年齢対策のサプリメントについて考える

2014年02月21日

卵子の質をよくするにはどんなサプリメントがいいのですか?と聞かれることが度々あります。結論から言いますと、卵子の質をよくするようなサプリメントなどありませんし、ましてや、そんなお薬も治療法も存在しません。

そこで、卵子の老化で妊娠しづらいという場合、サプリメントは役に立つのか、また、役に立つとすれば、どんな成分のサプリメントを、どのように使うのがいいのか、年齢対策のサプリメントについて考えてみました。

30代後半、40代で妊娠、出産を目指すために

女性の年齢が高くなると妊娠するまでにより長い時間がかかるようになります。

それは、どれくらいの程度なのか、体外受精の治療成績の年齢による推移をみれば一目瞭然で、妊娠率を示すグラフは20代後半から徐々に右肩下がりになりますが、35、6歳頃からそ角度が急になり、40代の半ばから限りなくゼロに近くなっています。

そして、そのことは主に「卵子の質の低下」によるものであることは、皆さん、よくご承知の通りです。

ですから、30代後半、特に、40代で妊娠、出産を目指す場合、「卵子の質の低下」について正しく理解し、対処することがとても重要になってきます。

当然、年齢対策のサプリメントについて考える場合でも同じで、「卵子の質の低下」に対して、栄養素の補充(サプリメント)でなにができるのかという視点で語られるべきです。

卵子の老化を正しく理解し、対処する

女性が年齢を重ねることで、妊娠しづらくなるのは年齢とともに卵巣の働きが徐々に低下していくことによるものです。

具体的に言えば、卵巣内の卵子の総数が減っていくこと、そして、卵子の質が低下していくことです。

ここで理解しておかなければならないことは、老化現象を逆転させることは出来ないということ。すなわち、最先端の医療を持ってしても、卵子の数を増やしたり、卵子の質、そのものをよくすることは出来ないということです。

ただし、卵子の質の低下は卵巣内の全ての卵子に一律に起こるわけではありません。早く老化が進む卵子もあれば、そうでない卵子もあるということです。

つまり、卵巣機能の低下は、あくまで、"徐々に"、進むものであって、突然、ある時点をもって、以後、妊娠できなくなってしまうというわけではないということです。

また、妊娠するだけの力が備わった卵子から選ばれて成熟し、排卵されてくるわけではなく、"ランダム"なのです。

そのため、この周期に成熟し、排卵(採卵)された卵子の質がよくなかったからと言って、それは、あくまで、"たまたま"であり、何の対策も講じなくても、次の周期には妊娠できる卵と巡り合えるかもしれないのです。

また、年齢による卵巣機能の低下のスピードは個人差もあります。

このように、30代後半や40代前半で、卵巣機能が低下していく中で妊娠できるかどうかは、言ってみれば"偶然性"に大きく左右されるということが言えるのです。

そのため、ここで最も大切なことは、「機会の最大化」、すなわち、毎周期、チャレンジするということになります。

高度生殖補助医療はなにをするのか

ところで、「卵子の質の低下」に対して、生殖医療ではどのように対処するのでしょうか。

もちろん、質の低下した卵子をよくすることは出来ませんので、いい卵と出会う確率を高めようとします。

高度生殖補助医療では、適切な方法で卵巣刺激をすることで、卵巣内に残っている質の高い卵子と巡り会う確率を高めるのです。

卵巣の状態に適切と考えられる方法(排卵誘発剤の使い方)で、卵巣を刺激し、出来るだけ多くの卵子を採卵することで、妊娠できるだけの力を備えた卵子と出会うチャンスを増やすというわけです。

ただし、治療成績をみればわかるように、妊娠率を高めると言っても、飛躍的に高くなるわけではありません。

卵子の質の低下とはなにか

さて、このような「卵子の質の低下」に対して、栄養素の補充(サプリメント)になにができるのでしょうか。

そのことを考える上で決定的なヒントを与えてくれる治療法があります。

それは、高齢女性の卵子に若い女性の卵子の細胞質を注入するというものです。そうすることによって、若い女性並みの妊娠率が得られることがわかっています。

この方法は、かつて、卵子の老化に対しての画期的な治療法であると大いに注目されたものの、一緒に若い女性のミトコンドリアのDNAも移植されることになり、倫理面をはじめとする未解決な問題が大きいため、何人もの赤ちゃんが生まれたのですが、一般的な治療法にはなっていません。

