体外受精時に移植する胚の数について

不妊改善・生殖医療関連

2004年10月24日

Nature 2004/10/22

体外受精時の胚移植数を1個にすることによって、多胎妊娠を減らし、母子の健康リスクを極力低くするべきであると、今週、アメリカフィラデルフィアで開催中のアメリカ生殖医療学会で報告されました。

双子や三つ子等の多胎妊娠が、不妊治療を受ける際に心配なことの一つです。
多胎妊娠は、母親には高血圧等の健康上の問題、生まれくる子供には早産や未熟児といったリスクを招きます。

多胎妊娠は、通常、複数の胚を子宮に移植することが原因なのですが、医師も患者もそうすることで妊娠の可能性が高まるという考えが、ほとんど、 常識とされているからなのです。

□双子の妊娠率が大幅に低下

移植する胚を1個にするべきであるという見解を発表したのは、スウェーデンの体外受精の専門医のグループで、状態の良好な胚を選べば、1個の胚でも2個移植した場合と同じレベルの妊娠率が得られるとしています。彼らは、スウェーデンのいくつかの施設でのデータを調査しています。
スウェーデンでは、2003年の1月に体外受精時に移植する胚の数は、基本的に、2個以上の胚を移植することを法律で禁じました。

そして、その結果、法律が施行された後でも、妊娠率は、30数%と、以前に比べて低下しなかったのです。
そして、双子の妊娠の確率は、23%から6%に低下しました。
アメリカでも同様傾向を示す2つの施設における調査結果が公表されています。

研究者は、この報告がきっかけとなり、他の施設でも同様の調査を実施し、1つの胚を戻すことが有益であることがより明らかになり、この方法が一般的になることを望んでいると述べています。
ただし、女性の年齢が37歳以上、もしくは、既に体外受精に失敗した経験を持つ人には、複数の胚を戻すほうがよいかも知れないとしています。

□それでも患者は複数の胚移植を望む

スウェーデン以外の国でも、既に、移植する胚の数を制限する動きが見られます。
アメリカ生殖医療学会でも、先月、アメリカの施設に35歳以下の女性には、2個以上の胚の移植をしないよう、ガイドラインを発表しています。

ところが、1個の胚の移植法が広まるのを最も妨げているのは、どこの国でも、患者は、体外受精を受けるのに高額な治療費を負担しているため、当然のこととして、少しでも妊娠の可能性が高い方法を望み、複数の胚の移植を希望す傾向があることなのです。
そして、医師も複数の胚を戻すほうが妊娠の可能性が高まるものと考えているのです。

今後の大きな課題は、1つの胚移植は、多胎妊娠のリスクを大きく低減するとともに、妊娠率も変わらないことを実際の調査データを示し、これまで常識とされてきた認識を改めることにあるようです。

コメント

移植する胚の数が多ければ多いほど妊娠する確率が高くなるのではと考えがちではありますが、実際の国際的な不妊統計からは、多くの胚を移植している国の方が妊娠率は低く、移植胚数の少ない国の方が高い妊娠率を示す傾向にあります。
ですから、移植胚数を少なくすれば、妊娠率が低下するという心配は杞憂であると言えます。
おそらく、妊娠率は、移植する胚の数よりも、胚を培養したり、移植する技術的な要因が左右するのではないかと考えられます。

今回のニュースでは、移植する胚を1つにして、妊娠率を下げずに、多胎妊娠を防ぐのがベストであるという考えです。
もちろん、その通りなのですが、指摘されているように、一般的な考えになっている訳ではありません。 

それは、これまでのところ、移植する胚の数が1つでも妊娠率は低下しないという信頼できるデータが、なかなか存在しなかったこと、そして、患者心理として、少しでも妊娠の可能性の高い方法に賭けたいという思いからです。
要するに、妊娠できるのであれば双子でも構わないという気持ちだということです。

果たして、単一胚移植法が広まるのでしょうか。
まだまだ時間がかかるように思います。