イギリスでヒト胚のクローン作成を認可

不妊改善・生殖医療関連

2004年08月12日

The New York Times

イギリス保健省の管轄下の公的機関、 HEFA(ヒトの受精および胚研究に関する認可庁) は、11日の水曜日に病気の治療目的でヒト胚のクローン作成をイギリスで初めて認可しました。イギリスの北部にある「the Newcastle Center for life」の研究員への1年間のライセンスで、糖尿病やアルツハイマー病その他の病気の治目的で作成されるもの。

患者の皮膚細胞から取り出した核をあらかじめ核を取り除いた女性の卵子に移植し、ヒト胚のクローンを作成します。
このヒト胚は人体のあらゆる組織に分化する可能性を持っているので、病気に苦しむ患者が必要とする組織に分化させて治療に利用することから、治療目的のクローニングと呼ばれています。

ところが、ヒト胚を利用した研究についてはさまざまな議論があります。
それは、いかなる目的であろうともヒトの胚を道具として利用し、滅失させるからです。
2001年にはアメリカのブッシュ政権は、ヒトのクローン胚の研究のための連邦予算を制限し、7月にはフランス議会はいかなる目的であろうともヒトのクローン胚の作成を禁止しました。

イギリスでは3年前に治療目的に限り、ヒトのクローン胚の作成を世界で初めて法的に認め、今回のライセンスが発行に至りました。
2月には韓国の研究者が治療目的のクローニングによる初めてのヒトのクローン胚作成に成功しました。

認可を受けた研究者は、治療目的のクローニングによって、1日も早く難病へ治療法を確立させたいとして、「5年、あるいは10年以内には、パーキンソン病や難治性の糖尿病患者達が、皮膚の細胞から取り出した核を卵子に移植することで、健康な細胞を得ることができ、病気を克服出来るようになるだろう」と話しています。

今回の認可にあたって、イギリスのHEFAの議長は、医療面、倫理面、そして法的にあらゆる側面を考慮した結果、クローン技術を治療のために研究し、活用することは重要で必要なことと判断したとしています。

今回の認可によって直ぐに治療可能になる訳ではなく、研究がスタートするといった状況で、もしも、難病の治療に成功することを目の当たりにすれば、治療目的のクローンに対する風当たりも弱まるかも知れません。

コメント

最近、国内外でクローン技術の利用に関してのニュースを頻繁に目にします。
もちろん、このようなニュースが現実の不妊の改善には直接的に役に立つ訳ではありません。
ただ、実際に不妊治療を受けるようになると、どこまでの治療を受けるのかの判断を迫られる可能性が出てきます。
その際に新しい生命を授かるのにどこまで医療の介入を望むのか、は、最も悩み、考えるテーマの一つとなります。

そんな観点から現在の生殖医療は生命の誕生のプロセスにおいて、どんなことをどこまで実現できるようになったのか、また、そのことについて、国や世論はどのように考え、判断しているのかを知ることは、とても大切なことのように思います。

記事中にもあるようにクローン胚は皮膚などの体細胞からその人の遺伝情報を含む核を取り出して、既に核を取り出してある女性の卵子に移植することで作成します。
この胚は分裂を繰り返すと、あらゆる組織や臓器の元になる胚性幹細胞へと育ちます。
この胚性幹細胞のことをES細胞と呼んでいます。
この細胞は移植された核をもっていた人間と全く同じ遺伝子情報をもちますから、この細胞から分化した組織や臓器は拒絶反応の心配が全くなしに移植可能なのです。
このような利用を治療目的のクローニングと呼んでいます。

また、このクローン胚を女性の子宮に移植すればクローン人間が産まれる可能性があり、そのような利用を生殖を目的としたクローニングと言います。
自分と同じ人間ができることへは、大きな違和感を感じ、倫理的に問題であることは容易に想像できますが、治療目的であればクローン技術を利用すべきではないかと考える人も多く、今回のイギリスの認可もそのような考えに基づいたものです。

また、日本においても、6月にクローン胚の研究が承認されました。

ところが、最も考えなくてはならないのは、たとえ治療目的であろうとも、クローン胚を治療の道具に使うことの是非です。
クローン胚と言えども、生命の始まりであり、まさに生命を人間が道具として用いることになるのです。
目的が正当で人道的なものであれば、致し方なし、と考えるのか、どんな目的であろうとも、生命の尊厳は守らなければならないと考えるのか、大変難しい問題でなのです。

そういう意味では不妊を経験するということは人間の生命について深く考えるようになります。
このことは大変意味のあることではないかと考えています。