妊娠する力を高める正しいダイエットについて考える

2007年11月17日

妊娠する力と体重には密接な関係があります。 やせ過ぎても、太りすぎても妊娠しづらくなるということです。そこで、 「妊娠する力を高めるための正しいダイエット」について考えてみました。 尚、ダイエット法については、 心斎橋中央クリニック院長の西川浩先生に監修いただきました。

肥満が妊娠する力に及ぼす影響とは?

肥満が妊娠しづらくさせることは、 これまでに数多くの研究報告がなされています。 最新の報告をみてみましょう。 デンマークで子どもを望んでから妊娠するまでの期間を調査したところ、 夫婦ともに肥満のカップルは、標準体重の夫婦に比べて、 妊娠するまでに約3倍の期間を要したことが分かりました。
また、体外受精の成功率にも影響を及ぼすようです。 イギリスの大学の調査によりますと、 BМI(体格指数)が25以上の女性は、25以下未満の女性に比べて、 体外受精時の妊娠率がおおよそ30%低いことが分かりました。
さらには、子宮の着床環境をも悪化させるようです。 スペインのヴァレンシア大学で、 卵子の提供を受けた女性のBМIと治療成績の関係を調べたところ、 25以上の女性は、25以下の女性に比べて、 妊娠の継続率が低いことが分かりました。

肥満が妊娠する力を低下させるのは、 一言で言うと、ホルモンのバランスが崩れてしまうことによるものです。 生殖ホルモンは脂溶性で、脂肪細胞に蓄積されることから、 脳からの生殖ホルモンの分泌指令がうまくいかなくなることがあったり、 脂肪細胞そのものが生殖に関わるホルモンを分泌したりするからです。 そんなことから、肥満は排卵障害を招いたり、 排卵障害の原因になる多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)になりやすくなります。

体重と不妊の関係はあくまでも相対的なもの

肥満かどうか、また、どの程度の肥満なのかは、 BМI(体格指数)を目安とするのが一般的です。 BМIは、体重(kg)÷身長(m)×身長(m)、 体重(kg)を身長の二乗で割ることで算出します。 このBМIが20~25であれば適正体重、25以上を肥満としています。 ただし、BМIが25を超えると、 必ず、不妊になるというわけではなくて、 妊娠しづらくなる確率が、BМIに比例して、高くなるということです。 あくまで、相対的なものであって、絶対的な不妊の基準ではありません。

妊娠する力を高める"正しい"ダイエットとは?

例の"納豆ダイエット"を引き合いに出すまでもなく、 世の中、誤ったダイエット法が氾濫していると言っても、 決して、過言ではありません。 妊娠を目指してダイエットに取り組む場合、 その方法を間違ってしまうと、 皮肉にも、もっと妊娠しづらくなってしまいかねません。 ですから、誤ったダイエット法の"嘘"を見抜くためにも、 単なるノウハウだけを求めるのではなく、 太るということはどういうことなのかということ、 そして、適正な体重を維持するための原則を知っておくことが大切です。

ダイエットの大原則=摂取カロリー<消費カロリー

太るということは、 基礎代謝や体を動かして消費するカロリーよりも、 食事で摂取するカロリーの方が多いということです。 反対に、ダイエットするということは、 食事で摂取するカロリーよりも、 基礎代謝や運動して消費するカロリーを多くするということです。 ですから、ダイエットを成功させるためには、 食事で摂取するカロリーを減らして、 基礎代謝を高めたり、運動することで、 消費カロリーを増やすことに尽きるのです。 要するに、食事制限と運動(有酸素運動と筋力トレーニング)を、 一緒にやることです。

食事の大原則=3大栄養素をバランスよく摂取する

食事で摂取するカロリーを減らすということは、 決して、何かを食べないということではありません。 また、同じ食品ばかりを食べ続けることでもありません。 絶対に守るべき大原則は、 「炭水化物」、「たんぱく質」、「脂肪」をバランスよく摂取しながら、 食べる量だけを減らすということです。 間違ったダイエットは、 往々にして、このバランスを崩すことで、 体重を減らそう(やつれよう)とするものです。 到底、長続きするものではありませんし、 強い意志で、長く続けようものなら、確実に、不健康になります。 たとえば、アトキンス博士の提唱する、 「低炭水化物ダイエット」が人気のようですが、 このダイエットによって便秘に悩まされる女性は少なくありません。 なぜなら、炭水化物を減らすことで、 炭水化物の糖類からつくられる善玉菌も一緒に減らしてしまい、 腸内環境が悪玉菌優勢になることから、肌が荒れたり、便秘になりやすくなってしまうからです。

これは、ほんの一例にしか過ぎません。 3大栄養素をバランスよく食べるという大原則を無視した、 特徴的な(不自然で偏った)食べ方を推奨するような、 ○○式ダイエットという類は、くれぐれも、要注意です!

