全粒穀物の摂取量と体外受精治療成績

妊孕性に影響する因子

2016年03月03日

Fertility and Steriliry

治療開始前から全粒穀物をよく食べている女性ほど体外受精の出産率が高いことがアメリカの研究で明らかになりました。

ハーバード公衆衛生大学院の研究チームは、EARTH研究(*)に参加している273名の女性(18〜46歳)の全粒穀物の摂取量と427治療周期の体外受精の治療成績との関係を調べました。

全粒穀物の摂取量は治療を開始する前に食物摂取頻度調査票をつけてもらうことで調べました。全粒穀物の1日あたりの摂取量の中央値は34.2g(〜1.2serving)でした。1日あたりの摂取量で4つのグループ(Q1〜Q4)にわけました。各グループの1日あたりの摂取量の中央値と範囲は以下の通りでした。

Q1:15.4g(<21.4g)
Q2:26.4g(21.5-34.2g)
Q3:41.9g(34.4-52.4g)
Q4:70.8g(>52.4g)

その結果、全粒穀物の摂取量が多いほど治療周期あたりの着床率や出産率が高いことがわかりました。

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■全粒穀物の摂取量の各グループ別の治療周期あたりの着床率(左)と出産率(右)
(Gaskins. Whole grains and IVF outcoems. Fertil Steril 2016のFIGURE1を改変)

全粒穀物の摂取量が最も少なかったグループ(Q1)の着床率が51%だったのに比べて最も多かったグループ(Q4)では70%でした。また、Q1の出産率が35%だったのに比べてQ4では53%と18%の差がありました。妊娠率においても同じ傾向がみられましたが統計的学的に有意な差ではありませんでした。

一方、全粒穀物の摂取量と成熟卵数や胚質は関連しませんでしたが、全粒穀物の摂取量が多いほど胚移植時の子宮内膜厚が厚いことがわかりました。

また、ふすま(糠)の摂取量は着床率や妊娠率、出産率と強く関連し、ふすまの摂取量が多いほど着床率や妊娠率、出産率が有意に高くなりました。そして、ふすまを含有食品として食べても、ふすまを混ぜて食べても同じでした。ところが、胚芽の摂取量と着床率や妊娠率、出産率、食物繊維の摂取量と妊娠率の間にはそのような関連は見られませんでした。

これらのことから、治療開始前から全粒穀物を多く食べている女性ほど体外受精の着床率や出産率が高く、それは、子宮内膜の受容能の一つの目安である子宮内膜厚を介するものであると考えられると結論づけています。

コメント

EARTH研究とはハーバード大学医学部の関連病院であるマサチューセッツ総合病院で体外受精や顕微授精を受けているカップルを対象に治療成績に影響する要因について調べる前向きコホート研究のことで、2006年にスタートして現在も進行中です。

今回、研究グループは全粒穀物をよく食べている女性ほど着床率や出産率が高くなることを確かめました。全粒穀物とは穀物の表皮(ふすまや糠)や胚芽などを除去(精製)していない穀物のことで、具体的には、玄米や全粒粉パン、全粒粉パスタなどです。

そして、全粒穀物の1日あたりの摂取量が多い女性ほど子宮内膜も厚かったのに対し、成熟卵数や受精率、胚質などには関連しなかったことから、母体側の子宮内膜の受容能の影響ではないかとしています。

それは1つには、全粒穀物にはビタミンやミネラル、フェノール酸、リグナン、その他の植物性エストロゲンなどの抗酸化物質を多く含み、それらの相乗作用が活性酸素の発生の抑制に働いたこと。

2つ目には全粒穀物の表皮には植物性エストロゲンとして知られるリグナンが豊富で、そのエストロゲン様作用が子宮内膜の形成をサポートするような作用があるのではないかということ。

最後に全粒穀物には食物繊維が豊富に含まれるため消化吸収をゆっくりにし、その結果、食後の血糖値がゆっくりと上昇し、時間をかけて下降することになり、高血糖や高インスリンによる卵巣機能や卵質の低下の予防につながったことを挙げています。

このハーバード公衆衛生大学院の研究チームは、女性看護師を対象にした大規模疫学調査「看護師健康調査」でも精製度の低い炭水化物を多く食べる女性ほど排卵障害による不妊症の発症リスクが低いことを確かめています。

今回の研究結果も併せて「精製度の低い穀物を食べることは妊娠、出産に有利な食べ方」であることがわかりました。