メルマガ

VOL.797 喫煙と不妊症

2018年09月23日

____________________________________________________________________

 妊娠しやすいカラダづくり No.797 2018/9/23
____________________________________________________________________


今週の内容__________________________________________________________

・更新情報
・今月のトピックス:喫煙と不妊症:アメリカ生殖医学会委員会見解
・イベント&セミナー情報
・当社製品&サービス
・編集後記


今月のトピックス Sep. 2018_________________________________________

 喫煙と不妊症:ASRM a committee opinion
--------------------------------------------------------------------
厚生労働省は平成29年国民健康・栄養調査結果の概要を9月11日に公表しました。それによりますと、現在習慣的に喫煙している人の割合は男性では30代で39.7%、40代で39.6%、女性では30代で6.3%、40代で8.5%でした。この10年で減少傾向にはあるとのことですが、妊活世代の男性では依然として約4割も喫煙率です。

喫煙は生殖機能だけでなく、健康全般にマイナスの影響を及ぼすことは明らかで、禁煙するに越したことはありませんが、それほど簡単なことではないようです。特に、不妊治療を受けている女性から、パートナーの男性がタバコをやめてくれないという声を、度々、耳にします。

そこで、喫煙が妊娠する力にどのように影響を及ぼすのか、まずは、正しく知ってもらうために、今月号のアメリカ生殖医学会誌の9月号に掲載された「喫煙と不妊症:アメリカ生殖医学会委員会見解」のダイジェストをおおくりします。

■要約
◎女性の喫煙は妊娠力を低下させ、自然流産や子宮外妊娠のリスクを上昇させる。
◎喫煙は生殖機能の喪失を促進し、閉経を1年から4年ほど早める。
◎喫煙はART成績にネガティブな影響を及ぼし、喫煙女性は妊娠するのに非喫煙女性のほぼ2倍の治療回数が必要になる。
◎喫煙男性は非喫煙男性に比べて精液所見や精子機能検査の結果が悪く、それは本数が増えるほど悪化する。
◎副流煙や受動喫煙の害は立証されている。非喫煙者がタバコの煙を浴びることで喫煙者に匹敵する影響を受けるかもしれない。

■妊娠するまで長くかかる
タバコを吸うと妊娠まで長くかかります。

12の論文(被験者総数:喫煙女性10,988名・非喫煙女性19,179名)の結果を統合し、解析したメタ解析では、喫煙習慣のある女性はない女性に比べて不妊症になる確率が1.6倍高く、そこには本数が影響し、1日に20本以上になるとマイナスの影響が統計的に有意な差が生じるレベルになるとの報告があります。

実際、15,000人の妊婦を対象にした大規模研究で、喫煙女性では妊娠まで1年以上かかる人の割合がタバコを吸わない女性に比べて54%高かったとのこと。また、自分が吸わなくても、受動喫煙で妊娠まで長くかかることを明らかにしています。

■卵子が早く減ってしまう
タバコを吸うと卵巣内の卵子の減少が早くなります。

喫煙女性は非喫煙女性に比べて1から4年早く閉経することがわかっています。それは本数が増えるほど早くなります。そして、それにはタバコの煙に含まれる化学物質が関与していると考えられています。

そして、基礎FSH値は喫煙女性は非喫煙女性に比べて66%、受動喫煙女性は非喫煙女性に比べて39%高かったとの報告がなされています。

また、AMH値と喫煙の関連についても言われており、38-50歳の女性284名を対象にした研究では、喫煙女性は非喫煙女性に比べてAMH値が44%低かったと報告しています。

さらに、IVF治療周期における調節卵巣刺激に要した排卵誘発剤の量は喫煙女性のほうが非喫煙女性に比べて多かったとの報告もなされています。

このようにタバコは卵巣機能を年齢以上に低下させます。

◎精液所見への影響
タバコの精液所見に対するマイナスの影響についてはこれまで多くの研究報告がなされています。

男性の喫煙は精子数や運動能力、抗酸化能を低下させ、奇形精子を増やします。ある研究では喫煙男性の精子濃度は非喫煙男性に比べて平均22%少なく、喫煙本数が多くなるほど精子濃度が少なくなります。

