発育卵胞が2個以下の周期に体外受精を継続した場合と人工授精に変更した場合の妊娠率比較

不妊改善・生殖医療関連

2014年10月05日

Fertility and Sterlity

体外受精の際の卵巣刺激で発育卵胞が2個あれば、そのまま体外受精を続けてもよいが、1個であれば人工授精に変更しても治療成績は変わらないことがフランスで実施された試験で明らかになりました。

フランスの4つの不妊治療クリニックで実施された体外受精7,176周期で、卵巣刺激を行っても16mm以上の卵胞が1個、もしくは、2個しか発育しなかった場合、そのまま、体外受精を続け、採卵に進んだほうよいのか、それとも、人工授精に変更したほうがよいのか、適切な治療指針を決定するために治療成績を比較しました。

7,176周期の内、卵巣刺激後の発育卵胞数が2個以下だったのは461周期で、その内、体外受精を継続し、採卵に進んだのは184周期、人工授精に変更したのは141周期、そして、治療をキャンセルしたのが136周期でした。

一方、人工授精に変更した141周期の内、妊娠できたのは15周期(11%)、出産まで至ったのが5周期(3.5%)でした。

これを発育卵胞数別にみてみると以下の通りでした。

figure2.jpg

2個の卵胞発育が認められた場合(右のグラフ)はそのまま体外受精(赤)を継続し採卵に臨んだ結果、11.5%が出産に至っていますが、人工授精(青)に変更した場合に出産に至ったのは1.6%でした。

一方、1個しか卵胞が発育しなかった場合(左のグラフ)は体外受精(赤)を継続し採卵に臨んだ結果、出産に至ったのは4.8%でしたが、人工授精(青)に変更した場合は5.1%が出産に至っています。

ただし、体外受精を継続した場合の成績は移植あたりではなく、治療周期あたりで算出しています。

このように、卵巣を刺激しても発育卵胞が1個しか認められなかった場合は、そのまま体外受精を継続し、採卵に臨んでも、人工授精に変更しても妊娠率や出産率は同等であることがわかりました。

このことから体外受精で卵巣刺激による発育卵胞が1個しか認められない場合、もしも、両側の卵管に問題がなく、重度の男性不妊でなければ、人工授精に変更すべきであると結論づけています。

コメント

体外受精では妊娠できるだけの力を備えた卵子を得る確率を高めるために、排卵誘発剤によって卵巣刺激を行い、複数個の成熟卵の採取を目指します。これまでの研究では採卵個数が15個の時がその後の妊娠率、出産率が最も高くなるとされています。

ところが、女性の年齢が高くなり、卵巣の機能が低下してくると、卵巣を刺激しても発育卵胞数も少なくなってきます。

一般には発育卵胞数が2個以下の場合をpoor responderとされていますが、その場合、そのまま採卵を行っても、相応の妊娠率が期待出来ませんし、2個か、1個の採卵しか出来ず、受精率やその後の分割状況次第では、移植できる胚が得られなくなったり、あるいは、1個の卵も採卵できなくなってしまったりして、治療をキャンセルせざるを得なくなるかもしれません。

そのため、負担の大きい採卵を行うだけのメリットがそれほど大きくないわけですから、もしも、卵管や男性側に問題がなければ、体外受精から人工授精に切り換えることがあります。

ただし、同じpoor responderでも、人工授精に変更する場合の目安として、発育卵胞数で治療成績を比較したのが今回の研究です。

その結果、もしも、発育卵胞数が1個であれば、体外受精でも、人工授精でも妊娠率、出産率ともに同じレベルなので、人工授精に変更すべきであると結論づけています。

ここで理解しておきたいのは、体外受精の成績は「移植あたり」ではなく、「周期あたり」であるということです。もしも、移植あたりで算出すれば体外受精のほうが高い妊娠率、出産率が得られているはずです。

発育卵胞数が1〜2個のpoor responderの場合、採卵できないことがあったり、1個か、2個の卵子が採卵できたとしても、その後、受精しなかったり、受精しても分割が止まったりして、移植できる胚を得られなかったりすることがかなりの確率で起こり得るからです。

今回の研究でも発育卵胞数が2個以下の184周期のうち、採卵できなかったのが29周期(16%)、移植迄進めなかったのが52周期(28%)、つまり、44%が移植まで行けていないのです。

そのため、移植あたりの妊娠率だけをみて、体外受精が最も有効な治療法であると理解すると判断を誤ってしまうことになりかねません。

もちろん、卵管が通っていなかったり、重度の男性不妊であれば、体外受精でしか妊娠を望めないわけですから、卵巣の状態に応じた刺激法で、たとえ、2個とか、1個しか卵胞が発育しなくても体外受精を続けるしかありません。

ところが、単に年齢が高いという理由で妊娠しづらくなっているケースでは、比較的AMH(アンチミューラリアンホルモン)値が高く、多くの卵胞の発育と採卵数が期待できるのであれば体外受精を積極的に検討する価値はありますが、もしも、1個しか卵胞が発育しなければ、体外受精でも、人工授精でも治療成績は変わらないわけですから、肉体的にも、経済的にもずいぶん負担の軽い人工授精を毎周期でも繰り返して行うほうが得策であると言えます。

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