体内時計を整えて卵巣の老化を遅らせる

2011年07月05日

高齢でも、高齢でなくても、卵巣の老化が進み、体外受精を繰り返しても、なかなか、生命力の強い受精卵が育たないという場合、ただただ、治療を繰り返し、そして、祈るしかないのでしょうか?

そんなことは決してありません。

卵巣の老化のスピードを遅らせ、その機能を高める方法があります。お金がかからず、誰にでもその気になれば取り組める方法です。

それは、体内時計を整えることです。

最近の遺伝子工学や分子生物学の発展は、私たちの身体に備わった生体リズムが、さまざまな身体の働きをコントロールし、老化のスピードと密接につながっていることを解き明かしてくれました。

ところが、現代に特有の生活スタイルは、大自然のリズムに従うのではなく、利便性などの人間の都合を優先しています。

文明の発展は、その結果として、自然のリズムを断ち切ってしまうところがあるようです。

その結果、私たちには全く意識されることなしに、私たちに備わっている生体リズムが徐々に変化し、自然のリズムとの調和が乱れてしまうことで、さまざまな病気や体調不良を招くことになってしまいました。

その一つに早期卵巣機能低下による不妊症があるのではないかと考えられるというわけです。

母なる自然と言われます。

つまり、自然のリズムは新しい命を生み出す源なのです。

そこで、"母なる大自然のリズム"を大切にし、"私たちの身体に備わったリズム"整えることで、子どもを授かり、産み、育てる力を回復させることを考えてみようと思います。

最新の研究報告から

まずは、生活のリズムと卵巣の働きに関する最新の研究報告をご紹介します。

アメリカの大学のショウジョウバエを使った実験です。

不規則なタイミングでにエサを与えると、規則正しくエサを与えた時に比べて、1日の平均産卵数が減ることが確かめられています(※1)。

もう1つは、夜勤と不妊症の関係。

アメリカの9万人弱の看護師を対象とした疫学調査で、5年以上の夜勤を続けた看護師は、不妊症を伴う子宮内膜症にかかるリスクが、昼勤務の看護師よりも高いことが分かったとのこと(※2)。

いずれも、生活のリズムが、卵巣の働きに影響を及ぼすことを教えてくれています。

生体リズムとは?

私たち人間のさまざまな活動にはそれぞれのリズムがあります。

お腹が空けば食べ、朝になると目が覚め、夜になると眠くなります。もっと詳しくみてみると、体温や血圧、ホルモンの分泌などにも、ぞれぞれに一定のリズムがあります。

たとえば、生殖に関連するところでは、女性には26日から34日の月経サイクルがあり、夜中の0時から2時にプロゲステロンが、10時~14時に卵胞刺激ホルモンが、朝の4時から8時に男性ホルモンが分泌量が多くなります。

要するに、人間の活動にはすべて適切な時(タイミング)があるのです。

そして、それらは、全て、私たちが意識するしないにかかわりません。

それでは、身体は、いったい何を頼りに、その"時"を知るのでしょうか?

光や温度などの外部の環境の変化ではなく、自らの内部に備わったリズムである、生体リズムなのです。

いくつもの周期のリズムが備わっていますが、代表的なのは約24時間周期、すなわち、おおよそ1日周期なので、サーカディアン(慨日)リズムと呼ばれています。

そして、サーカディアンリズムをつくりだし、コントロールし、調整しているのが、体内時計と呼ばれる、時計遺伝子なのです。

要するに、外部の光が全く差し込まない部屋で生活しても、変わりなく、朝になると目覚め、夜になると眠くなるのです。

ただ、生体リズムは24時間ジャストではなく、約24.5時間とされています。

親時計と子時計

さて、生体リズムをつくりだす体内時計はどこにあるのでしょう?

