運動で好循環スパイラルをつくる

2010年03月03日

生理がくるたびに落ち込む・・・、先の見えない不安から、夜更かしして、深夜までPCにはりついて、不妊の掲示板やコミュニティの情報に一喜一憂する・・・、情報が多過ぎて、ドクターの話しに疑心暗鬼になる・・・、ストレスからホルモンバランスが崩れてしまう・・・、また、妊娠できないかもしれないという心配が頭から離れない・・・、

まさに、「悪循環スパイラル」と言える状態です。

心配や不安、そして、ストレスの原因はただ一つ、「赤ちゃんが欲しい」という気持ちから。

ところが、そんな、人間として当たり前な願望が強くなればなるほど、心配や不安、ストレスが大きく、強くなってしまい、かえって、妊娠しづらくなってしまうという、本当に皮肉な現象です。

心配したり、不安に苛まれたり、そして、ストレスを感じることって、人間にとってマイナスなことなのでしょうか?

そんなことはないはずです。

なぜなら、心配し、不安があるからこそ、準備を怠らないものですし、先々の対策を講じるわけです。まったく、心配や不安がないというのも、危なっかしくて、危険過ぎます。

また、ストレスも心や身体を強くします。

まったく、ストレスのない状態では、心身の成長がないわけです。

これって、どういうことなんでしょうか?

どうやら、不安や心配、ストレスは、必ずしも、人間にとって悪いことではない、むしろ、本来は、必要なもの、人間を守ってくれているもののようです。

ところが、時と場合によっては、人間を苦しめたり、人間のさまざまな生理的な機能を低下させたりするようです。

つまり、ほどほどの不安や心配、ストレスは、人間にプラスに作用し、人間にとって必要なものなのだけれども、それらが強過ぎたり、長く続き過ぎると、人間のマイナスに作用したり、人間にとって不要なものになるようです。

前者は、「好循環スパイラル」状態、それに対して、後者は「悪循環スパイラル」状態です。

どうすれば、悪循環スパイラルから逃れ、好循環スパイラルに入り、それを維持できるようになるのでしょうか?

不安や心配、ストレスを意識的にほどほどの状態にコントロールするのは困難です。そうではなくて、
人間が生き物として、当然のあるべき活動をすれば、不安や心配、ストレスも本来の、人間にプラスに働くようになるのです。

人間は動くようにできている

人間が、人間として進化して以来、"何万年"という、想像を絶するくらい長い期間にわたって、人間は、狩猟採集生活をしていました。長い距離を歩かないと、食べ物が手に入らない生活です。

人間は動くようにできている、つまり、人間は、動き回ってこそ、さまざまな機能がほどよい状態に維持されるような、そんな遺伝的なプログラムがなされているということです。

ところが、それほど動かなくても食べられるようになって何百年、そして、現代のようにいながらにして、ほとんどのことができるようになって何十年、とにかく、動かなくなりました。

悪循環スパイラルに陥る最大の原因は、人間が生きる社会の環境が激変したことによって、私たちの身体にふさわしくない、本来の身体のメカニズムに合わない生活を送るようになったからでしょう。

好循環スパイラルに入るには、自分たちの身体に本来的に備わったメカニズムを意識し、それにあったような生活を送るように心掛けることではないでしょうか。

それは、とにかく、動くことです。

身体を動かすと不必要(過大)に心配したり、くよくよしなくなる

私たちが運営するファーティリティレッスンでは、日本マタニティフィットネス協会の不妊治療の運動プログラム、「プレマタニティビクス」を実施しています。一定期間継続受講された方々にアンケートをお願いしていますが、プレマタニティビクスに参加されてよかったこととして、

「以前ほどには生理がくるたびに落ち込まなくなりました。」、「妊娠しないことについて、くよくよ、イライラしなりました。」、「自分も妊娠できるかも!っていう自信みたいなものが芽生えました。」、「少しは、自分たちのことを客観視できるようになりました。」。

驚くほど、メンタルな効用を挙げておられます。

運動生理学の研究によって、運動することで、不安や心配、ストレスが軽くなるメカニズムが、解明されています。

それは、運動することで、全身の血流がよくなって、脳への血流も増大し、脳があるべき、ベストな状態になることで、不安や心配、ストレスが、身体にマイナスになるレベルを高めるからなのだそうです。専門的な言葉で言うと、閾(いき)値が高まるということ。