そして、それは無煙タバコでも同様で精液所見の悪化と関連しました。

また、精子機能検査(ハムスターテスト)で喫煙は精子の受精能力を低下させることが示唆されました。

このようにタバコは精子をつくる働きや精子の機能を低下させます。

◎卵子の染色体異常
卵子や精子は喫煙のダメージに脆く、喫煙はそれらの染色体やDNAにダメージを与えます。

これまでの研究ではタバコは減数分裂紡錘体の機能を損傷させ、染色体異常の卵子が増えることが示唆されています。

タバコの煙には毒性のある活性酸素を大量に発生させ、精子DNAを損傷します。

◎流産
喫煙は自然妊娠においても、不妊治療による妊娠においても、自然流産を増加させます。

14-39歳の女性を対象にした研究は尿中のコチニンを検出することで喫煙の有無を調べたところ、喫煙は自然流産を有意に増やした。

ただし、流産胎児の組織中に喫煙の染色体異常の影響を調査したデータはそれほど多くないことからそのメカニズムは完全には明らかにされていませんが、血管収縮やニコチンや一酸化炭素、シアン化物などのタバコの煙の含有物の代謝拮抗性の物質が、胎盤の機能不全、胚や胎児の成育抑制、活動停止を引き起こしているかもしれません。

ただし、無煙タバコも流産リスクの上昇と関連することから、タバコによる可燃物以外の物質も流産の原因になっているかもしれません。

また、他の生活習慣の関与も疑われますが、タバコと子宮外妊娠との関連も同様に報告されています。

ある横断研究では1日に20本以上喫煙する女性は非喫煙女性に比べて子宮外妊娠のリスクが3.5倍高かったと報告しています。

ハムスターを用いた動物実験で、タバコの煙に含まれる化学物質がピックアップ機能や受精卵を運ぶ卵管の繊毛の運動を抑制することがわかり、喫煙が子宮外妊娠や卵管不妊の発生率の増加に寄与している可能性があります。

喫煙は妊娠中期の流産や早産を引き起こす細菌性膣症にも関連します。

◎一般不妊治療や高度生殖補助医療の成績への影響
PCOSの排卵障害への排卵誘発中の喫煙は出産率の低下に関連するという報告がなされています。

また、クロミフェンとレトロゾールのPCOS女性への有効性を比較したRCTの二次解析で、カップルともに喫煙者の場合、そうでないカップルに比べて出産率が80%低かったことがわかりました。ただし、男性、女性のいずれかだけが喫煙者の場合は有意な差は見られませんでした。


喫煙とART成績の関係を調べたメタ解析では、喫煙女性は非喫煙女性に比べてIVF妊娠率が34%低かったと報告しています。また、別のメタ解析では、非喫煙女性の初回の妊娠率は喫煙女性に比べて79%高く、このことは喫煙女性が妊娠するためには非喫煙女性のほぼ2倍の治療周期が必要になることを示唆しれいると報告しています。

また、221組のカップルを対象に、タバコの本数や頻度、喫煙期間とART成績の関係を解析した研究では、これまでに喫煙習慣のあった女性はなかった女性に比べて妊娠に失敗するリスクが2.71倍、出産まで至ることのできないリスクが2.51倍になることを見出しました。そして、喫煙期間が1年長くなるとART周期で妊娠に失敗するリスクが9%増加することもわかりました。

一方、卵子提供を受けたART患者を対象にした研究で、喫煙女性と非喫煙女性の妊娠率は34.1%、52.2%と、非喫煙女性で有意に高かったことから、喫煙は子宮内膜の着床環境にもネガティブに働き、ART成績の低下の原因になることが示唆されました。

