卵子、卵巣のアンチエイジングを考える

2010年08月10日

平成22年7月28日、29日の2日間、第28回日本受精着床学会総会、学術講演会が、横浜で開催されました。

日本受精着床学会というのは、生殖医療に携わるドクターや研究者が属する学会で、年に1度の学術講演会では、日頃の研究成果が発表されます。

今年の学会のテーマは、「ARTとaging」。ARTとは、体外受精や顕微授精などの補助生殖医療のこと、agingとは、老化のこと。要するに、老化によって、卵巣の機能や卵子の質が低下した不妊症に対して、どのような方法で克服するのかということです。もちろん、学会では、主たる方法は生殖医療技術なわけですが、老化の主因である加齢(年をとること)に対しては、根本的な治療は困難です。

そこで、抗加齢医学の第一人者でいらっしゃる、同志社大学生命医科学部のアンチエイジングリサーチセンター教授の米井嘉一先生による「アンチエイジング医学への期待~卵子、卵巣のアンチエイジングを考える~」と題した講演が企画されたわけです。

米井先生の講演内容は、抗加齢医学という観点から、「いかに、卵子や卵巣の老化を遅らせるか」というもので、食のこと、運動のこと、ストレスのこと、サプリメントのことなど、まさに、科学的な根拠に基づいた"妊娠しやすいカラダづくり"について、お話しされました。

これは、是非とも、妊カラの読者の方々にお伝えせねばと思い、今週の妊カラで、米井先生の講演内容をまとめることにしました。

★卵子、卵巣のアンチエイジングとは?

抗加齢医学とは、老化のメカニズムを追求することで、不老長寿ではなく、避けがたい老化は受け入れながらも、病的な老化を避け、健康に長生きすることを目指す医学である。

卵子や卵巣のアンチエイジングとは、生活療法やサプリメントなどによって、卵巣の若さを保つこと。

★最先端生殖補助医療の治療効果を高めるために

年齢以上に老化がすすんだ卵子や卵巣に、生殖補助医療を施して妊娠を目指しても、妊娠率は低くならざるを得ない。

卵子や卵巣のアンチエイジングを実践することによって、最先端の生殖補助医療が活きてくる。

そのためには、生殖機能の老化のメカニズムを理解し、生活療法やサプリメントについて正しい知識を持ち、実践することが大切なこと。

★老化のメカニズム

老化は、年をとるに伴って、「神経機能の低下」や若さと健康を保つ「ホルモンレベルの低下」、活性酸素の攻撃による「酸化」、グルコースがたんぱく質と結合しておこる「糖化」、そして、「カロリーの過多と過少」が、老化遺伝子の働きかけて進行するものと考えられている。

ただし、先天的な影響は3割、生活環境などの後天的な影響が7割と言われている。

つまり、やりようがあるということ。

★オプティマルヘルスを目指そう

老化の仕方、すなわち、老化の内容やスピードは、人それぞれ。大切なのは、戸籍上の年齢ではなく、それぞれの年齢における最も活き活きとした理想的な健康状態を実現すること。

個人差が、はっきりと出てくるのは30代半ばから40代にかけて以降。

大切なのは、それぞれが均質に老化する、調和的な老化。もしも、弱点があれば、その弱点が全体の足を引っ張って、年齢以上に老化が進んでしまう。

★卵子、卵巣の老化を進めるもの

卵子、卵巣のアンチエイジングを実現するためには、ホルモン年齢を実年齢よりも、若く保つこと。

そのために注目すべきは、年齢とともに減少するとされている、成長ホルモン(IGF-1)やDHEA、メラトニン、酸化ストレス、そして、終末糖化産物(AGE)。

成長ホルモンやDHEA、メラトニンが減少し、酸化ストレスや終末糖化産物が増加すると、卵巣刺激への反応や卵子の質が低下し、すなわち、卵巣の機能が低下することで、採卵数や受精率、妊娠率が低くなることが分かっている。