その結果、運動することによって、不安や心配、ストレスが身体にマイナスに働かなくなるわけです。

また、運動は抗うつ剤と同等の改善効果があると、一昨年の秋にアメリカの大学の研究結果が報告されています。

身体を動かすと性機能が高まる

日本マタニティフィットネス協会は、そもそもは、妊婦に運動を推奨し、妊娠中の運動プログラム「マタニティビクス」を開発した、産婦人科医のグループが立ち上げた組織です。

それは、妊娠中によく動くほど、妊娠中のストレスや不定愁訴が緩和されたり、妊娠糖尿病や妊娠高血圧などの合併症のリスクが低下したり、そして、帝王切開率が低下し、安産になることがわかっているからです。

ある調査によりますと、妊娠前に運動習慣があるかないかにかかわらず、妊娠中に週に5時間以上速歩きするだけで、妊娠糖尿病にかかるリスクが75%低下したとの報告があります。

身体を動かすことで、生殖器官の機能が高まることを証明していますが、それは、妊娠中であろうと、妊娠前であろうと同じこと。

生殖器官が位置する骨盤内の血流をよくすることで、生殖器官に栄養や酸素が行き渡り、老廃物がスムースに排泄されるようになるからです。

身体を動かす(運動する)と妊娠する力が高まる

身体を動かすことで、決して、直接的ではありませんし、誰にでも当てはまるわけではありませんが、
間接的に妊娠しやすい身体の状態を整えることは間違いありません。

◎排卵する力が高まる

身体を動かすことで、全身、特に、下半身や骨盤内の血流がよくなることで、卵巣があたためられ、排卵率が高まることが期待できます。

また、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)による排卵障害を改善するのに、メトフォルミンという糖尿病のお薬が有効なケースがあります。

メトフォルミンのインスリン抵抗性を改善することですが、運動することによって、インスリンの感受性が高まることが知られています。

◎着床環境が改善される

卵巣や子宮は臓器の末端に位置するため、体質によっては、血流が滞りやすい宿命にあります。定期的なウォーキング等の運動習慣によって、血流を改善することによって、子宮内膜の着床環境が向上することが期待できます。

◎太陽の光を浴びることでビタミンD不足が解消される

厚生労働科学研究の調査では、調査対象になった30歳以上の女性の半数以上に、ビタミンD不足状態にあると報告しています。

ビタミンDは生殖活動に重要な役割を担います。アメリカの大学の試験で、血液中や卵胞液中のビタミンD濃度の高い女性ほど、体外受精の妊娠率が高いことを確かめています。

ビタミンD不足に陥らないためには、太陽の光を1日10分浴びるだけでよいとされています。

◎メラトニン濃度が増す

早起きして運動することで、夜は、いつもより早く寝られるようになります。つまり、それだけで、早寝早起きが実践できるわけです。その結果、メラトニンの分泌量が増えて、質のよい卵子が育ち、妊娠に至る可能性が高くなることが期待できます。

1日40~60分のウォーキング

ここで言うところの運動は有酸素運動です。そして、目標とする運動の目安として、朝、活動する前に、40~60分のウォーキングです。運動強度は最大心拍数の60%。簡単な最大心拍数の求め方は、220から自分の年齢を引いた数値です。会話できるくらいの強度です。

もちろん、運動習慣のない人が、いきなり、毎朝、ウォーキングする目標を立てるのは無謀です。まずは、週に2、3回くらいからスタートして、徐々に、頻度や強度を高めていくべきです。

1日40~60分のウォーキング習慣が身につくと、すこぶる体調がよくなっていくのが実感できるはずです。

そして、活力やエネルギーが増し、悲観的な物の見方をしなくなっていきます。さらに、自然との一体感が強まり、自分をコントロールする力がついてくるように感じるはずです。

運動習慣がなかったときに比べると、世界観が広がるようになります。

決して、無理にやる必要はありません!

いかがですか?

人間という動物は、本来、動くようにできています。現代社会は、ますます、動く必要がなくなっています。ですから、人間らしい生活を送るためには、意識して、運動習慣を身につける必要があるというわけです。

ただし、最後にお断りしておきます。

確かに、人間は動くようにできています。そして、運動は、もちろん、するべきです。ただし、無理強いするつもりはありません。

なぜなら、強制されて運動では、自発的な運動ほどには効果が出ないことも、これまでの研究で分かっているからです。

楽しくやらないと、意味がないんですね。

[文献]

◎脳を鍛えるには運動しかない!最新科学でわかった脳細胞の増やし方
NHK出版

◎Replete vitamin D stores predict reproductive success following in vitro fertilization
Fertility and Sterility article in press