ただし、卵子の質がなにで決まるのかをより具体的に教えてくれています。

そうです、卵子の質はその中身である細胞質次第なのです。

ミトコンドリアの数と機能の低下

細胞質に一番多く存在するのがミトコンドリアという、エネルギーをつくる小さな器官で、普通、1つの細胞には平均300~400個のミトコンドリアが存在し、細胞質の約40%を占めているのだそうですが、卵細胞には10万個もあるといいますから驚きです。要するに卵細胞の細胞質は、ほとんどミトコンドリアなわけです。

ですから、卵子の質の低下、言い替えると卵子の老化は、卵細胞のミトコンドリアの数や働きが低下することによって引き起こされると考えられているのです。

そのため卵子の老化対策は、いかにミトコンドリアの機能を改善させることが出来るかが鍵を握っていると考えられるわけです。

当然、年齢対策のサプリメントもここがポイントになるはずです。

ミトコンドリアとは、ミトコンドリアと生殖機能

ミトコンドリアは「細胞の中にある器官のひとつ」で、私たち人間の身体は約60兆個の細胞から出来ているとされていますが、赤血球を除くすべての細胞、ひとつひとつにミトコンドリアが存在しているのです。1つの細胞に平均300~400個、卵細胞だけは特別で10万個もあると言われていますので、ちょっと想像できないくらいの数です。

そして、なにをしているのかというと、私たちが生きていくのに必要なエネルギーのもとになるATPという物質をつくっています。その量たるや、1日に自身の体重と同じくらいとされているので、これも想像しづらいくらい凄いことです。

もうお分かりですね。卵子の老化は質の低下を招き、それはミトコンドリアの数や働きの低下によるものであるということは、すなわち、卵細胞でつくられるエネルギーが少なくなるということなのです。

エネルギー不足、なのです。

専門家の間では、エネルギー不足は細胞分裂が進むプロセスで染色体がきちんと分かれなくなる現象を引き起こし、それによってトリソミー(染色体が1本多い3本ある)などの染色体異常が生じると考えられています。

卵細胞の運命はエネルギー供給量に左右されるというわけです。

卵細胞にだけ大量のミトコンドリアが存在するのは、猛烈な細胞分裂を支えるためであることがこれでよくわかります。

ミトコンドリアの数や機能を維持させるには

さて、年齢を重ねると卵細胞内のミトコンドリアの数や働きが低下してしまい、正常な細胞分裂に必要とされるエネルギーをつくれなくなってしまうということなのですが、それは主にミトコンドリアがエネルギーをつくる際の副産物である活性酸素がミトコンドリアDNAを損傷し、それが蓄積されると、次第に働きが低下し、寿命が尽きてしまうからだと考えられています。

ミトコンドリアでは、食事で得られる栄養素と呼吸によって得られる酸素をATPをつくるエネルギー源にしています。私たちが食べた糖や脂肪が体内でさまざまな経路をへて、いろいろな物質に変換され、酸素と反応し、ATPがつくり出され、必要なエネルギーに変えられるのです。

そして、最後の酸素と反応する際に活性酸素が漏れ出てしまうというのです。

ここで理解しておきたいのは、活性酸素が漏れ出てしまうこと自体は、異常なことでもなんでもないということ、です。

さらに、活性酸素は完全な「悪者」扱いですが、それはあくまで活性酸素の働きの一側面であって、細菌やウイルスをやっつけてくれたり、エネルギー産生活動の調整機能に働いたりしているので、一概に「悪者」とは言い切れない存在なわけです。

また、活性酸素の害を消去したり、活性酸素による損傷を修復する働きもまた、私たちの身体には当たり前に備わっているのです。

ですから、細胞の老化の主因と考えられているからといって、無闇にやっつけなければならないというわけでもないのです。その証拠に抗酸化物質を過剰に摂取することのマイナス面があることが確かめられています。

つまり、活性酸素さえやっつければいいとか、活性酸素を出さなければいいとか、抗酸化物質を大量に摂取すればいいとうお話しではないのですね。

全ては「バランス」が大切だということのようです。

卵細胞が健康に育つために私たちにできることとは

ここまでのお話しで、おわかりのように、特定のお薬やサプリメントを摂取すれば、ミトコンドリアが活性化され、卵子の質がよくなるということはありません。

ただし、そのことは、決して、悲観すべきことではありません。

なぜなら、ミトコンドリアの数や働きが年齢とともに低下していくのは、卵子の質の低下を招きますが、健康な身体を維持することに貢献しているからです。細胞がいつまでも分裂を続ければ大変なことになってしまいます。その典型が「がん細胞」です。

ですから、「感謝」し、「レスペクト」しこそすれ、「悲観」すべきことではないはずです。

さて、それでは、このような、一見、私たちの力ではどうすることもできないような状況で、なにができるのでしょうか?

