2005年度体外受精・胚移植臨床実施成績から

2007年10月26日

体外受精・胚移植等の臨床実施成績

日本産科婦人科学会は、 高度生殖医療を実施する施設として登録されている医療機関に、 1年に1度、前年度の治療数や治療成績等の報告を義務づけています。 高度生殖医療とは体外受精や顕微授精等の高度な不妊治療のことです。 そして、毎年、その集計結果を公表しています。 先月、2005年度のデータが発表されました。

体外受精や顕微授精などの全体の傾向がわかります

データの内容は、 それぞれの治療回数やその結果の総数であって、 決して、個別の治療成績が公表されているわけではありませんが、 それでも、全体の傾向が把握できる唯一の公的なデータです。 そこで、今週のトピックスとして、 最新版である2005年度の臨床実施成績を、 "患者の視点から"みてみることにしましょう。

最新の臨床実施成績のデータから体外受精の実態を知る

■医療機関について

★高度生殖医療を実施する医療機関の数は?

2005年末時点で登録されている医療機関の総数は641施設ですが、 実際に高度生殖医療を実施した医療機関は552施設です。

【解 説】

日本の2倍以上の体外受精児が出生している不妊治療大国のアメリカで、 登録施設数が400少しですから、 日本では高度生殖医療を実施する医療機関が大変多いと言えます。

★医療機関を治療実績からみると?

新鮮胚を用いた(受精卵を凍結しないで)体外受精を実施した医療機関は、 544施設と報告されていますが、 年間に50周期以下の施設が325施設、 100周期以下の施設が100施設と報告されています。 また、300周期以上の施設が18施設、 600周期以上の施設が4施設と報告されています。

【解 説】

8割近くの医療機関が年間に100周期以下の実績しかなく、 高度生殖医療の技術の維持のために最低必要とされる、 1日1例以上の実績がある医療機関は全体の3%しかありません。 このことから、日本では高度生殖医療を実施する施設の数は多いものの、 その実績には、大変なバラツキがあり、 一部の施設に患者が集中しているのが現状であると言えます。 また、治療実績と治療成績がどの程度リンクしているのかは、 調べる術がないのですが、 治療実績の豊富な一部の有名で、人気のある医療機関に、 患者が集中していることが分かります。 このことは、クリニックを選ぶ際に、 治療実績を最も重視していることのあらわれです。

■高度生殖医療による出生児数について

★体外受精や顕微授精でどれくらいのお子さんが生まれているのか?

体外受精(新鮮胚)で、6,706人、 顕微授精(新鮮胚)で、5,864人、 凍結融解胚(受精卵)を用いた治療(IVF、ICSI)で、6,530人、 凍結融解未受精卵を用いた治療で、12人、 そして、2005年に高度生殖医療で生まれたお子さんの数は、19,112人でした。 これで、高度生殖医療による累計出生児数は、154,869人になりました。

【解 説】

2005年度の全体の出生児数は106万2,530人だったことから、 高度生殖医療で生まれたお子さんは全体の約1.8%で、 55人に1人のお子さんが、体外受精や顕微授精で生まれた計算になります。 そして、前年度は18,168人でしたから、前年度比は105.2%でした。 また、治療別の出生児数については、 体外受精や顕微授精による出生児数は横ばいなのに対して、 凍結融解胚を用いた治療による出生児数が著しく伸びています。 このことは、受精卵の凍結融解技術レベルの向上したこと、 また、多胎妊娠を避けるために、 新鮮胚を移植する際の移植胚数を、 出来る限り少なくする傾向が強くなったことから、 余剰胚を凍結保存する機会が増えていることによるものと考えられます。

■高度生殖医療の治療成績について

★治療周期総数について

治療周期総数は、体外受精(新鮮胚を用いた)で、42,685周期、 顕微授精(新鮮胚を用いた)で、47,355周期、 そして、凍結融解胚を用いた治療で、35,011周期でした。

【解 説】

顕微授精の治療周期総数が体外受精のそれよりも多いのは最近の傾向です。 このことは、受精障害等、男性不妊以外でも、 顕微授精が実施されているということでしょう。

因みに、治療周期総数を患者総数で割って、 治療別の1年間の1人あたりの治療周期回数を出してみますと、 体外受精で、1.4回、顕微授精で、1.5回、凍結胚移植で、1.5回でした。 すなわち、体外受精や顕微授精を1年間に1.5回受け、 それに凍結胚移植を平均して1回弱受けているのではと推測されます。

★採卵率について

採卵率(採卵総回数/治療周期総数)

・体外受精:94.5%
・顕微授精:95.7%

【解 説】

卵巣を刺激したにもかかわらず、 卵が育たなかった等の理由により採卵が出来ないことが、 約5%くらいの確率であるようです。

★移植率について

移植率(移植総回数/採卵総回数)