また、これらの卵巣機能を低下させる可能性のあるものは、食生活や運動、ストレスなどのライフスタイルに影響を受けることが知られている。

★卵子、卵巣のアンチエイジングを実現するために

◎成長ホルモン

成長ホルモンの働きは、子どもの成長だけでなく、卵巣機能にも密接に関連している。成長ホルモンはIGF-1を介して、器官に働きかける。成長ホルモンの分泌は睡眠と運動、食事によって調整を受ける。

【睡眠】

質のよい睡眠が成長ホルモンの分泌を安定させる。反対に、不規則で、質の低い睡眠は、成長ホルモンの分泌を不安定にさせる。

【食生活】

空腹になってから食べること。空腹になるとグレリンが分泌され、成長ホルモンを活性させる。間食はよくない。良質なたんぱく質を摂ること。アミノ酸がホルモンの材料になるから。

【運動】

15分程度の程度のダンベル体操は成長ホルモンの分泌を促す。

◎DHEA

デヒドロエピアンドロステロン(略称がDHEA)は、副腎皮質から分泌される女性ホルモンや男性ホルモンになる。DHEAのサプリメントを摂取することで、40歳以上の卵巣の反応低下を改善することがあると報告されている。ただし、日本ではサプリメントとして販売することは法律で禁じられているため、必ず、医療管理者の管理のもとで使用すべき。

DHEAが減少すると、冷えやすくなったり、むくみやすくなる。

【運動】

筋力トレーニングや有酸素運動でDHEAの分泌量が増える。

【抗酸化療法】

酸化生成物がたまるとDHEAの働きが低下してしまうため、抗酸化療法と
併用すること。

◎メラトニン

松果体から分泌され、睡眠の質を司る。抗酸化作用や卵巣の保護作用がある。また、胎盤関門を通過し、胎児の脳を守る働きもあると言われている。

【睡眠】

早く寝て、早く起きる、質の高い睡眠で分泌量が増える。寝る前にカフェインを摂らない。寝室は真っ暗にして寝る。朝、起床時に太陽光を浴びる。

◎酸化ストレス

卵胞が生育するということは代謝が高くなり、酸化ストレスも高くなる。もしも、抗酸化能力が低下していると、卵の発育を阻害する。

【食生活】

新鮮な野菜や果物。

【サプリメント】

抗酸化ビタミン、ミネラル、コエンザイムQ10などで抗酸化ネットワークを強化する。

【ストレス】

強いストレスは抗酸化酵素を減少させる。

◎終末糖化産物(AGE)

AGEは、胚の発育を抑制し、胚の分割率や胚盤胞形成率を低下させると言われている。AGEは加齢や高血糖、喫煙などに伴う酸化ストレスにより産生される。高血糖にならない食事や運動が大切。

【食事】

ゆくっり食べる。ファーストフードや精製された食品を控える。食べる順番は、野菜からスタートして、肉や魚などのたんぱく質の次に炭水化物を食べることで、血糖値の上昇を緩やかにすること。朝食をきちんととる。

【運動】

運動習慣を身につける。

★それまで運動習慣のなかった40歳の女性が運動をはじめたら・・・

それまで運動習慣のなかった40歳の女性が40分の筋力トレーニングか、ウォーキングを週3回、2ヶ月続けた後に成長ホルモンとDHEAを測定したところ、筋力トレーニングでは成長ホルモンが17%、DHEAが30%増加し、ウォーキングでも成長ホルモンが17%、DHEAが20%増加したことが確かめられている。

いつからはじめても遅すぎることはないということ。

★妊カラ編集室から

いかがでしょうか?

以上が、抗加齢医学の第一人者の先生の卵子、卵巣のアンチエイジングのために取り組むべき内容です。

私たちは、この講演を聞き、これまで私たちが、「妊娠しやすいカラダづくり」について発信してきたことは、大きくは間違っていなかったことに大いに励まされました。

不妊治療を受けていても、受けていなくても、また、受けている治療が高度な治療でも、一般不妊治療でも、食生活や運動、ストレスマネージメント、サプリメントなどの妊娠しやすいカラダづくりに取り組むことで、妊娠の可能性が高まり、不妊治療の治療効果をより確実なものにするということです。

最後に米井先生は、病は気からということで、気合、すなわち、自分のカラダに自信をもつこと、信じることが大切だというメッセージで講演を締めくくられたことを報告しておきます。