ドクターにインタビュー

vol.24

子宮内膜症と不妊治療

桜井 明弘 先生(産婦人科クリニックさくら院長)

桜井 明弘

[3] 子宮内膜症と不妊治療 どのように妊娠を目指すべきか

細川)
それでは、子宮内膜症がある場合の不妊治療について教えてください。
Dr.)
まずは、既にお話したように、子宮内膜症は絶対的な不妊因子ではなく、相対的不妊因子です。
細川)
子宮内膜症だからと言って、不妊治療を受けなければ妊娠できないとは限らないと。
Dr.)
そうです。子宮内膜症の確定的な診断は腹腔鏡手術で直接観察することですから、もしも、生理痛などの自覚症状もなく、子宮内膜症でありながら診断されずに妊娠している女性も少なくないはずです。
細川)
はい。
Dr.)
また、元々、子宮内膜症による酷い生理痛があって、そのために子宮内膜症そのものの治療、たとえば、手術療法や薬物療法を受けていた女性が妊娠を目指すというケースもあるでしょう。
細川)
そうですね。
Dr.)
ですから、ここでは、不妊治療の通院をはじめて、超音波検査などの画像診断等で子宮内膜症が見つかったというケースを想定してお話しすることにします。
細川)
わかりました。
Dr.)
日本産科婦人科学会のガイドライン(2010)には、子宮内膜症が軽症で女性の年齢が30歳以下で、不妊期間が3年以下、他の不妊因子がなく、卵管癒着がないか、軽度の場合は3ヶ月から6ヶ月のタイミング療法を勧めています。
細川)
一般的な不妊治療と同じですね。
Dr.)
そうです。自然妊娠の可能性がありますからね。
細川)
はい。
Dr.)
ところが、軽症でも、30歳以上で不妊期間が3年以上であれば、タイミング療法は3ヶ月程度までにして、排卵誘発や排卵誘発を伴う人工授精を3〜4周期行い、それでも妊娠に至らなければART(体外受精や顕微授精などの高度生殖補助医療)へのステップアップを勧めています。
細川)
軽症の場合は女性の年齢と不妊期間でステップアップの時期を決めるということですね。
Dr.)
そうです。そして、重症の子宮内膜症の場合ですが、この場合、たいていチョコレートのう胞がありますので、それが3〜4センチ以上であればのう胞を摘出、または、切開/蒸散・焼却、すなわち、手術療法を推奨しています。
細川)
チョコレートのう胞が3、4センチ以上であれば手術だと。
Dr.)
はい、学会ガイドラインではチョコレートのう胞に対しては手術療法が標準的な治療になります。その上で、年齢が35以上で卵管癒着が高度の場合は手術後すぐにARTを勧めています。
細川)
要するに、子宮内膜症の程度やチョコレートのう胞の大きさ、そして、女性の年齢と不妊期間によって治療方針を決定すると。
Dr.)
そうです。ただし、最近は卵巣年齢(卵巣予備能)の目安とされているAMH(抗ミュラー管ホルモン)を測定し、AMH値に基づいて治療方針を決定することが一般的になってきました。
細川)
最近、よく耳にするようになりました。
Dr.)
その一方で、チョコレートのう胞を摘出することで卵巣予備能が低下するリスクがあることがわかってきました。
細川)
手術をすることで卵巣にダメージを与えるということでしょうか。
Dr.)
チョコレートのう胞を取り出す場合、みかんの皮を剥くように卵巣の表皮を電気メスで切開し、摘出後に縫い合わせます。その際に術者の技量にもよりますが、どうしても卵巣の正常の組織にダメージを与える場合があるということでしょう。
細川)
もしも、そのことで卵巣予備能が低下すれば、妊娠にはマイナスになりますね。
Dr.)
手術療法は子宮内膜症に対する最も有効な治療法で、疼痛(痛み)改善には有用なのですが、その後の妊娠に不利になる場合があると言わざるを得ません。
細川)
であれば、チョコレートのう胞があって、妊娠を目指す場合はチョコレートのう胞の取扱いには慎重にならなければならないと。
Dr.)
その通りです。そのため、当院の患者さんを対象にチョコレートのう胞の摘出術のAMH値への影響を調べ、卵巣チョコレートのう胞の新たな治療戦略を考えてみました。

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