移植周期の身体活動やストレスは妊娠に影響するか?

妊孕性に影響する因子

2026年02月20日

Fertil Steril 2025 Article in Press https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2025.08.039

胚移植において、ウェアラブルデバイスで測定した身体活動レベルや、唾液中コルチゾールで評価したストレスレベルは、妊娠率に影響を及ぼさないことが、米国で実施された研究で報告されています。

体外受精(ART)治療を受ける女性にとって、胚移植の前後をどのように過ごすべきかは大きな関心事です。移植前は積極的に体を動かしたほうがよいのか、移植後はできるだけ安静にすべきなのか、あるいはストレスが着床に悪影響を与えるのではないかといった疑問や不安を、胚移植を受けた女性の多くが感じています。医師から「通常通りの生活で問題ありません」と説明を受けても、少しでも妊娠率を高めたいという思いから、活動を控える方も少なくありません。

このような背景のもと、テキサス州ベイラー医科大学の研究者らは、凍結融解胚移植に臨む女性を対象に、身体活動量やストレスが妊娠成績に与える影響を評価する研究を行いました。これまでにも「移植後の安静は妊娠率を高めない」とする報告はありましたが、本研究の特徴は、自己申告ではなくウェアラブルデバイスや生化学的指標を使って客観的にデータを収集した点にあります。

研究は大学病院で凍結融解胚移植を受ける82名の女性が対象となりました。35歳未満ではPGT-A未検査の単一胚盤胞、35歳以上では正倍性が確認された単一胚盤胞を移植すること、またホルモン補充後の子宮内膜厚が6mm以上であることが条件とされました。参加者は研究期間中、活動量を計測するためのウェアラブルデバイスを装着し、歩数、活動強度、消費カロリー、心拍数、睡眠時間などが連続的に測定されました。さらにストレス値を調べるため、胚移植の2日前の起床時、起床30分後、就寝時の唾液からコルチゾール値も評価されました。

平均約40日間にわたり収集されたデータをもとに、妊娠に至った51名と妊娠に至らなかった31名が比較されました。その結果、研究期間全体および胚移植前後での平均歩数には有意な差は認められませんでした。活動強度、心拍数、消費カロリー、睡眠時間についても、明らかな差はみられませんでした。つまり、胚移植の前後でたくさん歩いたり運動した場合でも、安静に過ごした場合でも妊娠に至ったかどうかとは明確な関連はなかったということです。

さらに、唾液から採取されたコルチゾールによるストレス指標にも差は認められませんでした。

興味深い点として、胚移植前後の歩数変化をみると、妊娠群では移植後に1日あたりの歩数がやや増加し、非妊娠群では減少していました。しかしながら、平均歩数そのものが妊娠を予測する因子とはならず、統計学的に妊娠率を左右する要因とは結論づけられませんでした。

コメント

この研究によって示されたのは、凍結融解胚移植周期において、通常範囲の身体活動や日常的なストレスレベルが妊娠率に直接的な影響を及ぼす可能性は低いということです。移植後に極端に安静にする必要性を裏づける科学的根拠は、少なくとも本研究からは得られませんでした。

ただし、ここで重要なのは、「運動やストレスが妊娠に無関係である」と短絡的に解釈しないことです。適度な運動が心血管機能や代謝、メンタルヘルスに良好な影響をもたらすことは広く知られていますし、慢性的な強いストレスが健康に悪影響を及ぼすことも明らかです。妊娠率だけを目的に生活を制限するのではなく、将来の妊娠・出産、さらには長期的な健康を見据えたプレコンセプションケアの一環として、運動習慣やストレス管理を考えることが大切ではないでしょうか。

胚移植の前後は、どうしても緊張や不安が高まる時期です。しかし、科学的根拠に基づけば、過度に生活を制限する必要はないといえます。安心して日常生活を送りながら、自身の心身の健康を整えていくことこそが、最も現実的で前向きな選択なのかもしれません。