・体外受精:72.4%
・顕微授精:68.2%

【解 説】

採卵したにもかかわらず、受精しなかったとか、 受精したものの途中で分割が止まってしまった等の理由で、 移植がキャンセルになることが、約3割程度の確率であるようです。 これは、胚盤胞移植等、培養期間を長くすれば、するほど高くなります。

★妊娠率について

・体外受精(新鮮胚) 
治療周期あたり妊娠率:20.8%
採卵あたり妊娠率:22.0%            
移植あたり妊娠率:30.4%

・顕微授精(新鮮胚) 
治療周期あたり妊娠率:16.8%            
採卵あたり妊娠率:17.7%            
移植あたり妊娠率:26.0%

・凍結胚移植     
移植あたり妊娠率:32.7%

【解 説】

ここでいうところの"妊娠"は、 超音波検査で胎のうが確認された「臨床妊娠」のことで、 尿検査による妊娠反応が陽性となった「化学的妊娠」は含みません。 化学的妊娠のなかには、妊娠していないのに陽性になること、 また、子宮外妊娠のケースもあるからです。

さて、それぞれの妊娠率ですが、 妊娠の定義を規定しても、分母によって妊娠率は違ってきます。 何をもって分母とするのかは、 患者の意識によっても異なるのでないでしょうか? 例えば、卵巣刺激が始まったことを分母とする意識の方もいるでしょうし、 身体への処置が施される採卵を分母とする方も少なくないと思われます。

凍結胚移植の妊娠率の高さは凍結技術の向上によるものでしょう。 もしかしたら、着床環境を整えたうえで、 胚移植を実施していることも影響しているのかもしれません。

最近の傾向として、妊娠率については、ほぼ、変わっていません。

また、治療成績については母親になる女性の年齢が大きく影響します。 ここでは、あくまで全体の数字であることを認識しておく必要があります。

★流産率について

・体外受精(新鮮胚):21.9%
・顕微授精(新鮮胚):22.7%
・凍結胚移:24.1%

【解 説】

この流産率も年齢の影響が大です。 このデータは、あくまで全体の数です。

★多胎率について

・体外受精(新鮮胚):16.0%
・顕微授精(新鮮胚):15.3%
・凍結胚移植:12.2%

【解 説】

多胎率は移植する胚の数に大きく左右されます。 このデータは、あくまで全体の数です。

★子宮外妊娠について

・体外受精(新鮮胚):214
・顕微授精(新鮮胚):121
・凍結胚移植: 72

移植あたりの子宮外妊娠率は以下の通りです。

・体外受精(新鮮胚):0.7%
・顕微授精(新鮮胚):0.3%
・凍結胚移植:0.25%

【解 説】

あえて、妊娠あたりの子宮外妊娠の割合を出してみると、 体外受精で2.4%となります。

★生産率について

生産率とは出産まで至った確率のことです。         

・体外受精(新鮮胚) 
治療周期あたり生産率:13.2%
採卵あたり生産率:13.9%            
移植あたり生産率:19.2%

・顕微授精(新鮮胚) 
治療周期あたり生産率:10.3%            
採卵あたり生産率:10.8%            
移植あたり生産率:15.9%

・凍結胚移植     
移植あたり生産率:19.9%

【解 説】

治療成績をみる場合、 患者の視点(気持ち)から言えば、 妊娠率よりも、むしろ、この生産率をみるべきだと思います。 なぜなら、やはり、不妊治療の目的は、 決して、妊娠することだけではなく、 "子どもを抱いて、家に帰る"ことだからです。

この観点からみると、 結局、その確率が20%を下回るわけですから、 高度生殖医療の成功率は決して高いとは言いがたいものがあります。 このように、一口に治療成績とは言っても、 数値の出し方によって、表面的な印象は随分と違ってくるものです。 大切なのは、治療成績に関するデータは、 必ず、複眼的にみるということではないでしょうか? 表面的な数値を鵜呑みにしてしまうと、 現実離れした過度な期待感を抱いてしまいかねません。

■新鮮胚を用いた体外受精で各段階をクリアできる確率とは?

新鮮胚を用いた体外受精を受けることになって、 治療周期をスタートして、

→採卵が成功するに至るのは94.5%
→受精卵を得ることが出来て移植できるのは68.5%
→臨床妊娠が確認できるのは20.8%
→分娩まで至るのは13.2%

■まとめとして

・高度生殖医療を実施する医療機関の治療実績はバラツキが大きいです。
・一部の医療機関に患者が集中している傾向があります。
・2005年度に高度生殖医療で約2万人弱のお子さんが生まれました。
・2005年度の新生児の55人に1人は高度生殖医療のよる出生児です。
・高度生殖医療に移植あたりの臨床妊娠率は約30%です。
・高度生殖医療の妊娠率はここ数年横ばいで、あまり変化がありません。
・凍結胚による治療数が増加しており、成績も新鮮胚のに匹敵しています。
・治療周期あたりの出産までに至る確率は15%を切るくらいです。