妊娠を希望するカップルにとってのアルコール摂取

2014年12月09日

季節柄、お酒を飲む機会が増えることと思います。妊娠を望むカップル、不妊治療を受けているカップルにとって、アルコール摂取については、少々、気になることだと思います。「飲み過ぎ」は健康に損なうことは言うまでもありません。また、妊娠中や授乳中はお酒は控えるべきことはよく知られていると思いますが、妊娠前については、飲酒の影響はどのように考えればいいのかについて考えてみます。

まず、厚生労働省が飲酒についてのガイドラインを定めているのでそれを確認しておきましょう。

厚生労働省による飲酒のガイドライン

厚労省は「通常のアルコール代謝能を有する日本人においては、節度ある適度な飲酒として、1日平均純アルコールで20グラム程度である」と定めています。1日の飲酒量の目安の「アルコール20グラム」は日本の基準飲酒量の1単位に相当します。ただ、これだけではどれくらい飲めるのかよくわかりません。お酒の種類によって、アルコール度数が異なりますので、アルコール20グラムというのはどれくらいの量なのか、それぞれのお酒の種類ごとの1単位の量は以下の通りです。

・ビール(アルコール度数5度)   中ビン1本(500ml)
・缶チューハイ(アルコール度数5度)1缶(約500ml)
・ワイン(アルコール度数14度)  グラス1杯(約180ml)
・日本酒(アルコール度数15度)  1合(180ml)

1日に飲む量はこれくらいまでにしておきましょうということです。さらに、厚労省は週に2日は休肝日にするように提案していますので「週に5単位」ということになります。

ただし、これは、あくまで、一般向けのガイドラインで、残念ながら妊娠希望のカップルのためのガイドラインは決められていません。

それでは、これまでアルコール摂取と妊娠する力の関係について調べた研究が多数実施されていますので、それらをみていくことにしましょう。

アルコール摂取と妊娠する力

これまでアルコール摂取量と妊娠する力の関係を調べた研究報告では、アルコール摂取量が多くなると、やはり、妊娠しづらくなるとしています。ただし、週に5単位くらいの飲酒量であれば、妊娠しづらくなるとするものもあれば、影響しないとするものもあり、反対に妊娠しやすくなるという報告もあったりして、「いろいろ」なのです。

代表的な論文を紹介しましょう。

スウェーデンの研究でストックホルム在住の7,393人を対象にアルコール摂取と不妊症のリスクとの関係を18年間に渡って調べたところ、週に7単位以上飲酒する女性は、週に2~7単位未満飲酒する女性に比べて不妊症リスクが58%高く、週に2.5単位未満しか飲酒しない女性は週に2~7単位未満飲酒する女性に比べて不妊症リスクが35%低かったといいます。

また、7,760人のデンマーク女性を対象に平均4.9年間追跡調査した研究では、女性の年齢が30歳未満であれば、アルコールの摂取量は妊娠に影響を及ぼさなかったのに、30歳を超えると、週に7単位以上飲酒する女性は、週に1単位未満の女性に比べると、不妊症のリスクが2.26倍だったと報告しています。

アルコールの摂取量が多くなるほど妊娠しづらくなり、その影響は年齢が高いほど顕著になるというわけです。

その一方で、飲酒したほうが妊娠しやすくなるとの報告もあるのです!

29,844人の妊婦にアルコール摂取と妊娠するまにかかった期間を調べたデンマークの調査では、週に14単位以上の飲酒は妊娠しづらくなるが、週に7単位以下)であれば、飲酒すは妊娠するまでの期間に影響を及ぼさず、全く飲まない女性に比べて妊娠しやすくなったというのです。

また、アルコールの種類別に妊娠するまでに要した期間を調べてみると、ワインを飲む女性はワインを飲まない女性やビールやスピリットを飲む女性に比べて摂取量に関わらず、妊娠までの期間が短いとの結果が出ています。

このような感じですから、過去の研究データに基づいて「これくらいであれば妊娠することに影響しない」という量を明確にすることが難しそうです。おそらく、アルコールの影響については個人差が大きいことやアルコールを飲む女性は喫煙率は高いといったことがあるのかもしれません。

