脂肪酸の摂取と精子無力症の関係

男性の妊娠させる力に影響を及ぼすもの

2014年11月15日

Fertility and Sterlity

飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を多く摂る男性ほど精子無力症になりやすく、オメガ3脂肪酸やDHAをよく摂る男性ほど精子無力症になりにくいことがイランで実施された試験で明らかになりました。

テヘランの不妊治療クリニックで精子運動率が基準値を下回り、精子無力症と診断された男性107名と同じクリニックに通院するカップルの男性で精液所見が正常であった男性235名に食物摂取頻度調査票を実施し、脂肪酸の摂取状況と精子無力症にかかるリスクとの関係を調べました。

それぞれの脂肪酸の摂取量で3つのグループに分けたところ、動物性脂肪に多い飽和脂肪酸を最も多く摂取する男性は最も少ない男性に比べて精子無力症のリスクが1.85倍、トランス脂肪酸を最も多く摂取する男性は最も少ない男性に比べて2.53倍、それぞれ高いことがわかりました。反対にオメガ3脂肪酸を最も多く摂る男性は最も少ない男性に比べて精子無力症のリスクが32%、DHAを最も多く摂る男性は最も少ない男性に比べて47%、ぞれぞれ低いことがわかりました。

飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂取は精子無力症のリスクを高め、オメガ3脂肪酸やDHAを多く摂るほど精子無力症になりにくいという結果は摂取する脂肪酸の種類が精子無力症の病因に重要であることを示しています。

コメント

脂肪酸とは脂質を構成する成分のことで、脂質に含まれる脂肪酸とその量によって脂質の性質が決まります。脂肪酸は大きく動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸と植物性脂肪に多く含まれる不飽和脂肪酸に分けられ、不飽和脂肪酸はさらに、オリーブオイルに代表される一価不飽和脂肪酸(オメガ9系脂肪酸)と多価不飽和脂肪酸に、多価不飽和脂肪酸はリノレン酸に代表されるオメガ6系脂肪酸とα~リノレン酸やDHA、EPAの代表されるオメガ3系脂肪酸に分けられます。また、植物性脂肪を工業的に加工する際に発生する脂肪酸がトランス脂肪酸です。

これらの脂肪酸は全て食事から摂る脂質に含まれていますから、食生活のパターンによって、摂取する脂肪酸の傾向が決まってきます。

今回の研究は脂肪酸の摂取と精子無力症との関係を調べたもので、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の過剰摂取は精子運動率の低下に、反対にオメガ3脂肪酸をよく摂ると精子運動率の維持に関係することがわかりました。

動物性脂肪や加工食品、クッキー、スナック菓子を食べ過ぎないようにし、魚や野菜、精製度の低い穀物を中心にすることが精子の運動能力にはいいということになります。

これまでも脂肪酸と精子の質については、多くの研究報告があります。

たとえば、トランス脂肪酸の摂取量が多い男性ほど総精子数が少なく、コレステロールの摂取量が多い男性ほど射出精液量が少ないこと、動物性脂肪に豊富な飽和脂肪酸を多く摂取する男性ほど、精子数や精子濃度が低いこと、さらには、肉類の脂肪に多い飽和脂肪酸の過剰な摂取は精子濃度を低下させるおそれがあり、魚油に多いオメガ3系脂肪酸の摂取は正常形態精子を増やすことが期待できるかもしれないことです。

脂肪酸の種類が精液所見に影響を及ぼすのは、精子細胞の細胞膜がどんな脂肪酸で構成されるかで、精子をつくる働きや精子の運動能力を決定するからではないかと考えられています。

いずれにしても、精子の健康は食生活のパターンに強く影響を受けるということになります。