これまでの研究では、喫煙は妊娠率や出産率だけでなく、さまざまな生殖プロセスにネガティブな影響を及ぼしていることが報告されています。

たとえば、排卵誘発に要する排卵誘発剤の量の増加やピークエストラジオールの低下、テストステロンの上昇、採卵数の減少、移植キャンセル周期の増加等です。また、喫煙のネガティブな影響は女性の年齢が高くなるほど強くなると報告されています。

喫煙による卵子の質の低下のメカニズムとして、卵胞液中に存在するタバコの煙に含まれる毒性物質の影響が考えられています。

有害金属カドミウムは卵巣毒性が知られていますが、卵胞液中の濃度は喫煙女性のほうが非喫煙女性に比べて高く、脂質過酸化反応は細胞内の酸化ストレスマーカーとして知られていますが、非喫煙女性に比べてIVF治療中の喫煙女性の卵胞液中により高濃度で存在します。同様にIVF治療の採卵時に吸引された卵胞液中のコチニン濃度も喫煙本数に相関します。

自宅での受動喫煙を浴びている全ての女性も卵胞液中に低濃度ではあるけれどもコチニンが検出されています。さらに、興味深いことに自身もパートナーもタバコを吸わない女性の84%に卵胞液中に検出されたことで、自宅外の職場環境等における受動喫煙が原因と考えられています。これらのデータは受動喫煙の潜在的な危険を知らしめてくれています。データは副流煙とIVF治療成績の低下との関連を示しており、妊娠率は非喫煙女性に比べ低く、喫煙女性に匹敵するほどです。

以上のようにARTでも喫煙による妊孕能の低下を克服することは困難です。

◎禁煙の影響
喫煙に関連する生殖のリスクや喫煙に関連する妊孕能の低下は禁煙後1年以内に解消されるかもしれません。

・文献)Fertil Steril 2018; 110: 611

--------------------------------------------------------------------
記事についての感想やご意見は下記のアドレス宛お寄せ下さい。
info@akanbou.com


イベント&セミナー情報____________________________________________

◎ヨガセラピー
10月13日 不妊治療をサポートするヨガセラピー実践講座
http://www.akanbou.com/seminar/20181013-4849.html


当社製品&サービス________________________________________________

・サプリメント:BABY&ME~新しい命のための環境づくり
 https://babyandme.jp/

・翻訳書:妊娠しやすい食生活
 http://www.akanbou.com/shoku/

・妊娠しやすいカラダづくり BOOK GUIDE
http://www.akanbou.com/bookguide/


編集後記____________________________________________________________

よい連休をお過ごしください!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
妊娠しやすいカラダづくり[毎週末発行]    VOL.797
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
お子さんを望まれるカップルの"選択"や"意志決定"をサポートします。
--------------------------------------------------------------------
不妊に悩むカップルが、悩みを克服するために、二人で話し合い、考えを整理して、自分たちに最適な答えを出すためのヒントになるような情報を、出来る限り客観的な視点でお届けしています。
--------------------------------------------------------------------
発 行:株式会社パートナーズ
編 集:細川忠宏(日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー)
サイト:http://partner-s.info/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◎発行部数
・自社配信: 1,474部
・まぐまぐ: 2,879部
・合計部数: 4,253部(9月23日現在)
--------------------------------------------------------------------
◎免責事項について
当メールマガジンの提供する情報は医師の治療の代わりになるものでは決してありません。プログラムの実行は各人の責任の元で行って下さい。プログラムの実行に伴う結果に関しては、当社の責任の範囲外とさせて頂きます。
--------------------------------------------------------------------
◎注意事項
読者の皆さんから寄せられたメールは、事前の告知なく掲載させていただく場合がございます。匿名などのご希望があれば、明記してください。また、掲載を望まれない場合も、その旨、明記願います。メールに記載された内容の掲載によって生じる、いかる事態、また何人に対しても一切責任を負いませんのでご了承ください。
--------------------------------------------------------------------
◎著作権について
当メールマガジンの内容に関する著作権は株式会社パートナーズに帰属します。一切の無断転載はご遠慮下さい。