最新の行動科学に基づいたストレス対処法を考える

2011年01月11日

アメリカの国立衛生研究所の研究者らは、精神的なストレスが妊娠率を低くするとの試験結果を発表しています。

妊娠を望んでいる18~40歳の女性の月経6日目に唾液中のストレスの強さの目安になる物質を測定し、その周期の妊娠の有無を6周期に渡って調べたというのです。

その結果、ストレスを強く受けている周期ほど、妊娠の確率が低いことが分かったとのこと。

また、別の試験では、体外受精の治療の回数が増えるほど、ストレスも大きくなることが確かめられています。

さらに、一人目のお子さんは体外受精で授かったのにもかかわらず、二人目は自然妊娠で授かったり、体外受精を休憩、或いは、止めた途端に授かったということがよくあります。

これらのことは、妊娠を目指す場合、ストレスをうまく対処することがとても大切だということ、また、特に、不妊治療の期間が長くなってくると、適切な治療を受けることもさることながら、次第に強くなっていくストレスと、いかに付き合うかが、治療の有効性をも左右しかねないことを物語っています。

そこで、今週の妊カラは、なかなか授からないことで強くなっていくストレスをどう対処すべきかを、最新の行動科学の知見を参考に考えてみました。

最新の行動科学に基づいたストレス対処法を考える

★一時的に解消されても対処法にならないものがある

ストレス対処法と言うと、悩みを誰かに打ち明ける、大声を出す、何かに八つ当たりする、お酒を飲むなどが思い浮かびます。

ところが、それらは、一時的にストレスが解消されても、本当の対処法にはならないことが分かっています。

なぜなら、現代社会に特有のストレスで、妊娠にマイナスの影響を及ぼすと考えられるストレスは、"継続する"ストレスだと言われていて、一時的な"発散法"では、効果が継続しないからです。

毎日、友人を呼び出して悩みを聞いてもらったり、大声を出し続けたり、八つ当たりを続けたり、お酒を飲み続けることは非現実的です。

それでは、どのように考えればいいのでしょうか?

★効果的なストレス対処法を考える

"発散法"はどちらかと言うと、一時的な避難というか、逃避と言えます。

もしも、その間に、"嵐(ストレス)"が過ぎ去ってくれたり、弱くなってくれればいいのですが、なかなか、そういうわけにもいきません。またもや、"嵐"に悩まされることになります。

ですから、"発散"ではなく、"対処"するには、嵐そのものをなくしてしまう(遭遇しないようにする)か、もしくは、嵐に遭遇しても、その影響が出来るだけ小さくなるようにこちらの"受け身"を磨くことしかありません。

つまり、ストレスをなくすることは出来ない相談なわけで、一時的な避難を続けるわけにもいかないわけですから、ここは、私たちが"受け身"を磨いて、ストレスのマイナスの影響を出来るだけ小さくするしかないというわけです。

それでは、ストレスの攻撃からの受け身を磨き、そのダメージを小さくするには、具体的には、何をどうすればいいのでしょうか?

★「頭」、「体」、そして、「絆」

"受け身"というのは、決して、立ち向かうわけではありません。あくまでも、こちらの柔軟性を高めて、ショックを小さくするテクニックです。

ストレスのショックを小さくするには、「頭」と「体」、そして、「絆」の柔軟性を高めることがとても効果的です。

以下、順番に説明していきます。

1)「頭」の受け身を磨くために

◎悩みの対象を正しく理解し、把握するように努める

ストレスによるマイナスの影響は、悩みの"大きさ"や"深さ"ではなく、"把握度"で決まってくるということです。

つまり、敵の正体が漠然としていれば、心配や不安は無限大で、どのように闘えばいいのかについても雲をつかむような印象しか持てません。

ところが、敵についての正確な情報が得られれば、心配や不安は、より具体的で、限定的なものになり、適切な闘い方も考えることが可能になります。

問題の難易度に関係なく、少しでも"コントロール感"を持てるようになると、精神的に前向きになることは出来、それに伴って、ストレスによる影響はずいぶん小さくなることが分かっています。

◎辛い経験の中にもいい面をみつける

思うように授からないことは、経験した者でないと到底分かり得ないような辛く悲しいものでしょう。

ところが、少し冷静な時に考えてみれば、そして、いろいろな知識が身についてくれば、そんな経験にもいい面があることに気づけるかもしれません。

つまり、不妊という期間を経験した者でないと得られない"いいこと"を、積極的にみつけるということです。

そのことによって、ストレスによるマイナスの影響は大きく緩和されることが分かっています。

2)「体」の受け身を磨くために

◎太陽の光を浴びる

太陽の光を浴びることで、私たちに備わっている体内時計がリセットされ、さまざまなホルモンや神経伝達物質の分泌が促進されます。

理想的には、朝に太陽の光を浴びることです。

太陽の光を浴びることが必要である身体のメカニズムはいろいろと解明されているようですが、簡単に言えば、身体のメカニズムを自然のそれに合わせることで、自然界の生き物である私たち人間の心身の状態が健全になるということでしょうか。

それにより、ストレスによるマイナスの影響が小さくなることが分かっています。

◎リズム運動を習慣化する

リズム運動、たとえば、腹式呼吸法やウォーキング、ジョギング、その他、リズミカルに身体を動かすことで、精神面のリラックスが得られ、肉体的には、自律神経のバランスが整い、免疫力が高まります。

日常生活で取り組みやすいリズム運動をみつけて、それを習慣化します。

朝のウォーキングは、太陽の光を浴びながら、リズム運動が出来る、一石二鳥な理想的な運動です。たとえ、15~20分でも毎朝の習慣にすることで、ストレスによるマイナスの影響が小さくなるだけでなく、精神的肉体的な健康効果は絶大です。

3)「絆」を強くして受け身を磨くために

絆とは、もちろん、"断つことのできない人と人との結びつき"のこと。

パートナーであるご主人や周囲であなたを支えてくれる大切な人たちとの結びつきを強くすることです。

パートナーに身体にタッチしてもらったり、マッサージしてもらうだけで、ストレスホルモンが低下することが確かめられています。

そして、身体に触れることは、パートナーの状態をよりよく知ることができるようになります。

また、周囲の人たちとの協同作業もとても効果的です。作業内容は、仕事でも、ボランティアであっても、何でも構いません。

絆が人間の心身をとても強くしてくれることが分かっています。

★最後に

いかがでしょうか?

実際のところ、ストレスは物理的なダメージを私たちに与えるわけではありません。

思うようにいかない状態や不快な状態が脳からさまざまなホルモンや神経伝達物質の分泌を促進させ、それらが身体にさまざまなマイナスの影響を及ぼし、障害や病気のリスクを大きくするわけです。

物理的なダメージを避ける方法や耐性を高めることは分かりやすいものですが、目に見えないストレスによるダメージを少なくする方法は、案外、分かりにくかったり、誤解されていることも少なくないようです。

大切なのは、精神論や気休めではなく、科学的にも、理論的にも確かめられ、裏付けられた方法を知っておくこと、そして、それらを試し、自分にあったものを武器としてもっておくことではないでしょうか?