妊娠前、妊娠中の葉酸サプリメントを選ぶポイント

2015年01月25日

葉酸はビタミンB群の一つで、DNAの合成や修復、働きに深く関与していることから、妊娠、出産の際の最重要ビタミンであると言えます。なぜなら、妊娠時には細胞が最も活発に分裂、増殖する時期で、その際にDNAが正確に複製されなければならないからです。

当然、妊娠前から葉酸の必要量、重要度が跳ね上がり、もしも、葉酸が不足すると胚の発育障害や胎児の神経管閉鎖障害などの先天異常のリスクが高くなることがこれまでの研究で明らかになっています。

翻訳書「妊娠しやすい食生活」の原著者であるハーバード公衆衛生大学院のチャバロ先生の研究チームは、葉酸の摂取量の多い女性ほど体外受精や顕微授精の治療成績が良好であったという研究結果を昨年の秋に発表しています

ところが、そんな重要な役割を担っているにもかかわらず、不足しやすいビタミンでもあります。

そのため、アメリカでは、小麦粉やシリアルなどに葉酸を添加するように法律で決めています。つまり、強制的に葉酸を補充させているわけです。日本では、行政がそこまでの介入はしていませんが、厚生労働省は「妊娠前から1日400μgの葉酸をサプリメントで摂るように推奨」しています。

私たちはお子さんを望む女性がサプリメントで栄養素を補充するのであれば、最低限、この葉酸を摂ることをお勧めしています。

ただ、サプリメントは「食品」であり、「医薬品」と違って、製品の規格や製造基準については法的な規制がないため、品質や安全性は一定ではありません。

そのため、消費者側が正しい情報を得て、大切な時期に安心して服用できる製品を選択することが大切です。

そこで、妊娠前、妊娠中の葉酸サプリメントを選ぶポイントを整理してみました。

葉酸の原料について(吸収性と安全性から)

葉酸のサプリメントを製造する際に原料として使えるのは合成葉酸(モノグルタミン酸型)と葉酸含有酵母(モノグルタミン酸型葉酸を酵母に取り込ませた形態)の2つです。

天然の葉酸(ポリグルタミン酸型)、すなわち、野菜や果物中の葉酸は吸収されにくいので、原料としてはふさわしくありません。また、天然の葉酸は不安定で、規格化が困難で、そもそも、野菜や果物から抽出した葉酸の原料はサプリメントの原料として存在しません。


葉酸図解1.jpgなぜ、野菜や果物中の葉酸は吸収されにくいのでしょうか。左の図をご覧ください。食べ物中に存在する葉酸(ポリグルタミン酸型)は、グルタミン酸が複数結合している形になっているため、そのままでは消化器官から吸収されません。酵素によって、グルタミン酸が切り離され、「モノグルタミン酸型」葉酸になってはじめて吸収されるようになります。


これが食事だけでは葉酸が不足しやすい最大の理由です。


葉酸図解2.jpg一方、葉酸含有酵母というのは、合成葉酸を酵母に取り込ませて培養したものです(左図)。合成葉酸のデメリットの一つに、低い技術レベルで製造された場合、生体が活用できない形態(異性体)の葉酸が残留してしまうリスクがあります。ところが、葉酸含有酵母では酵母という生体に取り込まれているので、異性体が残留するような心配はなく、安心です。これが葉酸含有酵母のメリットです。ただし、葉酸含有酵母は合成葉酸に比べてコストが高くなります。

そのため、葉酸の原料としてベターなのは「葉酸含有酵母」です。もしも、コストを考慮に入れるのであれば、高い技術レベルで製造され、異性体が残留しない合成葉酸を選ぶことがポイントになります。

因みに、厚労省が推奨するのは合成(モノグルタミン酸型)葉酸です。また、これまでの臨床研究もモノグルタミン酸型が使われていることも付け加えておきます。

製造国や製造の技術レベルについて

日本国内のGMP認定工場で製造されたものがベターです。低い技術レベルで製造された場合、前述の通り、異性体(体が使えない)葉酸が残留していたり、製品中に含まれる成分量にバラつきが出たり、汚染などにより有害物質が混入したりする可能性があるからです。

また、中国や東南アジアなどで製造するとコストは低くなりますが、海外での製造は日本では使用を認められていない成分が混入したり、日本では認められていない殺菌法が行われるリスクを孕みます。

