step4ストレスとうまく付き合う

治療法としての「テンダー・ラビング・ケア」

避けることができないストレスならば、ストレスを和らげる方法について知っておきましょう。

治療法としての「テンダー・ラビング・ケア」

流産を繰り返す習慣流産、そのカップルの治療法として、「テンダー・ラビング・ケア」が注目されています。

2006年、ヨーロッパ生殖医学会の専門誌で、習慣流産の検査や治療についてのガイドラインが発表されました。イギリスやデンマークの研究チームが、それまでの信頼度の高い研究報告を一つにまとめ、分析した結果、習慣流産の夫婦に施されるべき確立された治療法は「テンダー・ラビング・ケア」だけだったのです。もちろん、喫煙やダイエット、飲酒についてのアドバイスも有効で必要なこととしています。(*1)

「テンダー・ラビング・ケア(TLC=Tender loving Care)」とは、「優しい愛のケア」というような意味です。その方法は、投薬や外科的な治療ではなく、"優しく、愛情を持って"患者に接し、そして、いたわるという、ごくごく単純な治療法なのです。

専門家の間で、「テンダー・ラビング・ケア(TLC)」が知られるようになったのは、1984年にスウェーデンの研究チームが発表した論文です(*2)。連続して3回以上流産を繰り返した女性195人を9年間追跡調査したところ、195人の流産の総数は773件、なかには13回流産した人もいました。TLCを受けたグループと受けなかったグループに分けて、原因のあるカップルには適切な治療をした結果、TLCを受けなかったグループでは33%に対し、TLCを受けたグループでは86%のカップルが出産したのです。

このことは、何を意味するのでしょうか?
流産を繰り返すメカニズムは、まだ医学的に十分に解明されていないため、決定的な治療法がありません。たとえ流産を繰り返す原因があったとしても、さらにストレスが流産を引き起こすという確たる証拠がなくても、メンタルな不安感は流産には少なからず影響していると考えるのが自然といえるでしょう。

TLCが物語るのは、もしも強いストレスを受けたとしても、「パートナーや周りの人との愛情のある関係の中で、安定した気持ちを取り戻すことができる」ということではないでしょうか。


愛情ホルモン「オキシトシン」は食生活や運動で分泌を促す

「愛情ホルモン」と呼ばれるのが「オキシトシン」です。オキシトシンは、不安が減り、性行動が促され、愛情を高める作用があるといわれています。授乳の際に、赤ちゃんにおっぱいを吸われると、このオキシトシンの分泌が活発になるので、母親の赤ちゃんへの愛情が高まり、母と子の結びつき(絆)が強くなるといわれます。オキシトシンは、安心感を得ることができる、まさに抗ストレス・ホルモンなのです。

オキシトシンの分泌を活発にするには、バランスのよい食生活を心がけましょう。脳内神経伝達物質の一つであるセロトニンは、オキシトシンの分泌を促します。食生活の乱れは、このセレトニンの合成不足を招き、オキシトシンの分泌量の低下にもつながります。

オキシトシンの分泌は、カラダにリズミカルにタッチすることや運動によっても促されます。パートナーとお互いにマッサージをし合ったり、ウォーキングなどの運動がおすすめです。これらはストレスに強い体質づくりに役立つとともに、パートナーとの絆を強くすることにもつながることでしょう。


カラダとココロ、すべてはつながっている

私たちの情緒や気分は、気合いや努力で、どうにかなるものではありません。それらに強い影響を及ぼす、血糖値の動きや脳内神経伝達物質、脂肪酸、ホルモンの量やバランスを整えることで、気分が安定するようになり、ストレスに強い体質になるのです。それには、バランスよく健康的な食べ方をして、パートナーとふれあい、カラダを動かすことが大切ということです。

これらを続けることで、妊娠する力も高まるはずです。

食べるものがカラダをつくり、毎日の生活習慣がココロをすこやかに保つことを、常に意識しましょう。よい方向に作用させるのは、自分次第ということなのです。


(*1)Evidence-based guidelines for the investigation and medical treatment of recurrent miscarriage Eric Jauniaux,et al. Hum Reprod. 2006 May;21(9):2216-2222
(*2)Etiologic factors and subsequent reproductive performance in 195 couples with a prior history of habitual abortion. Stray-Pedersen B,et al. Am J Obstet Gynecol. 1984 Jan 15;148(2):140-6.