、人工授精時には必ず排卵誘発剤で過排卵させる、アメリカ式の治療方針のクリニックが多いようですから同じ問題があります。
対策として、今回の報告のように、人工授精の回数を6回から3回に減らし て、早めに体外受精にステップアップすれば、妊娠に至る期間が早くなるのは当然のことと思われます。
ただし、それによって短くなる期間は、平均して11ヶ月から8ヶ月ですか ら、それよりも、自然周期による人工授精のステップを設けたり、軽い排卵誘発剤を使う人工授精の回数を増やすことを検討してもよいように思えます。
また、コスト比較も報告されていますが、コストについては、アメリカと日本での状況が大きく異なりますので、省きました。
男性の妊娠させる力に影響を及ぼすものについて
■禁欲期間と精液の質との関係
★禁欲期間を短くするほど精子のDNAの損傷度は低くなる
オーストラリアの大学で、DNA損傷精子が多いため奇形率が高く、男性不 妊と診断された42名の男性の7日間、毎日、射出した精子と3日間の禁欲 後に射出した精子を比較したところ、37名の男性で、禁欲期間がない時の精子のほうがDNA損傷精子が少ないことが確認されました。
このことから、毎日、射出することによって、DNAの損傷を低下させることが出来るとしています。
また、ブラジルの試験では、体外受精や顕微授精を受けている夫婦の男性の禁欲期間を7つのグループに分けて、受精卵の質や妊娠率を比較したところ、 最も受精卵の質と妊娠率が高かったのは、1日の禁欲後に精子を採取したグ ループだったことが分かりました。
【解 説】
これまでは数日の禁欲期間を設けることが精液の質がよくなると考えられていましたが、男性不妊の男性では禁欲期間を短くすることを検討する価値がありそうです。
■クラミジア感染と精液の質との関係
★クラミジアは精液の質を低下させる
スペインの研究チームは、143名の子どもができないクラミジアに感染している男性の精子を、最新の顕微分析技術で調べたところ、クラミジアに感染している男性の精子は、健康な男性のそれに比べて、3倍以上のダメージを受けていることを確認、精子数や運動能力も低く、奇形率も高かったとの こと。
そして、95名のクラミジアに感染している不妊男性に抗生物質による治療を施したところ、4ヶ月後には36%の男性の精子DNAへのダメージが回復しました。
また、治療期間中に13%のカップルが妊娠し、治療終了後に妊娠したカッ プルは86%になったとのこと。
【解 説】
クラミジア感染は男女の妊孕性を低下させるようです。早期に治療することが大切です。