卵子に限らず、老化現象は避けられないことであれば、甘んじて受け入れるべきというか、そうするより他ないのですが、なにもしないよりは、取り組む価値があることはいろいろあります。

最適、最良のバランスを目指して

細胞内のミトコンドリアを増やす最も有望な方法として、専門家が口を揃えるのは、「細胞をその気にさせる」こと、要するに、エネルギーがもっと必要だと認識させることです。

そうです、「運動」することです。有酸素運動や筋力をつけることで細胞のミトコンドリアが増え、活発になり、エネルギー供給量を増やすことで応えてくれるのです。

ただし、それは体細胞のことであって、生殖細胞のミトコンドリアにも言えるかどうかはわかりません。ただし、卵細胞の分裂には周囲の細胞も関与しているわけですから、よい影響を及ぼすことは間違いないと考えてよいと思います。

人間の身体というのは、よく動くことで、その働きのバランスがよくなるように出来ているようです。

そして、バランスよく食べるということです。

ミトコンドリアで、エネルギー源になるのは主に糖質や脂質であり、エネルギーをつくる活動に関与しているのがタンパク質であり、ビタミンB群を中心とするビタミンや鉄や亜鉛などのミネラル、脂質をミトコンドリアに運ぶのにLカルニチン、糖質を運ぶのにαリポ酸、そして、ATPをつくる最終段階で必須なのがコエンザイムQ10といった補酵素です。

これら、ミトコンドリアでエネルギーを産生するのに関与している栄養成分の過不足は、エネルギー産生効率を低下させ、反対に活性酸素を増やしたり、抗酸化力を低下させたりし、老化を促進してしまいます。

ですから、まずは、バランスよく食べること、そして、サプリメントの補充を考えるのであれば、マルチビタミンミネラル、さらに、年齢とともに体内の産生量が減るとされている、コエンザイムQ10、Lカルニチン、αリポ酸などのミトコンドリアで働く成分ということになります。

繰り返しますが、この中のひとつを突出して補充しても、あまり意味がありません。

ただ、これまで動物実験や臨床試験でその効果が示唆されているのはコエンザイムQ10で、老齢マウスを使った試験で、卵巣の反応が向上したり、良好な胚が増えたりすることが確かめられています。

カナダのトロント大学医学部産婦人科のロバートキャスパー教授のグループは、高齢マウスを使った試験で、コエンザイムQ10の補充により、比較対照マウスに比べて、卵巣刺激への反応が高まり、採卵数の増加が認められたこと、ミトコンドリアの数が増え、エネルギー産生効率が高まったと報告しています。

同グループは、ミトコンドリアの機能の向上は、高齢女性の妊娠の可能性を高めるはずであるとし、コエンザイムQ10をはじめとするミトコンドリアで働く栄養素を補充することはそのことに寄与する可能性が高いとの見解を示しています。

そもそも、ミトコンドリアで働く栄養素は体内で産生されているもので、女性にも生まれ来る新しい命にとっても安全であり、卵子の減数分裂のための正常な染色体分離のための十分なエネルギーを産生することで、染色体異常のリスクを低減させることが期待できるとしています。

このように、コエンザイムQ10やアルファリポ酸などのミトコンドリアで働く栄養素を補充することは卵子や胚の質を改善、そして、高齢女性の健康な妊娠につながる可能性があると結論づけています。

さらに、キャスパー教授らは、体外受精や顕微授精を受けている女性を対象にした比較試験で、コエンザイムQ10を補充したグループのほうが、良好な胚を数多く得られたと報告しています。

ただし、エビデンスというレベルのものではありませんし、コエンザイムQ10やLカルニチンを補充しさえすればいいというわけでもありません。

バランスのよい食生活と運動、その上で、サプリメントで補充するとすれば理論的に正しく、状況証拠が揃っているのはコエンザイムQ10やLカルニチン、そして、αリポ酸などのミトコンドリアで働く成分で、年齢とともに減っていくとされているものではないかということです。

敢えて触れていませんが、喫煙や大量の飲酒、過大なストレスなどは避けることは言うまでもないことです。