着床障害の原因になっているかもしれない遺伝子を発見

不妊改善・生殖医療関連

2006年01月16日

the Proceedings of the National Academy of Sciences

アメリカのイリノイ大学の研究チームは、 ある遺伝子が働かないことが、子宮内膜への着床を妨げているのではないかという研究結果を発表しました。

マウスを使った実験で、CCAAT/Enhancer Binding Protein beta(C/EBPb)と呼ばれる子宮のたんぱく質を発現する遺伝子が欠損している胚は、子宮で母親からの血液の供給を受けることができず生き延びることが出来ないことを確認しました。

このたんぱく質は人間にも存在し、胚が子宮内膜で着床するときに出来て、人間においても、妊娠するためにはなくてはならないものではないかとしています。

研究に携わった研究者によりますと、マウスを使った実験では、C/EBPbは、エストロゲンとプロゲステロンによってコントロールされていて、着床に重要な4日間に、ほとんどは、プロゲステロンの命令によって、速やかに、かつ、大量に産生されたとのこと。

胚が子宮内膜にくっつくと、母親からの血液の供給を受け、胎盤を形成します。

このとき、妊娠が成立するためには、内膜全体が厚くなり、胚全体を包み込む部分とそれを支える部分に分かれる、脱落膜変化と呼ばれるプロセスを経る必要があります。
このような子宮内膜の変化によって、胚は母親とつながり、血液の供給を受けることが出来るようになります。

そして、今回報道されているマウスによる実験では、C/EBPbが存在しないと、脱落膜変化が起こらないことが確かめられました。
それは、健康なマウスから得られた良好な胚を、C/EBPbを発現する遺伝子が欠損したマウスに移植しても妊娠しなかったためです。

この遺伝子は、子宮が胚が着床するタイミングにC/EBPbを発現し、C/EBPbの産生が着床、妊娠が成立する条件になるとしています。

また、この発見は、不妊治療の成功率を向上させる可能性があるとしています。

体外受精の成功率は、平均して約25%で、主な障害と考えられているのは、胚移植を子宮内膜がベストな状態に、必ずしも、実施されないことで、子宮が胚を受け入れるベストなタイミングが把握できないために、複数の胚を移植し、その中の1個がうまく着床してくれるのを期待しています。
今後の研究では、C/EBPbの産生を、マーカーとして、確認することによって、子宮内膜のベストなタイミングをつかみ、成功率の向上を目指せるのではないかと、研究者は言及しています。

ところが、専門家によっては、C/EBPbが、人間でもマウスと同じような働きをしているのか、定かではないとする意見もあります。
南カリフォルニア大学の生殖医療の教授は、人間とマウスでは違うとしたうえで、着床障害の患者への効果的な治療はすでにあるとして、エストロゲンとプロゲステロンの補充療法をあげています。

コメント

着床の仕組みはブラックボックスと言われることがあるように、着床のプロセスで、どんな因子がどんな働きで関与しているのか、まだまだ、よく分かっていないようです。

それよりも、たとえ、良好な胚を得られても、妊娠しなかった場合、単に確率の問題であるのか、それとも、移植時までは、良好にみえた胚が、途中で成長が止まってしまったのか、要するに、胚の側の問題であったのか、或いは、着床に問題があったのか、本当の原因は推測の域を出ないということもあります。

今回報道された研究結果は、まだまだ、マウスで確認されたことであり、同じことが人間でも言えるのか、今後の研究の推移を見守る必要はありそうです。

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