食べ方の大原則[1]=食欲の調整メカニズムを正常にする

そもそも強い意志でもって、食べることを我慢しなければ、 適正な体重を維持できないこと自体、おかしいと思いませんか? 確かに、私たち、現代人は動かなくなりました。 消費するカロリーが少ないわけですから、 自ずと、食べる量を減らさなければならないのですが、 本来であれば、運動量が少ない分だけ、それほど、お腹も空かないはず。 ですから、太る人の傾向として、 決して、意思が弱いということではなく、 食欲のコントロールが働きづらくなってしまっているために、 空腹感を感じやすくなっているだけである可能性が高いのです。 もしも、食欲が正常にコントロールされるようになれば、 それまでよりも少ない量で満足感を得られるようになりますから、 ダイエット=食欲を強い意志で我慢するという図式ではなくなります。

そのためのポイントは"血糖値"です。 元凶は血糖値が急激に上がるような食べ方です。 血糖値の急激な上昇と下降は、 血糖値を下げるホルモンであるインスリンの過剰分泌を招き、 空腹感を感じるレベルが高くなり、 ついつい、食べ過ぎてしまうだけでなく、 代謝を低下させ、体脂肪を増やすことを始めとして、 さまざまな健康にマイナスな影響を及ぼすようになるのです。 要は、血糖値を急激にあげない食べ方をすることです。

そのための食べ方を列挙します。
●主食は精製度の低いものを(玄米や全粒粉パン)。
●野菜や果物、豆類、海藻をしっかり食べる
●空腹時の砂糖は避ける。
●清涼飲料水を控える。
●ゆっくり、よく噛んで、腹七分目。

食べ方の大原則[2]=脂肪も摂取量よりも摂取バランス

とにかく脂肪は摂らない方がよいというのも間違いです。 脂肪と一口に言っても、 いろいろな種類の脂肪があって、 太りやすい脂肪と太りにくい脂肪があります。 もちろん、食生活の目的は、 太りにくくすることだけではありませんから、 太りやすい脂肪をやめて、太りにくい脂肪だけを摂取するのではなく、 ここでも、バランスよく摂取することがポイントになります。

そのための目安を列挙します。
●肉より魚。
●トランス脂肪酸は摂らない。
●フライや揚げ物は少なくする。
●加熱料理にはオリーブオイルを使う。
●サラダには亜麻仁油やしそ油を使う。

目的は体重を落とすことではない。

さて、このダイエットの目的は、 決して、体重を落とすことではありません。 ホルモンのバランスを整え、 妊娠しやすいカラダをつくることです。 実は、ダイエットを経験された方は分かると思いますが、 意外にも、体重を落とすことよりも、 体重を維持することの方が難しいのです。 リバウンドしてしまうのもこのためでしょう。 ダイエットとは、一時的にやせ我慢して、 体重を落とすことでは、決して、ありません。 正しく食べて、適度に運動をすることで、 適正な体重を維持することこそ、 妊娠しやすいカラダをつくるためのダイエットなのです。 もしも、体重を落とすことに重きをおいてしまって、 急激に体重の1割以上の減量をした場合、 ダイエットによる無月経になってしまう可能性が高くなります。 ダイエットにより無月経はやっかいで、 妊娠しやすいカラダどころか、 妊娠できないカラダをつくってしまいかねません。 体重を落とす必要がある場合、 「4週間で2キロのペース」で減量するのが原則です。 目安は、1週間で500グラムです。 これ以上のペースの減量は絶対にやるべきではありません。

原則に沿った調整をしていく

食べ方の原則を守りさえすれば、 もはや、細かいカロリー計算など不要です。 あとは、体重の推移をみながら、微調整します。 生活全体のバランスに気をつけて、 運動量を増やしたり、食事量を減らしたりしていきます。

正しいダイエット=未だ見ぬ我が子の健康

いかがでしょうか? おそらく、正しいダイエットは、 時間はかかりますが、飛躍的に、妊娠する力を高めてくれるでしょう。 また、それだけに止まりません。 妊娠前や妊娠中の母親の健康状態が、 やがて、生まれくるお子さんの長期間に渡る健康状態に、 強く、影響を及ぼすことは多くの研究報告がなされています。 さらに、何をどのように食べるのかは、 家族全員の長期間に渡る健康を左右するものです。 自然な食品からほど遠い、 各種ダイエット食品やダイエットサプリメントなどは、愚の骨頂です。 正しいダイエットの大原則に照らせば、一目瞭然です。

■監修:心斎橋中央クリニック院長 西川浩先生