植物性エストロゲンは補充すべきか?

2015年05月15日

エストロゲンは、女性ホルモンとか、卵胞ホルモンと呼ばれ、脳からの指令で、卵巣でつくられるホルモンです。女性らしいカラダやカラダつきをつくり、妊娠、出産できるカラダをつくるのに働きます。

植物の中には、そのエストロゲンに似た生理作用を持つ物質があり、植物性エストロゲンと呼ばれています。そして、最もなじみのあり、かつ、最も研究報告が豊富な植物性エストロゲンは大豆に含まれる「イソフラボン」でしょう。

大豆イソフラボンについては、とにかくたくさん食べればいいのではないかということで、たとえば、卵胞(低温)期に豆乳を毎日飲めばいいとか、大豆食品だけでなく、イソフラボンそのものをサプリメントで摂ればいいとか、いろいろなことが言われているようです。

ところが、更年期障害などには有効性が示唆されていたり、大豆イソフラボンを関与成分とし、「骨の健康維持に役立つ」表示が許可された特定保健用食品があったりしますが、生殖年齢にある(月経がある)女性がイソフラボンを補充すると生理不順のリスクが高まるとの報告があったりします。

その一方で、翻訳書「妊娠しやすい食生活」の原著者であるハーバード公衆衛生大学院のチャバロ先生の研究チームが、「大豆食品の摂取と体外受精の治療成績との関連」について報告しており、結論は「普通に大豆食品を食べていれば十分」であるというものでした。

そこで、植物性エストロゲンの補充についてまとめてみました。

大豆食品の摂取と体外受精の治療成績との関係

ハーバード大学の関連病院のマサチューセッツ総合病院で体外受精に臨む315名の女性に治療開始時直近の3ヶ月間の大豆食品の摂取量を回答してもらい、その後の治療成績との関係を調べました。

まず、大豆食品の摂取量とそこから算出したイソフラボンの摂取量別に、イソフラボン摂取量ゼロ、摂取量(低)、摂取量(中)、摂取量(高)の4つのグループにわけました。

各グループの1日あたりのイソフラボン摂取量

・イソフラボン摂取量(低)グループ:0.54-2.63mg/日
・イソフラボン摂取量(中)グループ:2.64-7.55mg/日
・イソフラボン摂取量(高)グループ:7.55-27.89mg/日

出産率をイソフラボン摂取量ゼロのグループと比べた結果

・イソフラボン摂取量(低)グループ:1.32倍
・イソフラボン摂取量(中)グループ:1.87倍
・イソフラボン摂取量(高)グループ:1.77倍

大豆食品は食べない女性よりも食べた女性のほうが体外受精や顕微授精の出産率が高くなっています。

ただし、摂取量の中グループと高グループの出産率はほぼ同じレベルですので、たくさん食べれば食べるほど治療成績が上がっていくわけでもないと言えます。

ハーバード大学の研究は、もちろん、アメリカ人女性を対象にしたものです。そもそも、豆腐や納豆、お味噌といった大豆食品は日本の伝統食で、毎日、口にしている人も多いと思います。

日本人のイソフラボン摂取量は厚生労働省の国民健康栄養調査では1日に16~22mgで、今回の研究ではイソフラボン摂取量(高)グループになります。

日本人にとっても、大豆食品は「普通に」普段の食事で食べていればそれで十分であり、大豆食品だけを増やす必要はないと言えます。

イソフラボンの補充と一般不妊治療や体外受精の治療成績の関係

イソフラボンを補充することについてはどうでしょう?イソフラボンのサプリメントと不妊治療の治療成績との関係を調べた研究報告があります。

クロミフェン(排卵誘発剤)でタイミング指導を受けている原因不明不妊女性147名を対象にした試験で、クロミフェンにイソフラボンを併用した場合と併用しなかった場合の妊娠率を比較しています。

1日120mgのイソフラボンを摂取したグループとしなかったグループの妊娠率は36.7%と13.6%だったというもの。

もう1つは体外受精を受けている213名の女性に黄体補充時期に1日1500mgのイソフラボンのサプリメントかプラセボ(偽薬)を飲んでもらったところ妊娠率は30.3%と16.2%で、イソフラボンを飲んだグループのほうが約2倍の妊娠率だったというものです。

いずれの試験でもイソフラボンのサプリメントを服用したほうが治療成績が高かったというのですが、結果の解釈には注意が必要です。

それは、いずれも治療の補助として明確な使用目的があったというものです。1つはクロミフェンという排卵誘発剤と併用し、クロミフェンの抗エストロゲン作用による副作用を回避しようというものです。もう1つは、体外受精の胚移植後の黄体補充のサポートとして使われています。

そして、1日の摂取量が120mgと1500mgと大量です。

要するに、イソフラボンのサプリメントはドクターが必要と認めた場合にそれ相応の量で使うことで効果が得られるかもしれないと解釈すべきです。

自己判断で、かつ、安全とされている量で使うことの有効性は不明です。

食品安全委員会の見解

日本ではこれまで内閣府の食品安全委員会が厚生労働省の要請を受けて、大豆イソフラボンの安全な摂取量を示しています。

イソフラボンのサプリメントを使うことで月経周期が乱れるなどの健康被害が起こったとする報告されていたからです。

その基準は以下の通りです。

大豆イソフラボンの1日の摂取目安量の上限値:70~75mg/日
イソフラボンサプリメントによる摂取量上限値:30mg/日

この上限値をどのように受け止めればいいのでしょうか?

実際に100gの大豆食品に含まれているイソフラボンの平均含有量は以下の通りです。

豆腐一丁   60~80mg
納豆1パック 30~35mg
油揚げ1枚   8~16mg
豆乳200ml 52mg

普段の食事だけで1日の上限値に達しそうな方も少なくないと思います。

要するに、大豆食品として普通に摂取する範囲にとどめておくべきで、通常はイソフラボン(植物性エストロゲン)を食事以外にサプリメントや健康食品で補充する必要はないということになります。

大豆食品で食べることのメリットは計り知れない

そもそも、イソフラボンは、多種多様な大豆食品を食べることで摂取するものです。

大豆食品にはイソフラボンだけでなく、植物性たんぱく質やカルシウムをはじめとしてさまざまな成分と渾然一体となった状態で存在するわけです。

食事には「塊」を摂ることの相乗作用がついてきます。

ところが、イソフラボンだけを濃縮してたくさん摂ることで、食品では得られなかった「効果」を得ることができることもありますが、食品では起こり得なかった「マイナスのこと」も起こり得るようです。

大豆イソフラボンは食品に存在する形態そのままで吸収されるわけではありません。腸内細菌によって分解され、「アグリコン型」になって体内に吸収されるとされています。このような成分は少なくありません。

そのままで体内に吸収されないのは、おそらく、調節機能が働くからでしょう。

人間の精密な働きは驚異的です。

私たちに備わった力を信じたいと思います。

そもそも、イソフラボンは5大栄養素のような必須栄養素ではなく、不足すれば代謝障害が起こるわけではありません。

バランスよく食べることに尽きると思います。

[文献]

Soy food intake and treatment outcomes of women undergoing assisted reproductive technology. Fertil Steril.2015; 103: 749.
Adding phytoestrogens to clomiphene induction in unexplained infertility patients - a randomized trial. RBM Online.2008; 16: 580.
Phytoestrogens may improve the pregnancy rate in in vitro fertilization-embro transfer cycles: a prospective, controlled, randomized trial. Fertil Steril.2004; 82: 1509