脳の視床下部の視交叉上核というところにある神経細胞の塊です。時計遺伝子と呼ばれている遺伝子がそれぞれのリズムをつくりだしています。

これが親(中枢)時計です。

また、この親時計にある時計遺伝子と同じものが身体のほとんどの細胞にも存在することがわかっています。

それらを子(末梢)時計と呼んでいます。

そして、親時計と子時計がお互いに密接にやりとりをしながら、身体全体のサーカディアンリズムをつくりだしているのです。

私たちの身体には、脳内とほとんどの細胞内に時計があって、常に針が回っているというわけです。

脳内時計が親時計で、子時計は常にそれをみて、自らのリズムを修正しているので、脳内時計はグリニッジ天文台みたいなものです。

親時計と子時計がつくりだすサーカディアンリズムが、睡眠や体温、血圧、免疫反応、ホルモン分泌の適切なタイミングを支配しているのです。

体内時計のリセット

ところで、体内時計のつくりだすサーカディアンリズムは、なぜか、24時間ではなく、だいたい24.5時間であるとお話ししました。

身体のリズムは、自然のサイクル(地球の自転リズム)よりも30分ずれているということになり、そのままにしておくと、24日で昼と夜が逆転してしまいます。

そのため、毎日、リセットして、体内時計をあわせてやる必要があります。

リセットの役割を担っているものはいくるかあるようですが、最も強力なのは、太陽の光を受けることです。

朝、起きて太陽の光を浴びることで、カチッと体内時計がリセットされるというわけです。

体内時計は光の影響を強く受けるので、深夜に明るい光を浴びたり、朝に太陽の光を浴びなければ、生体リズムは乱れてしまいます。

当然、睡眠の質や免疫力が低下したり、ホルモンのバランスが崩れてしまいます。

生活のリズムが乱れると、体調を崩したり、病気を招いてしまう根本原因です。

そして、年をとればとるほど、体内時計の修復力が徐々に低下します。

老化の根本原因の一つです。

子時計と食事

もう一つ、光とともに体内時計に影響を及ぼすものがあります。

それは、食事で、食事を摂るタイミングのリズムが肝臓にある子時計に強く影響するのです。

この分野はヒトを対象にしたものやマウスを使った多くの実験が行われていて、食事のタイミングや回数、内容と時計遺伝子の発現との関係について、多くのことが明らかになっています。

まずは、毎朝、決まった時間に朝食を食べることで、体内時計のリセット効果が高くなります。

そして、炭水化物だけでなく、たんぱく質も食べたほうが、すなわち、朝食と言えども、パンとコーヒー、サラダだけで済ますのではなく、洋食であれば、それに、卵や牛乳、ヨーグルトを加えて、和食であれば、ご飯に焼き魚や納豆、味噌汁と、バランスよく食べたほうがリセット効果が高いこともわかっています。

体内時計を整える効果的な方法

それでは、体内時計を整える効果的な方法をまとめてみましょう。

1)早く寝る:どんなに遅くとも23時迄には寝る。
2)早く起きる:起床後14~16時間後にメラトニンの分泌が始まります。
3)起床後太陽光を浴びる:出来れば45分以上散歩して。
4)朝食は必ず食べる。:起床後2時間以内に。
5)朝食はバランスよくしっかり食べる:リセット効果が高まります。
6)以上のことを毎日同じ時間に行う:週末も同じリズムを維持します。

早く寝ることの大切さをお話しすると、たいていは、それは難しい!と言われます。

それは、よく理解できます。

ただし、どんな事情があっても、自然界や私たち人間の身体のメカニズムは、そうなっているということを知っておいてほしいと思います。

単純ですけど、実行するにはちょっと決意が必要な、上記6項目を実践することで、卵巣の老化は遅くなり、その機能は高まります。

大切なことは、自然とリンクすることです。

そうすれば、毎日、快適に生活を楽しめるようになり、ストレスにも強くなることでしょう。

なぜなら、母なる大自然とシンクロすることになるのですから。

反対に、毎晩、夜更かしして、ギリギリに起きて、朝食を食べないて、朝に身体をあまり動かさない生活を続けると、年齢以上に卵巣が年をとってしまい、卵巣内の卵の減少や質の低下のスピードが早くなってしまいます。

さいごに

天下のできごとには、すべからく定められた時あり。
生まれるに時あり、
死するに時あり、
種をまくに時あり、
刈り入れるに時あり、
癒すに時あり。

これは、旧約聖書に書かれている「何事にも時がある」の一説だそうです。

私は、食事が不規則なショウジョウバエは産卵個数が減ってしまうという報告に接して、体内時計の働きに興味を持ち、最後に紹介している本を読んでみました。

その中の本に引用されていました。

感じるものがありますよね。

そして、地球上のすべての生物が、何十億年という、長い長い時間の経過の中で、サバイバルするために備わった体内時計のメカニズムの精巧さに本当に驚きました。

宇宙の中の地球、そして、地球を母なる環境とするすべての生き物はこのメカニズムから逃げることは出来まないはずです。

子どもはつくるものではなく、授かるものであるゆえんです。

私たちの身体に備わった生体のリズムを大切にすることは、最高のアンチエイジング法であるということです。

卵巣の老化を遅らせ、その機能は高まるでしょう。

その結果、妊娠の確率も高くなるに違いありません。

ただし、体内時計を整えたからといって、もちろん、妊娠や出産が保障されるようになるわけではありませんし、高齢の場合、絶対に間に合うかどうかも分かりません。

けれども、心身の老化を遅らせ、後悔のない赤ちゃん待ち期間を楽しめるようになると信じています。

[文献]

※1)The Circadian Clock Interacts with Metabolic Physiology to Influence Reproductive Fitness Cell Metabolism 13(6)639-654 2011

※2)Rotating night shift work and the risk of endometriosis in premenopausal women American Journal of Obstetrics & Gynecology Article in press 13 June 2011

[参考図書]
・時間医学 大塚邦明(ミシマ社)
・100歳を可能にする時間医学 大塚邦明(NTT出版)
・生物時計はなぜリズムを刻むのか ラッセル・フォスター他(日経BP)
・時間栄養学 時計遺伝子と食事のリズム 香川靖雄(女性栄養大学出版部)
・時間の分子生物学 粂和彦(講談社現代新書)