不妊治療で感じるストレスにどう対処すればいいのか

2010年03月01日

ストレスをどうにかしたい・・・、不妊治療で通院している方々にとって、ストレスは最も気になることの一つでしょう。

これまで授からなかったということだけでなく、先が見えないこと、そして、不妊治療そのものやお金や時間のやりくり、さらには、周囲の無理解等々、一々、挙げていけばきりがないくらい、ストレスの原因になることはたくさんあります。

長期間、強いストレスにさらされると、心身の健康にとってよくないことは明らかですが、実際のところ、ストレスは妊娠する力や治療成績を低下させるのでしょうか、また、もしも、そうなのであれば、どうすればいいのでしょうか。

そこで、不妊治療で感じるストレスについて、考えてみます。

ストレスと体外受精の治療成績との関係

イギリスで初めての体外受精が成功して30年、最新の世界統計では約60万周期の体外受精が実施され(※1)、成功率は、常に、新たな治療法が研究されているものの、だいたい、25~30%くらいに落ち着いているようです。

ただし、個々のケースでは、年齢をはじめとするさまざまな要因で治療成績が左右され、ストレスと体外受精の成績の関係についても、多くの試験が実施されています。

809名の女性を対象にしたデンマークの試験では、ストレスと体外受精の治療成績との関連性を分析したところ、妊娠した女性は、妊娠しなかった女性に比べて、ストレスに感じることが少なかったと報告します(※2)。

ところが、166人の女性を対象にしたスウェーデンの試験では、治療を開始する1ヶ月前と採卵の1週間前のストレスレベルを調べ、治療成績との関係を調べたところ、妊娠した女性と妊娠しなかった女性の間で、ストレスレベルの違いは見られなかったと報告しています(※3)。

さらに、129組の夫婦を対象にしたアメリカの試験では、体外受精で妊娠に至った女性のほうが、ストレスレベルが強かったと報告しています(※4)。

このように、ストレスと体外受精の治療成績の関係については、ストレスがあるほど治療成績が悪いとの報告もあれば、ストレスと治療成績は関係ないとする報告、さらには、ストレスがあるほうが治療成績がよかったとする報告もあり、まったく、相反する結論が導かれていて、はっきりとしたことは言えません。

もちろん、ストレスを数値化することが困難なこともあるのでしょうが、ストレスは妊娠する力や治療成績を低下させるとは、一概には言えないようです。

ストレス対処法と体外受精の治療成績との関係

ストレスがあるからといって、必ずしも、治療成績に悪い影響を及ぼすとは限らないことがわかりました。

それでは、ストレス対処法と治療成績の関係についてはどうでしょうか。

343人の女性を対象にしたギリシャの試験では、ストレスを何とかして妊娠を目指そうとして、不妊仲間に、自分の感情を表に出し、それを共有しようとした女性よりも、何か好きなことに取組んで、気持ちを紛らせていた女性に比べて、妊娠率が顕著に低かったと報告しています(※5)。

また、88名の女性を対象にしたイスラエルの試験では、自分の力でコントロールできないことと考え、それほど結果にこだわらない女のほうが、自分でなんとかコントロールしようとして、治療のことや結果について、あれこれ思いめぐらし、心配していた女性に比べて、88%妊娠する確率が高かったと報告しています(※6)。

ストレス対処法と治療成績の関係は明確です。

ストレス対処法、すなわち、ストレスの原因をどのように受け止め(解釈し)、そして、どのように対処するのか、心理学では、ストレスコーピングとよんでいます。

そして、ストレスコーピングには、大きくは、問題焦点型コーピングと情動焦点型コーピングの2種類あり、これまでに実施された試験では、問題焦点型コーピングでストレスを対処した女性よりも、情動焦点型コーピングでストレスを対処した女性のほうが、体外受精の治療成績がよかったと報告されています。

ストレスに対しては、情動焦点型コーピングで対処するほうが、不妊治療がうまくいく可能性が高くなるというわけです。

ストレスがあるかどうかではなく、どのように対処するかが重要

ストレスがあるかどうかではなく、ストレスをどのように解釈し、どう対処するかが重要だということ。

考えてみれば、ストレスが妊娠する力や治療成績を低下させるのであれば、ストレスをなくすかないわけで、非現実的で、ほとんど不可能なことになってしまいます。

ストレスはあって当たり前で、なくすることなんてできないわけですから、ストレスを感じることを問題にしてしまえば、マイナスのスパイラルの泥沼が待っているだけでしょう。

ストレスの奴隷となり、翻弄され続ければ、ストレスがなくならない限り、幸せにはなれません。

ところが、ストレスから自由になりさえすれば、ストレスがなくならなくても、幸せになれるということでしょうか。

ストレス対処法いかんで、ストレスと共存できるというわけです。

問題焦点型と情動焦点型コーピング

それでは、どうすれば、ストレスから自由になれるのでしょうか。

そのヒントを得るために、問題焦点型と情動焦点型コーピングとはどのようなものなのか、以下にみていくことにしましょう。

問題焦点型コーピングとは、状況は変えることができると解釈し、問題の所在を明らかにし、情報を収集し、解決策を考え、それを実行するように対処する方法です。

たとえば、体外受精に臨むにあたっては、治療成績はコントロールできるとの認識のもとに、治療のプロセスごとの成績を心配し、少しでもよい成績になるよう、精一杯情報を収集し、治療が成功するように頑張ります。

ところが、このような対処法は、意に反して、授かることにプラスにはならなくて、かえって、マイナスに働くようです。

それに対して、情動焦点型コーピングとは、状況はコントロールできないものと解釈し、回避したり、静観したりして、自分の気分を晴らすよう対処する方法です。

体外受精に臨むにあたっては、どうせ、治療成績をコントロールすることはできないのだから、じたばたしても始まらない、それよりも、結果にこだわり過ぎず、気分転換や気晴らしになることを楽しもうとします。

そして、そのほうが治療成績がよいことが検証されているのです。

どうにかできることと、どうにもならないことを区別する

不妊治療に臨むにあたって、自分たちでコントロールできることには最善を尽くし、自分たちの力が及ばないことについてはおまかせしてしまう、そういうことになるでしょうか。

たとえば、

治療を受けるかどうか、どんな治療を、どれくらい受けるのか、どこの病院に通うのか、どの先生に診てもらうのか、どんなものをどのように食べて、何時に寝て、何時に起きるのか、パートナーとどんな関係を築くのか。

これらは100%自分たちでコントロール可能で、自分たちで決めることができることです。

ところが、

どんなグレードの受精卵が、どれくらい育つのか、妊娠できるかどうか、いつ妊娠できるのか。

これらは自分たちでコントロール不能で、自分たちの都合や希望で決めることができないことです。

私たちにできるのは、自分たちの力の及ばないことについて、安心して、納得して、おまかせできるような環境をつくること、それくらいではないでしょうか。

そして、状況や条件は、私たちには変えることはできませんが、どんな状況、どんな条件にあっても、
それを楽しんでしまえるココロをつくることは、簡単なことではないかもしれないけれど、私たちの努力と工夫次第では、可能なことだと思っています。

[文献]

※1)Human Reproduction 1(2):1-11 2009
※2)Human Reproduction 24(9):2173-2182 2009
※3)Human Reproduction 20(10):2969-2975 2005
※4)Fertility and Sterility 88(3):714-717 2007
※5)Fertility and Sterility 86(3):672-677 2006
※6)Fertility and Sterility 92(4):1384-1388 2009

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