さらに、万が一のことが発生した場合に迅速に対応することが困難です。

よって、日本国内の信頼できる工場で製造された製品を選ぶのが安心です。

信頼できる工場かどうかの目安になるのが「GMP」です。GMPとは製品の「安全」と「一定の品質保持」のための製造工程管理基準のことで、GMP認定工場で製造され た製品にはGMPマークの表示が認められ、汚染や混入がなく、カプセルごとの成分のばらつきがない製品であることの証になります。

厚生労働省では2012年3月よりこのことを目安に製品を選ぶことを推奨しています。

添加物について

葉酸のサプリメントをつくる場合、葉酸の量はマイクログラム単位なので極微量で、ほこりみたいなものです。そのため錠剤やカプセルにすると、ほとんど(99.999%)添加物になってしまいます。そのため、葉酸のサプリメントであるにもかかわらず、その内容物はほとんど添加物ということになってしまいます。

そのため、使われている添加物によっては不都合が生じることがあります。

たとえば、添加物として「乳糖」が使われた場合、日本人に多いとされている「乳糖不耐症」の方が服用すると、牛乳を飲んだ時のようにお腹がゴロゴロなります。

そのため、どんな添加物が使われているのかラベルでチェックすることが大切ですが、やはり、添加物そのものが少ない製品がベターです。

そのための工夫の一つとして、ハードカプセルを使用し、葉酸以外のスペース(隙間)を添加物ではなく、摂って意味のある栄養素で埋めるという方法があります。それによって、添加物の使用量を必要最低限量に抑制することが可能です。

配合内容について(葉酸以外の栄養素のブレンド)

配合内容については、1日に400μg以上のモノグルタミン酸型葉酸(合成葉酸)を補充することで出生児の神経管閉鎖障害などの先天異常のリスクが70%低減するという確立されたエビデンスがありますので、葉酸だけでもよいのですが、葉酸にビタミンB6、12がブレンドされているとベターです。

葉酸はビタミンB群の仲間で、チームで働くという性質があるからです。そして、B6とB12と一緒のほうがホモシステインという「悪玉アミノ酸」を分解する働きが高くなることがわかっています。ホモシステインは卵質を悪くしたり、流産や早産のリスクを高めたりするという研究報告があります。

また、そもそも、葉酸が不足しやすい遺伝傾向にある人が日本人の約15%いると言われています。遺伝的に葉酸をうまく利用できないのですが、もちろん、そのような体質でも、サプリメントで葉酸を1日400μg以上補充すれば問題ありませんが、そのような遺伝傾向をもった方はホモシステインを変換する力も低いことがわかっていますので、葉酸+B6+B12のチームで補充するほうがベターです。

葉酸サプリメントの副作用について

葉酸は遺伝子の元になる物質の合成に関わっているので、不足しても、過剰に摂取しても、不都合なことが起こり得ます。

たとえば、妊娠中期以降に多量の葉酸をサプリメントで摂ると子どもに喘息が多く出現したという研究報告がなされています。ただし、厚生労働省の定める適正な量(400~800μg)であれば心配ありません。

また、合成葉酸は子どものアレルギーのリスクを高めるとの説(ネット上の情報)があるようですが、子どもに喘息のリスクが高くなるかどうかは、葉酸の原料(合成か天然か)ではなく、葉酸の量です。

繰り返しになりますが、現在、葉酸の原料は合成葉酸か、合成葉酸を酵母に取り込ませた葉酸含有酵母の2つしかなく、天然原料を使用したサプリメントという選択肢は、そもそも、存在しません。

厚生労働省が食事以外にサプリメントとして摂取する葉酸の1日の上限量を1000μgとしていますので、この上限を超えないようにすることが大切です。

おわりに

葉酸のサプリメントについてのさまざまな情報がネット上にあふれているようで、その中には明らかに間違っているものが少なくありません。

医薬品と違い、サプリメントはなんの規制もありません。厚生労働省は妊娠の可能性のある女性に葉酸のサプリメントを摂るように推奨してはいますが、どんな製品を選ぶのかについては「自己責任」です。要するに、医薬品は命にかかわるので、国が規制し、国民を守っていますが、サプリメントは医薬品ほどリスクが大きくないので、そこまでは介入しないということです。

ただ、サプリメントんは品質や安全性の格差が大きくあります。妊娠前、妊娠中という大切な時期に飲むものです。だからこそ、自分で情報を取捨選択し、自分で理解し、納得のいくものを選ぶことが大切だと思います。

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