次に、体外受精の治療成績へも影響となると、少し、様子が違ってきます。

アルコール摂取と体外受精の治療成績

体外受精の治療成績には比較的少ない摂取量でも影響を及ぼすとの報告がなされています。

体外受精に臨む2,545組のカップルを対象にアルコール摂取量と4,729周期の治療成績との関係を調べたアメリカの研究です。週に4drinks以上のアルコールを摂取する女性は、それ未満の女性に比べて、出産率が16%低く、女性も、男性も週に4drinksのアルコールを摂取するカップルは、どちらもそれ未満しか飲まないカップルに比べて、出産に至る確率は21%、受精率が48%低かったとのこと。

ここで、注意しなければならないのはアメリカの基準飲酒量です。アメリカでは1drinkとか、2drinksとしています。これは日本の1単位、2単位とは違って、日本の1単位がアルコール20グラムであるのに対して、アメリカの1drinkはアルコール14グラムとされています。ですから、この論文で体外受精の治療成績に影響が認められた4drinksというのはアルコール54グラムで、日本では2.7単位ということになります。体外受精の治療成績の場合は、比較的、少量でも影響を及ぼすという印象を受けます。

これは体外受精を受けるようなカップルでは、年齢をはじめ、アルコールの影響が大きくなるような背景があるのかもしれません。本当のところはわかりませんが。

アルコール摂取と妊娠させる力

男性のほうはそれほどの影響を及ぼさないようです。

1996~2007年にヨーロッパとアメリカの8,344名の男性のアルコールの摂取量と精液所見の関係を調べた研究(6)があります。それによりますと、対象者の内訳は、パートナーが妊娠経験のある1,872名(18~45歳)と若い男性6,472名(18~28歳)でしたが、アルコール摂取量と精液所見には関連性は見られまでした。

それどころかパートナーの男性がお酒を飲むほうが治療成績がよいとの報告もあるのです。

体外受精に臨む男性パートナーのアルコール摂取と体外受精の妊娠率の関係を調べた研究では、1日に22g以上のアルコールを飲む男性は3g未満の男性に比べてパートナーの周期あたりの妊娠率が4.5倍だったとのこと。驚きましたが、そもそも、お酒はタバコと違って、身体や心によい影響を及ぼす面もあるようですので、妊娠にプラスに作用することもあり得るということなのかもしれません。

いずれにしても男性にとっては適度な飲酒は問題ないと言えそうです。

目安は「週に1日か2日、少量を」

このように、これまでの研究報告からアルコールの摂取量が多くなるほど妊娠しづらくなることは明らかです。ただし、一般に適量とされている量では相反する結果が報告されており妊娠を希望される女性のための許容される(妊娠に影響しない範囲の)飲酒量を設定することは困難です。

一方、体外受精の治療成績には少量でも影響を及ぼすようです。

そんな中でも、アメリカ生殖医学会やイギリス政府機関では妊娠を望む女性のための飲酒量の目安やガイドラインを設けています。

まず、アメリカ生殖医学会では1日2ドリンク以下としています。アメリカの場合、1ドリンクは14グラムとされていますので1日28グラム以下となり、厚労省の一般向けの目安量を上回ります。やはり、アルコールの処理能力の人種間の差が大きいのかもしれません。これはあまり参考にはなりません。

一方、イギリスは厳格です。イギリスの政府機関であるNICE((National Institute for Clinical Excellence)のガイドラインでは「週に1~2回、1~2ユニットを超えないこと」となっています。

イギリスの基準飲酒量はユニットで1ユニットは8グラムです。ですから、お酒は週に1回、多くても2回程度にしましょう。そして、その場合、アルコール8グラムを目安にし、16グラムを超えないようにしましょう」ということになります。

アルコール8~16グラムを、それぞれのお酒の種類で換算してみます。

・ビール(アルコール度数5度)   200~400ml
・ワイン(アルコール度数14度)  約72~144ml
・日本酒(アルコール度数15度)  約72~144ml

海外の目安をそのまま取り入れるのはナンセンスですが、より厳格なイギリスのガイドラインを参考にするのが無難だと思います。

「週に1日か、2日、少量を」ということになります。あくまで、厳格な目安です。ただ、不妊治療を受けていて、気になるけれども飲みたいという方にとっては安心して楽しめるラインではあると思います。

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